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49 時に変わらぬ態度というのは救いである

 事務職の女性を人質に取っている兵士が剣を抜く。その切っ先は人質に取っている事務職の女性へと向けられた。


「いいか? 既にこの町は我々グレッサア王国が占拠したと言ってもいいのだ。ここからこの町がどうなるか、無事でいられるかは我々の機嫌次第。それなのに、冒険者共は我々の機嫌を損ねたいらしい。何やら反乱を企てているとか? 残念だったな。情報は挙がってきているぞ、冒険者共。それ故に、見せしめを行うことになったのだ」


 事務職の女性の一人を人質に取っている兵士が、自分の優位性を示すように言った。他の兵士たちもニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。……なるほど。そういう状況な訳か。わざわざ説明をどうも。でも、そうなると、他の場所でも似たようなことが起こっているかもしれない。それはマニカさんたちの話し合いでも出ていた話である。なら、冒険者ギルドで数と戦力を手にしたあとは作戦通りに――と考えていた間に、冒険者ギルドの中の事態は、当然だけど進んでいた。


 事務職の女性を人質に取っている兵士が、その事務職の女性を見て、嘲るように言う。


「しかし、これは外れか? 冒険者ギルドの受付嬢は美人ばかりと聞いていたが、これはとびきり可愛いでもないし、見せしめるにしても楽しみ甲斐がないな」


「ハハハ。なんだったら、こっちに居る誰かを交換するか? こっちに居るのは選り取り見取りだぜ」


 事務職ではなく受付嬢だったようだ。それと、相手側の兵士たちは品位がない。相手側の国の印象は俺の中でもう最悪だ。それは冒険者たちも同じようで、激烈に憤った反応をする。


「ふざけるな! ローラちゃんが可愛くないだと! それはお前の目が節穴なだけだ!」


「そうだそうだ! ローラちゃんは可愛い! とびきり可愛い! 俺たちの女神だ!」


「ローラちゃんだけは、他の受付嬢たちとは違って、俺たちが純潔を奪われようが、いちもつを失おうが、変わらぬ態度で接してくれる!」


「それがどれだけ俺たちの心を救うか! お前にわかるか!」


「ローラちゃんの『いってらっしゃい』の笑顔で、俺たちは頑張れるんだ!」


「ローラちゃんに手を出してみろ! 殺す! 絶対殺す!」


 う~む。ローラという受付嬢はかなり人気のようだ。純潔を奪われても、いちもつを失っても、か。それは確かに心の拠りどころとなってもおかしくない。だから、冒険者たちからの兵士に向ける殺意が濃厚濃密になるのも納得だ。だが、それは悪手。兵士は冒険者たちを馬鹿にしたような目で見たあと、気持ち悪い笑みを浮かべる。


「そうかそうか。つまり、見せしめとして充分に効果を発揮する訳だな、これが。それなら楽しみ甲斐があるってもんだ」


 何をしようとしているのかは考えるまでもないというか、下衆なことだろう。その証拠に、兵士は腰を前に突き出すような姿勢を取った。それに他の兵士たちが笑い声をあげるが、それを見る気もさせる気も、俺には一切ない。同じ窓で状況を見ていたマニカさんに声をかける。


「ちょっと見てられないので無力化してくる」


「え?」


 返事を聞く前に転移で冒険者ギルドの中――ローラという受付嬢を人質に取っている兵士の目の前に、俺は姿を現す。


「どうも」


「は? え?」


 兵士が戸惑っている間に、ローラという受付嬢に向けている剣の握手に俺の手を置く。個別認識するのなら直接触れていた方が正確だから、嫌だけど仕方ない。


「さよなら」


 一声かけて、触れた兵士だけを転移魔法で飛ばす。ローラという受付嬢だけを残して兵士は消えた。他の兵士たちも「は? え?」と似たような反応を示す。理解が追い付いていないようだ。その間に転移して、触れて、転移で飛ばして、転移して――を繰り返して、冒険者ギルド内に居た兵士たちを全員転移で飛ばした。


 そこで、マニカさんたちが冒険者ギルド内に駆け込んできた。


「加勢しま………………あ、あれ? グレッサア王国の兵はどこに?」


 キョトンとするマニカさんが可愛らしく見えた。いや、間違いなく可愛らしい。その証拠に、メリッサさんが何やらご満悦な表情でマニカさんを見ているからだ。そのメリッサさんが俺を見て、グッ! と親指を立てる。多分、相手側の兵をどこかにやって受付嬢と冒険者ギルドを救ったからではなく、マニカさんの可愛らしい表情をよくぞ引き出しました、という意味だろう。そんな気がする。


「転移で飛ばした。正確な位置はわからないけれど、森のウサギたちをよく見かける場所に」


 これで少しはここの冒険者たちの気持ちを知ればいいと思っていると、自身が助け出されたことに気付いたローラという受付嬢が俺に頭を下げる。


「あ、あの、助けて頂き、ありがとうございます。それで、あの、良ければお名前を」


 俺を見るローラという受付嬢の顔は赤い。答えるより前に、先ほどの兵士に向けたものより極密極濃の殺意が冒険者たちから向けられたことに反応する。


「ヘイヘイヘイヘイ……誰かは知らねえが、あんた、今、俺らの逆鱗に触れたよ?」


「助けられた感謝はある。だがしかし、それだけは駄目だ。許されない……ああ、許されないとも!」


「痛殺死呪獄……女神よ。女神が女神であるために、人を殺める私を許し給え」


 ………………これから協力をお願いするつもりだが、断られそうな気配である。

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