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31 候補がたくさんあると一つに絞るのも難しい

 青い竜と協力して管理人小屋を建て始めてから数日が経ち……さらに数日が経った。未だ完成はしていない。木材が足りなくなったとか、釘が足りなくなったとか、ではなく、途中で間取りの変更があったからだ。変更を願い出たのは俺ではない。青い竜の方からだ。


 変更したい部分というのは、元々予定していた青い竜の部屋を拡張したいというものと、そことは別にもう一部屋追加したい、というものだった。もちろん、どういうことですか? と問い質した。正当な理由があるのなら、応じるのも吝かではないからだ。まだ修正ができる段階だったし。


「いや、我の妻がな、管理人小屋の間取りを見せると、もう少し広い方がいいと言われてな。追加する部屋の方は、娘が一人部屋じゃないと行かない、と言い出して」


 ……なるほど。青い竜は妻帯者というだけではなく、既に子持ち――娘持ちであったか。……くっ。負けた気分になるな、俺。一人、万歳。


 そこで俺は気付く。未来が見えた。これはアレだ。青い竜が妻と娘と一緒に来た時に、きっと青い竜と妻は仲睦まじい夫婦だろうから、青い竜は妻と居る時間が多くなって、娘が一人? 一頭? 一竜? で居ることが多くなるのは間違いない。そこで俺の登場だ。他に誰も居ないのだから、俺は青い竜の娘と共に過ごすことが増えて……そして、異種族の壁を超えて仲良くなり……青い竜が妻と自室に居る時、娘は俺の部屋で――なんてこともあるかもしれない。いや、あるか? ない? いやいや、希望を持つことは止められない。ある、とフラグを立てておこう。本当に立ったかは知らないけれど。


 ともかく、正当な理由だったので応じる。作業量が増えることになったが、まだ許容範囲だ。


 そうして、青い竜と共に頑張る。何より、青い竜とは管理人小屋を共に建てるだけではなく、作業中に会話を楽しんだり、狩りを共に行い、魔法についても指導を受けて……としている内に、丁寧な言葉遣いや態度でなくてもいい、最早我らは友だ、とまで言われるくらい仲良くなった。


 そうして仲良くなったことでわかったことの一つに、青い竜の名がある。


「『青竜』や『ブルードラゴン』などと呼ばれることが多く、それはまあ別にいい。所詮はその他の知らぬ者共がそう呼んでいるだけだからな。だが、お前は友だ。友には名で呼んで欲しい。実際は長ったらしい名ではあるが、長い名などは呼ぶ時に面倒でしかない。だから……そうだな。『ラオル』。うむ。我のことは『ラオル』と呼ぶが良い」


 という感じで、青い竜のことは改めてラオルと呼ぶことになった。言葉遣いもここから普段通りに戻す。それはいい。ただ、それで俺も名乗ろうとして気付く。そうだ。記憶がなくて、名もないのだ、と。いや、実際はあるかもしれないが、思い出せないのなら、ないも同然。


「俺には名がない。記憶がないからだ。だから、俺の新しい名を一緒に考えてくれないか?」


「そうだったな。いいぞ。では、『人間』はどうだ?」


「それは種族名だな」


「『管理人』」


「それは役職」


「『我の友』」


「いや、誰の? てなる」


「『一号』」


「なんの?」


「では『七号』」


「一から六はどこいった?」


「『おい、そこの』」


「呼んだ?」


「『いきる』」


「色んな意味があって特定できなくない?」


「『ああああ』」


「世界観が台無しになるから却下。というか、そのネタ通じるの?」


「『極楽院(ごくらくいん) 天獄(てんごく)』」


「俺の魂の真名をどうして知っている!」


「『降り注ぐ破滅の星デストラクションスター』」


「魔法名? 二つ名? でないと痛いやつって思われない?」


 ラオルが腕を組む。


「……むう。わがままが過ぎるぞ」


「ええ、まさか今のやり取りでそんなことを言われるとは……」


「それに、我ばかりが案を出していて、肝心のお前が案を出していないではないか」


「あ~……なら、『太郎』?」


「タロウっぽくないな」


「『一郎』」


「イチロウ? ピンと来ないな」


「じゃあ『次郎』」


「こういう時、じゃあ、と付けるのは妥協ではないか? 妥協してどうする」


「え~……神の意に従うという意味で『神意(カムイ)』」


「何故かはわからんが、神の意に従うようには見えんな」


「それなら奇をてらって、数字の『(ゼロ)』」


「悪くはないと思うが、それだと名というよりは、ただの番号だと思われないか」


 俺は腕を組む。


「じゃあ、どうしろと」


「だから、それを今考えているのではないか?」


「そうだった」


 そのあともラオルと共に考えるが、中々いい案というか、ピンとくるものがない。どうしたものかと悩んでいると、ラオルがどことなく確信があるような感じで提案してくる。


「ふむ。では、『スロース』というのはどうだ?」


 ピン、ときた。何故かはわからない。でも、きたのだ。スロース。七つの大罪の怠惰の多言語での読み方の一つに、そんなのがあったような気がする。……うん。悪くない。寧ろ、気に入った。


 それが態度に出ていたのだろう。ラオルがニヤリと笑みを浮かべる。


「気に入ったようだな」


「ああ。今日から俺の名は『スロース』だ」


 名が決まった。


 それからさらに数日が経って――管理人小屋が完成した。

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