4 寝床は大事
拠点に戻りながら、掴める、握れるくらいのほど良い太さと、少し長い枝を拾っていく。焚き火にも使うが、他にも使い道があるからだ。その途中で、妙な場所を見つけた。どういうことだ? と確認しに行く。
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うん。間違いない。見つけたのは畑。それもキャベツ畑。いや、見た限りだと普通のキャベツではなく春キャベツっぽい。ということは、今は春? まあ、それはわからないが、畑自体は……サッカーフィールドの半分くらいだろうか。というか、え? おかしくない?
ここは森の中。長耳がハサミみたいなウサギが居るのなら、他にもそういう生物が居てもおかしくない。居るのが普通だ。そんな場所なのに、春キャベツ畑がこうして何事もないようにあるのは変だ。柵すらない。普通、食い荒らされているものではないだろうか? 周囲の状況を考えれば異常である。
……もしかして、春キャベツのように見えて春キャベツではない? 実は致死性があるくらい危険だとか? もしくは、そこらの生物では手出しが許されない生物の縄張りとか?
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バッ! バッ! と周囲を確認。……ふう。それらしいのは居ない。でも、危険な感じがするので、手を出さずに拠点へと帰った。
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気分を変えて、本日からの寝床を作ろう。
昨日はいつの間にか寝ていた。どこに? そう、地面の上に。固い固い。体バッキバキになって疲れが取れ……あれ? そういえば、バッキバキになってないな。いや、今だけ今だけ。若さの力……若いかどうかもわからないけれど。今日は違うかもしれない。それに、気持ちの問題もある。何しろ、大体人生の三分の一は睡眠だ。寝具にこだわって損はない。寧ろ、こだわるべきだ。まあ、今はこだわるだけの選択肢はないが。ともかく、昨日のような寝方はさすがにきついので、少しはマシになるように頑張る。
という訳で、デブリハットを作る。デブリハットとは、3本の枝を支柱にして三角錐を作り、そこに細い枝を引っかけて、さらに屋根代わりの落ち葉を被せていったものである。保湿性抜群の休憩所だ。手慣れた人だと割と簡単に手早く作れるのだが、知識はあっても焚き火一つ熾せなかった俺は素人。落ち葉も集めないといけないので、思ったよりも時間はかかったが……諦めず、不格好に見えなくもないものを作った。どうにか1人が横になれるくらいのができて、俺の中では上出来の部類である。ないよりはマシ、野晒しよりはマシ、地面の上よりはマシ、と余った落ち葉を中に敷く。余った枝は焚き火に使うことにした。
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夜。焚き火を熾し、デブリハットの中に足から体を入れて横になる。これ、頭から入ったら、三角錐の頭を持つ人が倒れているように見えなくもないな。まあ、それはいいとして、やはり真っ裸なのが気になる。衛生的な意味でも。それと、一つ気になることがある。俺自身のことについて。これで大体2日経った訳だが……空腹感がまるでないのだ。ついでに、水は魔法でどうにかできているので問題ないが、何も食っていないのに疲労感もまるでない。つまり、肉体的疲労感がないのだ。精神的な疲労感はある。でも、それだけ。どう考えてもおかしい。
おかしいと言えば、非常に今更だが、傷の類も一切負っていないのだ。あの耳がハサミのウサギから裸足で逃げまくっていたのに。枝とか石とか踏みまくったと思うのだが無傷っておかしくない? 魔法が使えることといい、どういうことだ? 人ではなくなってしまったのだろうか? 思わず自分の体を見る。普通の人の体だ。手足が獣とか、羽が生えているとか、そういったことはない。
本当に訳がわからない。自分がなんなのか。どうなっているのか。何故このような状況に陥っているのか。謎ばかりだ。謎が謎を呼んでいる。……なんかそれは違うか。ともかく、少しずつでもいいから疑問を解決していきたい。大きな目標はそれだろうか。小さな目標は、やはり日々の暮らしだ。特に食料。今は平気だが、それがいつまでかわからない。下手をすればいつまでもかもしれないが、それすらわからないのだ。必要な時にないでは困る。食料を手に入れる、集めることは必須だが、そもそも何が食料になるのかわからない。手に入れて、集めたところで、それが食料ではありませんでした、では困るのだ。どうしたものか。
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駄目だ。何も解決策が思い付かない。というか、魔法があるのなら、それでどうにか判別できればいいのに。たとえば……そう。鑑定できるとか………………いやいや、まさかね。そういえば試してなかったが……ねえ。そんな……うん……うん……う~ん。ものは試しか。駄目でも誰も見ていないし、恥ずかしくない。
焚き火用に残していた木の枝を手に取り、「鑑定」と口にしてみる。
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何も起こらない。だと思った。
……ふて寝した。