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5 想定していても、悲しいものは悲しい

 ………………。

 ………………。


 意識が覚醒する。おはようございます。多分、おはようございます……だと思う。太陽が真上ではなく斜め横にあるから。多分、朝。……既に陽が落ち始めている、ということではないと思う。


 魔法で水を出して、喉を潤す。今のところ、体調の変化はない。安心できる水かどうかは、もう少し様子を見ようと思う。それよりも、変化がないのは体の方もだ。空腹感もないし、何故か体も汚れておらず、何より髪を触ってみたのだが、目覚めてから洗髪を一回もしていないのに、まったくべたついていないのである。


 それがどうしてなのか……は考えても答えは出な……いや、待てよ。知識の中の世界だと仏ではないが、ここが異世界であるのなら、何かしらの強化的な力が働いているのではないだろうか? 寧ろ、そちらの方が納得できるというか、可能性として高い気がする。裸足で歩いても足裏が痛くないのも、同じ理由ではないだろうか?


 そこで、ピン! ときた。「鑑定」はできなかったが、ステータス的なのはあるのではないだろうか? つまり――。


「ステータスゥ、オープゥン!」


 ……はい。何も現れませんでした。だと思ったよ。今のはやってみただけ。声に出した方が出るのでは? と思って実行しただけ。出ないことは想定内。そう、想定していた。……だから、ぐすん。悲しくないやい。


     ―――


 気分を変えて、今日はどうするかを考える。水については今のところ大丈夫だが、何かしらを口にした方がいいのは間違いない。第一候補は肉だが……あの耳がハサミのウサギをどうこうできるとは思えない。今は。何かしらの狩猟道具でもあれば別だが……待てよ。そうだ。魔法だ。魔法があるじゃないか。小さな火と水、どこか遠くで起こした雷の雨と、かなり振れ幅はあるが、その中間的な威力の魔法で、あのウサギを倒せるのではないだろうか。試してみる価値は……ある。なら、早速試してみよう。余力が感じられる内に行動だ。


     ―――


 昨日見かけた場所に向かう。その途中で気付いた。魔法で倒すと決めたのはいいが、本当に倒せるのだろうか? いや、以前使った雨のように降る雷であれば余裕だろう。でも、そこまでやるのは些か過剰というか、倒せたとしても食べられるような状態でなければならない。すべてが黒焦げでは意味がない。かといって、弱過ぎると今度は俺の身が危なくなる。適切な威力が必要だ。まずは、それを見極める必要がある。なので、今日は一旦偵察で、機会があれば、だ。


 前回の二の舞はごめんなので、できるだけ音を立てないように……ゆっくりと……。こそこそと進んでいくと………………居た。耳がハサミのウサギたち。いや、それだけではなかった。額の中心から太い一本角が飛び出ている、同サイズのウサギたちも居る。一本角は非常に硬そうだ。また、一本角のウサギたちの中には、額から飛び出ている角が三本もある大きなウサギも居て、それが群れのボスだろう。一応、ハサミと角という違いはあるが、それ以外は似たようなものなので、俺の中で分けるために、ハサミウサギ、角ウサギ、としておく。


 そして、ハサミウサギと角ウサギは争っている。縄張り争いだろうか? ハサミウサギは角ウサギを挟み殺そうと耳を動かし、角ウサギはハサミウサギを突き殺そうと角を突き出していた。動きはどちらもかなりアグレッシブで、周囲の木を使って三角跳びや、サイドステップでフェイントを仕掛けたり、回転しながら角を突いたりしている。そんな中、両ボスウサギはどんと構えていた。


 これは……あれだな。出直そう。さすがにいきなり一対多は無理というか、乱戦で俺のナニを守り切れる自信がない。まだ、失う訳にはいかないのだ。いや、まだ、ではなく、絶対に。


 なので、これは敵前逃亡ではない――と考えながら下がろうとした時、背後に気配を感じ取る。そっと視線を向ければ、四つ足を踏ん張って今にも俺に向けて飛びかかろうとしている角ウサギが居た。いや、飛びかかってきた。そして、瞬時に見抜く。角ウサギの角の角度から、狙いは俺の尻の穴だ。そこに角を挿にゅ――ぶっ刺そうとしている。角ウサギの目は、本気だ。本気で狙っている。不味い。このままだと俺の初めてが――と考えながらも体は死守するために動く。ごろん、と前転で回避。飛びかかってきた角ウサギが通り過ぎていくのが見える。


 上手く避けられた、と笑みを浮かべて周囲を見ると、ハサミウサギと角ウサギたちが争いを止めて俺を見ていた。


「……戦略的撤退!」


 反転しながら起き上がって駆け出す。ハサミウサギと角ウサギたちは俺を追ってきた。いや、そこは俺を無視して争いを続けて欲しかったところだが、それを口にしたところで通じないだろう。それに、どちらのウサギも速いのがそれなりに多く、ハサミウサギの方は横から俺のナニをちょん切ろうとしてくるし、角ウサギの方は俺の尻の穴を突こうとしてくる。言葉よりも呼吸だ。しっかりとした呼吸で全速力で逃げ――戦略的撤退である。


 ………………。

 ………………。


 どうにかナニと穴を死守して、どちらのウサギも襲いかかってこないところまで逃げ――戦略的撤退ができた。もう怖い。あのウサギたち。


 一旦、拠点とした場所に戻ることにした。

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