3 絶対に守らないといけないものがある
……まあ、アレだ。攻撃手段として魔法が使えるとわかったので良しとしよう。威力調節は必要だが。ちなみに、無詠唱もできた。
でも、よくよく考えてみると、別に攻撃手段だけではないのでは? 要は使い方次第。そうか。そうだ。まず、生きていく上で水は必須だ。水分補給大事。一応、湖があるにはあるが安全な水かわからないし、代わりとなる水が魔法で出せるのなら、そちらの方が安全だと思う。
……魔法で出した水、本当に安全だろうか? 不純物とかは入ってなさそうだが、そもそもどこから水を生成している? 大気中の水分か? 未知の何かか? 魔力的な? そもそも飲んで水分として体に補給されるのだろうか? ……とりあえず、飲んでみて様子を見よう。今はそうする他に確認のしようがない。……どうか、腹が壊れたりしませんように、と祈りながら、魔法で水を出してごくっと飲んでおく。
喉が潤ったあと、魔法についてもう少し確認しておくことにした。
………………。
………………。
なるほど。予測でしかないが、魔法は事象を起こすきっかけと形作りといったところか。きっかけを起こして内包している魔力的なものがなくなると、あとは自然なものへと戻るようだ。火は熾せるが燃えるものがなければ消え、水は放っておくと蒸発、風はそのままどこかに飛んでいき、土は土へ。闇と光はパッと消えたからわからない。まあ、何にしても使いようによっては水分補給としてだけではなく、攻撃手段としても使えそうだ。今はそれがわかれば十分である。
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ある程度自分というものを把握した……と思うので、次は周囲に何があるか探索しておこうと思う。今は森の中で湖があるくらいしかわかっていない。具体的には水分補給ができると判明した今、次は食料の確保が必要だからだ。思えば、昨日から何も口にしていないので、なんか食べたい気分。でも、不思議と空腹感はないんだよな。
いや、これはアレか? 減り過ぎて逆に、みたいな? 案外、なにかを口にするともっと寄こせと体が訴えてくるかもしれない。とにかく、この焚き火場所を一先ずの拠点として、周囲の探索を始めた。
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………………。
湖から離れるように進んだ先に、川を発見。標高的に上がった感覚はないので、多分湖から流れている川なのではないだろうか? つまり、川を上っていけば湖に着くと思われる。目印の一つとしておこう。川に魚の姿はなかった。残念。まあ、居たとしても捕まえる手段がない。手掴み? ぬるっと逃げられるのがオチだ。それに、拭くものも着るものもないまま、体温を下げるのは危険だ。でも、魚食べたいな、と思いながら、探索を再開した。
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魔物と遭遇した。いや、多分魔物。推定魔物。耳が鋭利なハサミ――こう、挟んで切るものだが、先が尖り過ぎて突き刺した方が殺傷能力高そうなヤツ――のようになっている、白い毛に赤い目のウサギ。そう。ウサギ。それが群れで居る。しかも、その中の一頭……魔物なら一体? ともかく、成人が丸まったくらいの大きさの大ウサギが居た。他は両手で持てるくらいの大きさなので、その大ウサギが群れのボスだろうか?
……どうしよう。一対一なら頑張れそうな気がするが、群れはちょっと……野生だろうし、殺意も感じられる赤い目をたくさん向けられると夢に出てきそうで怖い。……良し。焚き火跡しかないが、拠点に帰ろう。べ、別にビビッてないし。ウサギ可愛いからちょっとな、と思っただけだし。あ、あと、食用可だとしても、色々と処置するための道具がないし。そういう諸々の理由で断念するだけだし。命拾いしたな、ウサギたち。
あばよ、と振り返って帰路の一歩を踏み出す。パキリ。小枝を踏んだ。裸足だけど刺さってないし、痛くないので大丈夫。頑丈なのだろうが、裸足なのはどうにかしないとな――と思いつつ、音が出たので振り返ると、たくさんの赤い目が俺を見ていた。ヒゥッ!
「……えっと、お気になさらずに」
駄目だった。気になるようだ。一斉に飛びかかってきたので逃げる。体の大きさが違うので歩幅も違う。逃げ切れる――と思ったが甘かった。ウサギたち、はっやい。直ぐ追い付かれ、ハサミ耳で切ろうとしてくる。何を? ナニを。ナニだけを執拗に狙ってくる。何故? ぶらぶらか? ぶらぶらしているからか? それともナニではなく玉の方か? どちらにしても失う訳にはいかない。絶対に守り切らないといけない逃走が起こった。
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どうにか守り切り、逃げている間に逃走は終わる。闘争ではないので、ウサギたちを倒した訳ではない。武器ないし無理。唐突にウサギたちが追わなくなっただけ。多分、縄張りとかだと思う。入ったか出たかわからないが、守ると決めたものは死守できた。それが大事。俺の体の一部として無事に残っている。ほっと安堵した……が、逃げるだけでかなりの時間を消費してしまった。なんとなく見覚えのある場所だったので、落ちた木々の枝なんかを集めながら拠点に戻る。
……あっ、魔法で戦えば良かったのか。