42 だって目が向いてしまうんだから、仕方ないじゃないか
水色の髪の女性から俺が「大罪持ち」の可能性があることを聞かされたあと、「我が国の方で『大罪持ち』のどなたかとお会いできる機会を設けますので、よければ王城の方へ来て頂けませんか?」と提案される。ピンときたので、「いいよ」と言いたくなったが、さすがにそれは言えない。今の俺の立場は、ラオルの畑の管理人である。もし、森の外に出るとしても、ラオルに話を通すのが筋というものだろう。
「行ってもいいけれど、まずは話をしておかないといけない方が居るから、それ次第なんだけど……それまで待ってもらってもいい?」
「もちろんです」
水色の髪の女性が了承して、他の女性たちも頷く。そういうことになった。
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それから、ラオルが来るまで、女性たちは管理人小屋のリビングで寝泊まりしてもらうことにした。他に寝泊まりできる場所がないので仕方ない。まあ、女性たちはここで休憩したいと要望していたし、それが叶ったのだから問題はないだろう。でも、寝具の類がないけれど大丈夫か不安になったが、屋根があるだけありがたい、と返された。実際、特に気にした様子はない。騎士って逞しいな。
いや、ここは正直に言おう。ありがとうございます。もちろん、口には出さない。変に思われるのは嫌だからである。でも、内心では声高々に叫ぶ。ありがとうございます。
何に感謝しているとかというと、華やかさに、だ。一気に人が増えただけではなく、全員見目麗しい女性たちときた。さらに、ここが安全だとわかったからか、鎧を脱ぎ、薄着で過ごす時もある。目に嬉しい世界が広がった。さらに、お風呂はもう使えるので風呂上りや、近くの大きな湖で水浴びをしたりしたあとなど、薄着がぴったりと張り付いて体のラインが出ている時なんかは、もう……本当にありがとうございます。
寧ろ、バレないように盗み見るのに苦労するくらいである。大丈夫……だよな。バレていないよな。そう信じたい。もしくは、バレていたとしても、敢えて見せてくれているのかもしれない。なんてサービス精神旺盛なんだ。それが「大罪持ち」による影響力なら……俺、「大罪持ち」で良かったと心から思う。いや、まだ確定ではないけれど。
あと、ラオルを待っている間に、少しだけ仲良くなった。俺は自分の名前とした「スロース」を伝え、水色の髪の女性が「マニカ」で、青髪の女性が「メリッサ」という名前なのは判明した。ついでに、メリッサさんはマニカさんの副官であることも。他三人の女性は一歩引いているのか、マニカさんとメリッサさんほど接点はないので、まだ名前は判明していない。もう少し仲良くなりたいものだ。……一緒に大きな湖で水浴びでもする? いや、やましい気持ちは一切ないよ、うん。親睦を深めたいだけ。それだけ……いや、本当はちょっと、そういう気持ちもある。ほんの少しだけね。
だって、仕方ないじゃないか。今この場に男性が一人で女性が五人居る。端から見ればハーレムだ。少しくらいそんな気持ちを抱いても仕方ないと思う。偶にタンスの中にある女性用下着を見て気持ちを落ち着かせるくらいは許して欲しい。
あと、人が増えたので食事の方が大変だったが、野菜はある程度あるし、マニカさんたちも狩りで肉を用意できるのでどうにかなった。
そんな日々を過ごしていると、ラオルがやってきた。
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「スロースよ。これはお前のための管理人小屋でもあるから好きに使ってもいい。どこからか迷い込んだか連れてきたか知らないが、ハーレムを築こうが自由だ。だが、ここは我だけではなく、後々妻と娘も使う予定がある。どうか、その時は節度を持ってくれ。頼んだぞ」
ラオルが来て早々そんなことを言い出した。違う違う、と即否定。マニカさんたちの方からも誤解だと言って欲しかったが、俺の雷の魔法を見た時以来の硬直具合なので期待できない。ラオルが竜であることに驚いたのかな? 言っていなかったかな? ……言っていなかったな、うん。まあ、その内に正気に戻るだろう。
その間にマニカさんたちが何故ここに居るのか、その目的も含めて現状をラオルに説明する。
………………。
………………。
「……という感じで、ラオルが来るのを待っていたんだ」
そう締めくくると、ラオルはなるほどと頷く。
「迎えが来たのか。それで、スロースとしては行ってみたいと?」
「ああ。ちょっと興味が出たから。それに、魔道具の勉強もできるかもしれないし、管理人小屋にも彩りが欲しいからな。そういうのを手に入れたくなった。あっ、もちろん、それでラオルの畑の管理を怠るなんてことはしない。転移できるからな。朝とかに一旦戻って畑の水やりとかしようと思っているんだけど、行ってみてもいいか?」
「いいぞ。我も最近は数日置いて来ているし、気にするな。それに、我だけでこの小屋の小物を用意するのは限界があるからな。スロースがどのような彩を添えてくれるのか、楽しみだ」
「ありがとう。彩りに関しては、俺のセンスが優れていることを期待しておいてくれ」
「その時は、誰か他の者を頼れ」
そうすることにする、と苦笑を浮かべた。




