43 その時にそういえばそうだったと思い出す時もある
俺がラオルと話している間に、マニカさんたちが正気に戻った。
「竜の森の主であるあなたさまとお目通りできたこと、恐悦至極でございます。竜の森と接する国の一つ、セブナナン王国の第二王女であり、第三騎士団の団長を務めます、マニカ・セブナナンと申します」
ラオルに向けてマニカさんが跪き、メリッサさんたちもそれに続いた。マニカさんたちは、ラオルに対して畏れ多いという感じだ。
それを見て、俺はラオルを見る。
「え? ラオルって有名な竜なの?」
「まあ、昔の話だな。昔は調子に乗る者が多くてな。考えなしに近寄られて畑を荒らされる訳にはいかないからな。近付かないように相手をしている間に、色々とな」
なんか若気の至り的な雰囲気があった。興味はあるが、聞いても答えてくれるかどうか。酒が入ったら、こちらから聞かずとも自ら語ってくれそうだけど。
森の外に出たら酒も探すかと考えていると、ラオルがマニカさんたちに声をかける。
「まあ、そう硬くならなくても良い。敵意や悪意がなければ、我の方からどうこうするようなことはないからな」
「ありがとうございます」
「その代わり、スロースのことを頼むぞ。スロースは我が友だ。場合によっては我が出ることもある。そのことを努々忘れぬようにな」
「「「「「はっ!」」」」」
ラオルから友と言われたのは嬉しいが、そのラオルがこの森から出るような事態になったら大変なことになりそうだと思った。
―――
特に準備するようなことはない。服はこの一張羅しかないし、何か持っていくようなものもない。当然、女性用下着は持っていかない。持っていける訳もない。女性たちと同行しながら手には女性用下着とか……そんな高度なプレイは求めていないからだ。タンスの中に仕舞っておくのが無難である。それに、転移でいつでも戻って来られるのだ。着の身着のままで十分である。
なんで、俺の準備はいつでも万端。ただ、マニカさんたちはそうではないというか、寝泊まりしていた管理人小屋のリビングに忘れ物がないかとか、少しばかり確認事項がある。その間に、俺とラオルは畑に行き、水やりや雑草抜きとか、そういうことを行った。
その中で、ふと疑問に思うことがあったので尋ねる。
「ラオルは知っていたんじゃないか? 俺が『大罪持ち』かもしれないって。だから、俺の名前を考える時に『怠惰』を意味する『スロース』を提案したんじゃないか?」
「そのことか。その通りだ。ただ一つ訂正だな。『大罪持ち』かもしれないではなく、お前は『大罪持ち』なのだ。人のように曖昧な感覚ではなく、はっきりと判別できる。『大罪持ち』が他の『大罪持ち』を察するようにな」
「え? ということは、ラオルは『大罪持ち』なのか?」
「いいや、違う。まあ、他の『大罪持ち』を知ってはいるが、それが理由ではない。強いて何かしら理由を付けるのなら、それは我が竜だからだ」
竜だから。まあ、そう言われたら、そうなんだと思うというか、人より感覚が鋭敏なのかもしれない。となると、「大罪持ち」が他の「大罪持ち」をわかるというのは、同じように感覚が鋭敏だから?
………………どうしよう。「大罪持ち」は感度何千倍とかだったら。恐ろしいことになりそうだ。今そんな感度ではないが、後々そうならないことを切に願う。
―――
畑の管理が終わると、ラオルと共に管理人小屋に戻る。マニカさんたちの準備は終わっていた。
「それじゃ、ラオル。行って来るよ。森の外へ」
「うむ。行ってこい。だが、畑の管理、忘れるなよ」
「わかっているって。毎日転移で戻るから」
それならいいとラオルが頷き、「それじゃ、行こうか」とマニカさんたちを見れば……なんとも言えない表情を浮かべていた。
「えっと、どうかしました?」
「あの、その……この、さあ出発という時に言うべきことではないというのは理解しています。ですが、このタイミングで思い出したといいますか……」
マニカさんは言いづらそうだ。でも、それは他の四人もそう。申し訳なさそうという感じもするが、何が言いづらいのかは結局聞かないとわからない。「一体何を思い出したんですか?」と尋ねれば、マニカさんが意を決したような表情を浮かべて口を開く。
「私たち、ここには迷った末に辿り着いたのです。ですので、ここからの帰り道がわかりません。フロンの町にどう戻ればいいのか……」
………………。
………………。
「ああ、なるほど」
それは……うん。俺もどうしようもないな。どうしたものか。道なんて知らない。でも、そんな俺とマニカさんたちの状況をどうにかできる者を知っている。
俺はラオルを見る。
ラオルは大きく息を吐く。
「はあ……見てられんな。我が近くまで送ってやろう」
ありがとうございます。お願いします。と頭を下げる。ちらりと横を見れば、マニカさんたちも同じように頭を下げていた。




