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29 サイド セブナナン王国 4

 竜の森の近くにある町――フロン。主に男性にとって危険な場所として知れ渡っている竜の森があるため、しっかりとした外壁に囲まれているのだが、その竜の森から得られる恵みもあるため、辺境にある町にしてはそれなりに発展している。


 そんなフロンの町に、予定よりも日数がかかりはしたが、第三騎士団の調査組が到着した。ここまで寄った村や町はどこも直ぐに食料確保ができる状態ではなく、だからといって騎士としての権力を振りかざしての徴収をするようなこともせず、また回り道をする方が時間はかかりそうだということもあって、漸くといった感じではあるが、それでもマニカに焦った様子はない。


(――これまでに竜の森に関する報告は何も届いていない。だったら、私たち調査組の到着を遅らせるために工作を仕掛けてきた側は何も成果を挙げられていないと考えてもいいはず。なら、多少の到着遅れはこの際問題ない。王命に従って、私たちが先に発見すればいいだけ。……よしっ!)


 マニカは誰にも見られないように、両手を握って小さくガッツポーズをした。


     ―――


 フロンの町はそれなりに発展しているということもあって、町の中心を走る大通りはかなり賑わっている。どこも活気があった。そんな場所に騎士団が現れて、住民からの注目を集める騎士団が現れて何事かと危機感を抱いたからではない。第三騎士団・調査組の全員が見目麗しいからである。


 そんな中を進んで、マニカたちは大通り沿いにある、フロンの町で一番の大宿を拠点とした。共に来た騎士団員の全員が泊まれる宿となると限られているというのもあるが、町で一番の大宿を取ったのは、マニカが王女だからということが一番大きな理由である。


 そうして拠点を確保したあと、マニカたちは手分けしてフロンの町の様子を窺うことにした。自分たちの到着を遅らせた間に、何かしらの変化が起きているのではないか、と。マニカはメリッサと共にフロンの町中へと出て……変化は直ぐに見つけた。集団がこそこそと裏通りへと入っていくのを見かけたのである。


 見つからないように、そのあとを追うマニカとメリッサは裏通りに入って……ある看板が目に付いて確認する。


 ――「あなたの切られた大剣からナイフまで、回復魔法で繋ぎます。ただし、切られた先のものが必要です」。


 数瞬置いて、ぼんっ! と一気に顔が真っ赤になるマニカ。どういう意味の看板なのか、理解したのである。あわあわと慌て出すマニカを見て、メリッサは色々と教えた甲斐がありました、と思うのと同時に、マニカの真っ赤な顔を見て、そういう顔もいいですね、と親指を立てた。


 ただ、それも一瞬のこと。このままだとマニカが混乱するかもしれないと考えて、メリッサはマニカの手を取って裏通りから連れ出し、大宿へと戻る。マニカはまだ少し動揺したままだったので今日はもう休ませて、他の調査組からの報告はメリッサが聞いた。


「……なるほど。やはり竜の森へ探索に出ている男性の数が増えているようですね。狙いは間違いなく私たちと同じ、『天の怒りジャッジメント・サンダー』を放った者の捜索。私たちの到着を妨害していたのも、先に見つけるためでしょう。まあ、それは叶わなかったようですが」


 報告を聞き終えたメリッサの結論に、他の調査組も異論はないと頷く。


 これで報告は終わり、次の行動へ――と移りたいところだが、マニカはまだ動揺から回復していないため、竜の森の調査は翌日からとなり、それまでは自由時間となった。


     ―――


 翌日。大宿の大部屋にマニカとメリッサ、調査組の全員が集まる。


「それでは、今日から竜の森の調査を始めます……と言いたいところですが、大丈夫ですか?」


 メリッサと調査組の様子を見て、マニカが不思議そうに尋ねる。一部は普通なのだが、人によっては寝不足で、人によっては妙に艶々していたりと、どことなく普通の状態ではなさそうに見えたからだ。


「マニカさま。問題ありません。既に報告は受けています。確かに、普通の状態には見えないかもしれませんが、ここに居る誰もがとある出来事に対して脳内で自由に配役を変えることができる変換機能を会得していますので、裏通りで監視や査察を行った際に望む光景を耳で聞き、目で見たことで、寧ろ気力は充実しています」


 メリッサの回答に「そ、そう? ……え? 変換機能って?」と尋ね返すマニカ。なので、メリッサは付け加える。


「失礼しました。マニカさまはまだ会得していませんので、ここに居る誰もがではありませんでした」


「え? 私以外の全員? 何故か除け者にされた気分だけれど、そんなに普及している能力なの? 私も会得した方がいい?」


「いえ、その……んー……なんと言いますか、普及しているかと問われると、そうですと断言はできませんし……その、これは環境次第で自然と身に付くものでして……そう! これについては実際に会得してからでないと説明できませんので、この話の続きはマニカさまが会得した時にしませんか?」


「……なるほど。それはそうですね。わかりました。今は竜の森の調査に集中しましょう」


「はい」


 メリッサは内心でホッと安心した――が、それはまだ早かった。マニカにはそれとは別にもう一つ気になることがあったのだ。


「でも、メリッサは問題ありませんと言いましたが、あそこの二人は既に負傷しているようですが、それでも問題はないと?」


 マニカが指し示すのは、調査組の中に居る、かなり激しく争ったような痕が残っている二人だ。それでも、メリッサは問題ないと頷く。


「ああ、あの二人は推し被り同担拒否の上に、攻めと受けの嗜好も逆でして、昨日いい感じの者を見つけて争いに……ですが、彼女たちも騎士です。任務にまで影響は与えません。班も別ですので問題ありません」


 メリッサは断言することで問題ないと押し切ることにした。実際、竜の森の調査を行う際に、この場に居る全員が一塊で動くのではなく、探索範囲を広げるために五人一組で班行動することが決まっていて、件の二人は別の班に分けられているので、問題はない。解決しているのである。


 それが通じたのか、はたまたメリッサの態度が真に迫っていたからか、マニカは「……ま、まあ、メリッサがそこまで断言するのなら」と問題ないと信じる。ただ、これはこの場限りのことであろうことは明白であり、このあと問題が起こればどうなるかわからない。そのため、メリッサは、わかっていますよね? ああん? と射殺さんばかりの目力で件の二人を見て、件の二人は蒼褪めた表情で何度も頷く。


 ともかく、これで準備は整った。班分けは既に終わっているので各班準備が出来次第、竜の森へと向かう。

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