27 なんか両腕を上げたくなる時がある
青い竜の畑、夏場所に着いた。青い竜の背中から下りる際は、尻尾の先までを滑り台のように見立てて、すいーっと下りていき、尻尾の先から飛び上がって三回転半捻りを加えて見事に着地する。体幹がぶれず、着地点から動くことはなく、俺は両腕を高々と上げた。十点。十点。十点……。心の中で自分で自分に拍手喝采。
「……何をしているのだ?」
「……いえ、何も」
青い竜の言葉で現実に戻り、両腕を下ろす。
それから、早速種蒔きである。
「今日はトマトの種を用意した。早速蒔いていくぞ」
「おー」
青い竜が青髪の人へと姿を変え、アイテムボックスから種が入った袋を二つ取り出して、その一つを俺に渡してくる。どれくらいの深さにするとか、水やりをする時に上から勢い良く水をかけないようにとか、色々と注意を受けながら、共に蒔いていく。
………………。
………………。
中腰だったので腰に違和感が……あるような……ないような……。でも、気持ち的には腰を伸ばしてとんとんと軽く叩きたい。
……とんとん。はあ~。
「……若いのにこれくらいで……情けない……」
青髪の人から呆れた目と言葉を向けられるが、年齢は関係ないと思う。というか、この場合は種族の差ではなかろうか? 何しろ、今は人の姿だが、青髪の人は青い竜だし。腰痛とか、ならないんじゃないかな? いや、絶対ではないかもしれないが。
だから、腰痛にならないのかな? と思いながら青髪の人を見ていると、俺の視線に気付いて、意味も察したようで、青髪の人は自分の肉体を自慢するように胸を張って両腕を曲げて力こぶを作って見せてきた。自分の腕を見る。ぐぬぬ
負けた気分を味わいながら、種蒔きを終えた。
「ご苦労! では、明日も来るからな!」
何をしに? と尋ねる前に、青髪の人は青い竜の姿に戻って、飛び去って行ってしまった。明日は……なんだろう。別の種を蒔くのかな?
考えても答えは出ない。明日わかることだ。
ただ、畑に残されたのは転移でどうにかできるとして、思いのほか時間が余ってしまった。どうしよう。……とりあえず、新たな家を作るための木材作りでもしておくか。
整地と木材作りに精を出した。
―――
翌日。宣言通りに青い竜が来た。今日は風圧を抑えたのか、起きていた俺は飛ばされることはなく、立って出迎えることができた。……まあ、瞬間的に身体強化魔法をかけて踏ん張ったけれど。でも、昨日作った木材は飛ばずに残っているので、やはり風圧は抑えてくれたんだと思う。
そして、青い竜が何をしに来たのか。昨日とは別の種蒔きをするのかと思ったが、そうではなかった。
「知り合いに頼んでな! 色々と持ってきたぞ!」
そう言って、青い竜はアイテムボックスから大量のインゴットを取り出した。鈍色だから……鉄のインゴットだと思う。
「木材となる物は周囲にたくさんあ……おお、既に少しは作っていたか。それは重畳だ。では、この鉄のインゴットも使い、今日からここに管理人小屋を作るぞ」
………………。
………………。
「えっと、つまり……俺の家を作るってことですか?」
「うむ。その通りだ。畑を荒らした件と我がお前の家を飛ばしたのは別件である。そして、お前は罪を償った。なら、次は我の番だ。だから、ここにお前の家でもある管理人小屋を建てるのを手伝おうと思ってな。まあ、さすがに我も少し申し訳ないと思っているから、手伝わせてくれ。なっ?」
パチリ、とウインクする青い竜。そういうのは奥さんにやってあげた方がいいと思う。まあ、もう既にやっているかもしれないけれど。ついでにそれでウザがられている可能性もあるけれど。
でも、こちらとしては人手が増えるのは素直にありがたい。助かる。……あれ? この場合は人手ではなく竜手?
「ありがとうございます。助かります。よろしくお願いします」
「うむ。どーんと大船に乗ったつもりでいてくれ」
「はい。それで、このインゴットはどう使えばいいのでしょうか? 見てわかる通り鍛冶場はありませんし、加工できないのですが?」
「………………」
「………………」
「ま、まあ、なんとかなるだろ! 我に任せろ!」
疑いの目を向けてしまうのは仕方ないと思う。
そうして、青い竜と共に早速管理人小屋も兼ねた俺の家を建て始める……前に、まずは間取りを決めることになった。異論はない。何しろ、俺だけが建てるのなら別に要らないというか、あった方がいいとは思うが頭の中で完成しているが、今は俺だけではなく青い竜も居るのだ。完成図は共有しておいた方がいいので間取りを先に決めるのである。
青い竜がアイテムボックスからテーブルに紙とペンを取り出して、話し合いを始めた。
………………。
………………。
話し合いの結果。出来上がった間取り図は、一階建ての3LDKとなった。いきなり進歩し過ぎでは? と俺は思ったのだが、青い竜が頑として譲らなかったのだ。
土地はあるのだから広いリビングにしようとか、部屋数は俺の居室、物置部屋の他に、別荘的な使い方もしたいので居室が欲しいと押し切られる形で追加されて……そうなった。まあ、俺一人ならここまでしないけれど、青い竜が手伝ってくれるのなら、まあいいかと賛成する。
玄関に続いてリビング・ダイニング・キッチンがあって、そこと繋がる俺の居室と物置小屋、それと青い竜が希望した大きな居室、という形の管理人小屋を建てることになった。




