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23 収穫ってなんだかんだ楽しい

 青い竜の畑の収穫を手伝うことになった。これは勝手に春キャベツと新玉ねぎに手を出してしまった贖罪である。そう。食材の贖罪。問題ない。ただ、疑問がある。


 畑の規模は大きいとは思うが、そこに実っている野菜は普通サイズというか、知っている大きさだ。つまり、青い竜の大きさに合っていない。一口で全部いけるのでは? と思うし、そもそも大きさが違うのにどうやって収穫するのだろう? と。


 爪や尻尾を薙いで纏めて? それとも魔法で?


 興味があったので、春キャベツの畑に着いてから青い竜をジッと見ていたのだが――。


「ん? どうした?」


 そう俺に声をかけたのは、俺と同じくくらいの身長の、三十代くらいの男性。青い髪に柔和な顔立ち、引き締まった体付きで、長袖シャツの上に胸当てと肩紐が付いたパンツ――サロペットを着ていて、靴は長靴といった、作業に適した服装をしている。よく見れば、首に紐を引っかけた麦わら帽子が背中にあった。


「………………所謂『人化』ってヤツですか?」


「ああ、この姿か? その通りだ。竜のままだと収穫がやりづらくてな」


「それは、そうですね」


「それに、竜のままだと畑の収穫量は一飲みで終わりで味気ない。我は我が育てた野菜での食事を楽しみたいのだ。それに、竜の舌は割と大雑把というか、味覚は人の方が優れているからな。だから、収穫時と食事時は人の姿に限る」


「はあ、なるほど」


 理由があった。竜がどうやって収穫するのか内心でワクワクしていたので残念だが、竜には竜なりの、ということか。


 そして、早速収穫を始める。まずは春キャベツの畑だ。


「……えっと、収穫に使う刃物は? まさか、手で?」


「は? 手? いや、魔法があるだろ」


 ああ。確かに。……ふっ。ここ最近練習して熟練度がかなり上がった風の刃が火を噴くぜ。いや、実際には噴かないけどね。寧ろ、火を噴いたら困るけどね。


 風の刃を使って春キャベツの芯の辺りをサッと切って手にする。


「こらっ! 適当に収穫するな! いいか! キャベツはまず球を斜めにして外葉との間にでできた隙間に刃を入れて球を切り離すのだ! わかったな!」


「は、はい」


 これは食材を収穫する贖罪なのだ。反論、反抗はしない。言われた通りにする……のはいいが、この手にした春キャベツはどうしよう。困っていると声をかけられる。


「おお、忘れていた。収穫したのはこれに入れろ」


 そう言って、青い……今は竜の姿ではないから、青髪の人がサロペットのポケットの中から背負えるタイプの大きな籠を取り出した。というか、どう考えてもポケットに入る大きさではない。畳んでもいないし、そもそも畳んだところで入る訳がない。つまり、これは――。


「アイテムボックス?」


 俺は驚きを露わにする。そうか。こんな感じなのか。


「そうだが、お前はできないのか? ……ああ、その服にはポケットがないのか。ポケットというか容れ物なしだと難易度が段違いだからな。今のお前で無理なら諦めろ」


 やはり容れ物(ポケット)か。くそう。でも、容れ物なしでもできるのか? 青髪の人が言うように、今の俺でできるとは思えないけれど。


 ……はあ。嘆いても仕方ない。いつか必ず、ポケットを、と決意してから大きな籠を背負い、教えらえた方法で春キャベツを収穫して大きな籠の中に入れていく。満杯になれば青髪の人のところに行って回収してもらい、新しい大きな籠を背負って収穫に向かう。


 ……ほどなくして終わる。畑の規模は大きいと思うが、二人だからか思っていたよりも早かった。魔力は切れていない……というか、減った? みたいな感覚だ。風の刃は春キャベツに合わせて小さいし、使っても直ぐ回復しているのかもしれない。腰の痛み……もない。これも若さ故か。あるいは無意識下で腰に身体強化魔法をかけていたか。……前者だと思いたい。


 何しろ、これで終わりではない。多分だけど。


「良し! 次の畑に向かうぞ!」


 ほらね。


 青髪の人と共に新玉ねぎの畑に向かう。


「先に教えておく。いいか。まずは土を軽くほぐしてから、葉の付け根辺りを掴んで引き抜けばいい。あとは付いている土は軽く落としてくれ。わかったな?」


「はい」


 新しい大きな籠を渡され、ここも教えられた通りに収穫していく。これで……終わらなかった。俺は見つけられなかったが、新玉ねぎの畑のさらに奥に、じゃがいも――時期的に新じゃがいもの畑があったのだ。


 そうとわかっていればこちらにも……と思わなくもない。春キャベツと新玉ねぎで満足していたからだ。


「こちらもいけそうだ」


 青髪の人は新じゃがいもの状態を見て、満足そうに頷く。農家の顔だった。新じゃがいもに手は出していないが、俺に拒否権はない。


「いいか。茎を束ねてしっかりと持つ。そして、少しずつ引き抜くのだ。それでも土の中に残っているかもしれないので、見逃しがないように確認を怠るな。いいな?」


「かしこまりました」


 これまでと同じように、大きな籠を渡され、新じゃがいもを収穫していった。

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