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37 サイド セブナナン王国 6

 時は少し遡って――。


     ―――


 調査組が竜の森の調査という名目で人探しを始めてから、凡そ一か月が経っていた。成果は挙がっていない。ただ、だからといって事を急いている訳ではない。元々、確証はないのだ。可能性が高い、というだけ。


 だから、調査組は誰も焦っていない。どの班も慎重に竜の森の調査を行いつつ、探索範囲を広げている最中である。森の中で野宿をすることもあるが、定期的に拠点としているフロンの町へと定期的に戻り、どの辺りが危険か、あるいは安全か、野宿に向いている場所は、といった調査で得た情報を細かく報告して、情報共有を行っていた。決して無理はせず、余裕を持って動いているため、多少の怪我はするが、調査組は未だ死傷者ゼロである。


 もちろん、純潔を奪われた、なんてこともない。どこかから派遣されてくる男性集団は例外だが。


 そして、一か月も調査を行ったのだ。その成果として、調査組はフロンの町から入った際の竜の森の広範囲を地図化することに成功した。


 だが、未だ目的の人物は発見できず。


 それはつまり――。


「もっと深い部分にまで入らないといけません」


 マニカは竜の森の奥へと進む決断を下した。


     ―――


 これまで以上に慎重を重ね、入念に準備をして、調査組はどの班も竜の森の奥へと向かう。奥に進むということは、戻るのもそれだけ時間がかかるということ。必然的に野宿が多くなる。マニカはどの班にも無理はしないように、非常時は直ぐに撤退するように、ということを徹底させた。もちろん、第一班(自分のところ)も。


 第一班が何日もかけて、さらに深いところまで進んだ。しかし、成果は未だない。それで焦りはしないが、マニカは少しだけ……ほんの少しだが、ある懸念があった。それが行動に表れていたのか、副官のメリッサが第一班の三人に周囲の警戒を任せて、マニカに声をかける。


「マニカさま。そろそろ一旦戻りましょう。ペースが少し乱れているようです」


「ペースが……私の? 乱れて?」


「はい。副官として間違いありません。マニカさまご自身が自覚していないのは、少し問題ですね」


「そうですか……乱れて、いましたか」


 マニカは意識的に大きく深呼吸をする。そこで初めて、マニカは自分が少し疲れているような、そんな感覚を抱く。竜の森の中を進むということで神経を尖らせていた――だけではないことを自覚する。深呼吸で冷静になり、懸念していることが今の疲労感に影響していることを悟ったのだ。


 メリッサは、マニカが何を気にかけているのかについて、ある程度の予測が立っていた。


「マニカさまが気にかけているのは、セブナナン王国がグレッサア王国に対してどう動いているのか、その情報がない、あるいは届いていないことではありませんか?」


 メリッサのその問いにマニカは驚きつつ、隠し事はできませんね、と苦笑を浮かべる。


「はい。その通りです。『天の怒りジャッジメント・サンダー』が起こってから、凡そ二か月が経っています。ですが、その間にグレッサア王国が再び侵攻を始めた、という報告はありません。噂話ですらないのです」


「そうですね。私もそういう話は一切聞いていません」


「それが、既に侵攻は起きたが迎撃済みで報告するまでもなく、私たちを王命に集中させるために敢えて情報を伏せたのか……もしくは侵攻は起こっていないということも……ともかく、グレッサア王国がこのまま大人しくしているとは思えません。私は今、この状況が嵐の前の静けさのように思えて仕方ありません」


「……なるほど。嵐の前の静けさ、ですか……」


 そう言われれば、そのように捉えられますね、とメリッサが同意するように頷く。合わせて、第三騎士団・団長としてだけではなく、セブナナン王国の王女としても、と二重で懸念を抱いているのなら、それは動きに影響も出るだろう、と納得もした。そして、提案する。


「では、一旦フロンの町へと戻り、その辺りがどうなっているのか調べましょう。私も気になっていますし、杞憂であっても構いません。それでマニカさまの気が晴れるのなら」


「……構わないのですか?」


「問題ありません」


 それでマニカさまの懸念がなくなるのなら、とメリッサは一礼する。マニカはもう一度大きく深呼吸をして、決断を下す。


「わかりました。今はその好意に甘えさせてもらいます。第一班、一度フロンの町に戻ります」


「「「「はっ!」」」」


 第一班は来た道を戻る。急いではいない。いけない。ここはまだ竜の森の中なのだ。慎重に戻っていく……が、その途中。まだ竜の森の奥に位置する場所で、第一班の前に六本脚の鹿の魔物――魔鹿が現われて、立ち塞がった。

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