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26 あのふわって浮く感覚が苦手な人も居る

 ………………。

 ………………。


 意識が浮上していく。合わせて、体も浮遊しているような感覚を覚えた――ところで、体に衝撃が走る。痛みはないけれど、それで完全に目が覚めた。


「な、なんだ! 何事だ!」


 衝撃が走ったところを確認。木があった。どうやら、木にぶつかったっぽい。何故に?


「おお! すまんすまん! また飛ばしてしまったか! だが、地面の上で寝ているとは思っていなくてな! 怪我はないか?」


 立ち上がって声が聞こえた方を見ると、そこには青い竜が居た。


 ……なるほど。未完成の家類が飛んでいった時と同じことが俺の体に起きたということか。


「怪我はないけれど、そのままどこかに飛んでいったらどうなっていたか……」


 もし、寝起きの状態でハサミウサギや角ウサギの群れが居る場所に落ちたら……間違いなく純潔が儚く散っていただろう。なんて恐ろしい。やはり、安心できる家が欲しい。


「まあ、あのままお前が飛んでいったのなら、落ちる前に空中でキャッチしてやるから安心しろ」


「何故だろう。少しも安心できない。やったー! とは思えない」


「大丈夫だ! しっかりとキャッチしてやる!」


「何故だろうか……その際に力を込め過ぎてパキパキと体中の骨が折られそうな気がする」


「それも大丈夫だ! もしそうなっても回復させてやるから!」


「そういう問題ではないと思います」


「というか、そもそもお前なら全身骨折になろうとも自力で回復できるだろう?」


「え? そうなの?」


「そうだ。自覚はないのか?」


 ……う~ん。言われたら回復魔法的なのでできそうな気がしないでもないが、実際にやってみないことにはわからないというか、実際にはそんな状態にはなりたくないというか。


 悩んでいると、青い竜がなんでもないように口を開く。


「自覚はないようだな。そうそうなる状態ではないから自覚がなくても仕方ないか。まあ、いい。そんなことよりも」


 少なくとも、そんなこと、で解決していい状態ではないと思う。


「昨日約束した通り、今日は我の畑の場所を案内してやる」


 ……え? 昨日? ……どうやら、あのまま寝ていて、もう翌日になっていたようだ。地面の上に寝ていたのに体の痛みはない。つまり、意識的に使った身体強化魔法は成功したようだ。やった。これでどこでも寝られる。……できればベッドで寝たいが。


 ふう……。今ないものを求めても仕方ない。一息吐いて意識を切り替えて、青い竜に頭を下げる。


「案内、よろしくお願いします」


「うむ。では、乗れ」


 青い竜が背を向け、俺の背中に乗れ、と指差す。……いや……いやいやいや。背中に乗れと指示されても、捕まるところがなさそうなんですが?


 ……ここは俺のために。紐なしバンジーなんてことにならないために……。


「……こう、両手? 両前足? を組んで、そこに乗るというのは?」


「却下だ。疲れる。案内のあとは種蒔きをするからな。今、酷使する訳にはいかない」


 俺の安全と種蒔きを秤にかけて負けるなんて……そんなご無体な! しかし、今の俺は青い竜の畑の管理人でしかない。


「わかり、ました」


 落ちても優しく包み込むようにキャッチしてくれることを信じつつ、現実的な思考の部分で色々と諦めて……尻尾の方から青い竜の背中によじ登っていく。思っていたよりも細かくゴツゴツしているというか、これならしっかりと引っ付けば摩擦的な抵抗力でくっ付いていられるかもしれない。それに期待しておこう。


 抵抗力を上げるため、腹這いになって両手足を伸ばし、青い竜の背中にピタッと張り付く。くっ。手足が長く伸びれば、だいしゅきホールドでもして離さないのに。


「では、行くぞ」


 あっ――と青い竜が飛び立つ瞬間の風圧に負けて落ちるんじゃないか、と思って玉ひゅんした。


     ―――


 飛び立ってからは快適だった。風が心地良い。大きな湖の上を飛んでいるので、涼しさも強く感じることができる。青い竜は俺が落ちないようにゆったりとした速度で飛んでくれたので、ピタッとくっ付く必要もなくなり、胡坐をかいて座ることができた。


 だから、視界も良好。空から少し遠くの方を見ることができた。……本当に森の中だった。しかも、森の切れ目は見えない。いや、これは単に高度不足の可能性もあるか。まあ、何にしてもかなり広大な森であることは間違いない。


 あと、遠くにある山も見えた。行くことはないだろうが、頂上から見える景色は素晴らしそうだ。


 そう思っていると、青い竜が声と指差しで畑の場所を教えてくれる。青い竜の畑はたくさんあって、春夏秋冬で区分けされているようで、どこも大きな湖の近くにあった。青い竜が言うには、魔法の水でもいいが、大きな湖の水で育てた方がより美味しくなるらしく、それで大きな湖の近くに畑を作ったそうだ。なるほど、と思う。それで、大きな湖の近くに推定魔物が現れないのか。この辺り一帯が青い竜の縄張り認定になっているからだろう。


「場所はわかったか?」


「わかりました」


 大体覚えたので、あとは転移と徒歩で回れば大丈夫だと思う。


「では、次は種蒔きだ」


 青い竜がウキウキしているのが声の調子でわかる。でも、待って欲しい。種蒔きに俺を連れて行く意味は? 答えは、俺も手伝えということですね。……まあ、管理人だしね。やれと言うのならやりますとも。まだやれとは言われていないけれど。時間の問題だ。


 青い竜の背の上で、このあとの種蒔きのために軽く手を揉んでいると、自分の魔法で空を飛べば良かったのでは? と思った。いや、まあ、飛べるかどうかは試していないんだけどね。でも、いけそうな気はした。

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