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44 気遣っているつもりでも、受け取り方次第で違う時もある

 ラオルに運んでもらう。ラオルの背に乗ることを俺は一度経験しているし、ラオルとは仲良くなったので特に気にするようなことはないのだが、マニカさんたちは違うようで、終始ガチガチに緊張しっ放しだった。大丈夫だから、と声をかけたが聞こえていたか怪しい。


 ラオルが「この辺りでいいか」と森の端がなんとなく見える位置に着陸したあと、マニカさんたちはラオルの背から降りると全員膝から崩れ落ちた。怖いよりも畏れ多かったと口々に言う中、誰かが「これが所謂玉ひゅん」と口にしたのが聞こえる。何故その言葉を知っている? と思うと同時に、いや、付いていないでしょ、とも思った。


「では、またな、スロースよ」


「ああ、またな、ラオル」


 手を振ってラオルを見送った。次は畑で。マニカさんたちも反応しようとしたが、それだけの気力はなかったようである。


     ―――


 マニカさんたちが回復するまで待ってから、移動を開始。進む方向はマニカさんたちも確認できていたようで、まずはこの森から出ることを優先する。警戒は怠らない。ここはまだ森の中。俺の純潔を狙う魔物が現れる可能性が大いにある。


 ………………。

 ………………。

 魔物が現れることなく、森の外に出ることができた。ホッと安堵する視界には、葉の短い広々とした草原と少し先にある道が映る。森沿いを走る道は獣道ではなく、しっかりと踏み固まれた道だ。多分、街道の類だと思う。マニカさんたちがその道を確認して、森の位置や方角を調べ始め、ある程度の現在位置を割り出す。


「方角的に、あちらに進めばフロンの町に着きます」


 メリッサさんが指し示した方向に進んでいく。メリッサさんによると、頑張れば今日中に着くそうだ。相談の結果。頑張ることになった。いや、俺は相談していない。


 ――頑張ることになりましたがいいですか?(圧)

 ――はい。


 と最終確認だけ。相談していたのはマニカさんたち。体力的な面で相談していたのかな? と思ったが食事はしっかりとっていたので体力は問題ない。では、何を相談していたのかというと、服に関してだ。正確には薄着というか下着というか。


 俺は見ていないというか、見ないようにしていたが、マニカさんたちは大きな湖を使って手洗いで洗濯をしていたらしい。つまり、その間はノーブラノーパン……いや、それは俺も同じか。下着履いてないんだよね、俺。だから、「俺もノーパンだから、皆がノーパンでも気にしないよ」と一声かけて気遣った方がいいかもしれないと思ったが、言えば最後。引かれるなら軽い方で、最悪逮捕で騎士団による肉体言語による厳しい取り調べになる可能性もある。……口を閉じておいた。


 ともかく、下着の洗濯はしていたのだが、所詮は水洗いのみ。洗剤なんてない。だから、一刻も早く町に戻って洗う、もしくは履き替えたい、と。俺は水洗いでも充分なのだが、マニカさんたちからすれば許容できないようだ。曰く、頑張れば手にできるのなら我慢せずに頑張る、と。


 そんな感じの相談というか意思確認だった。別に聞き耳を立てていた訳ではない。距離もあった。ただ、聞こえてしまったのだ。それだけ。他意はない。


 結果。俺は最終確認を否定せず、了承して頑張ることになった。マニカさんたちから切実さを感じたので仕方ない。そして、何を頑張るかというと、歩いて向かうのではなく、頑張って走って向かうという力技だった。体力が持てばいいな、と思う。


 一本道ではあるが道案内の意味も込めて先行するメリッサさんたち。マニカさんは俺が付いてきているかどうか、疲れていないだろうか、と確認するために、俺の近くで走っている。ただ、若干の距離があって、真横とかではないのは、多分汗の臭いとかを気にして、だと思う。別にそうだとしても汗臭いとか口にはしないし、寧ろその方がいいとか言うつもりもないので、気にしなくてもいいのだが……譲れないものがあるのだろう。きっと。だから触れないでおく。


 しかし………………これ、短距離走ではないよね? 長距離走だよね? そんなに急ぐ必要ある?


 そう問いかけたくなるくらい、先行するメリッサさんたちの足は速かった。俺とマニカさんもしっかりとそれに付いていっているにはいるが……これが普通の速度なのかどうか、俺にはわからない。心情的には普通ではない気がする。


 でも、このままでは持たないと思う。俺ではなく、メリッサさんたちが。呼吸が荒くなっていっている。マニカさんも少し苦しそう。俺は平気。全然余裕。……「大罪持ち」かもしれないからだろうか?


 まあ、何にしても、このままだとマニカさんたちが潰れそうだ。どうにかしたいところだが、どうにも……いや、待てよ。魔法でどうにかできないだろうか? 俺が先行して転移するとか……でも、もし先行して道を間違えたら? ……駄目だな。別の案を考えよう。


 走る……走る……走るから疲れる。当然のことだ。なら、走らなければいい。それなら疲れない。でも、それは疲れない代わりに移動時間が大幅に増えることを意味する。つまり、走らず、時間もかからない移動方法……う~む……そんなのあるか? やはり転移で飛ぶのが一番……いや、待てよ。飛ぶ? つまり、飛行? 飛んでいけばいいのだ。魔法でどうにかできるだろうか? 


 走りながら試してみる。


 雷の魔法の時のように、やろうと思えばできるはず……感覚を頼りに……イメージを膨らませ……できた。数センチ浮いて進んでいる。しかし、浮いているのに走るのは変だ。寝そべって、低空飛行で移動してみる。おお、楽。なんか楽しい。


 でも、これ、アレかな。「大罪持ち」だからこんな簡単に魔法でどうにかできるのだろうか?


 そう思っていると、こちらの様子を見たマニカさんが驚きの表情を浮かべて「えっ!」と声を上げる。その声に反応してメリッサさんたちもこちらを見た。少し視線を交えたあと――。


「「「「「それはズルい!」」」」」


 大丈夫。わかっているから。


 俺の魔法でマニカさんたちを浮かせて、低空飛行で進んでいく。

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