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22 勘違いすることだってある

 スローライフっぽい生活をしていたからだろうか。考えが抜けていたというか、気付けなかったというか、単純に忘れていたというか……今が春だとした場合、春キャベツも新玉ねぎも正に今が旬である。なら、旬の野菜を旬の時期に収穫しない、なんて生産者は居ないだろう。


 そして、その生産者が現れた。


 生産者は竜だった。


 何故竜が? とか、それでも未完成の家などを飛ばされた怒りがとか、色々思い浮かびはするが一旦押し込む。先に手を出した――春キャベツと新玉ねぎの一部を無断で収穫したのは俺だ。だから、謝った。下げた頭は上げられない。


「……ふむ。お前がどういう者やら状況について思い当たる節はあるが、まずはお前の口から事情を聞いておきたい。話してくれるな?」


 どういう者ってどういうこと? と疑問は浮かぶが答えは一つしかない。


「仰せのままに!」


「うむ。そのままでは話しづらかろう。面を上げよ」


「ははあ!」


 顔を上げ、しっかりと青い竜の目を見ながら、俺はこの森の中で目が覚めてからのことを話していく。別に隠すような後ろめたいことは何も……いや、うん。野菜泥棒はそうだが、他には何も………………うん。とりあえず、角ウサギの奇襲を制して未だ純潔であることだけは強調しておかないと。そこを誤解されてはいけない。


「………………」


「………………」


 本当に? とめっちゃ疑いの目で見られたが、本当に、と目力全開で返しておいた。きっと、これで疑いは晴れただろう。心の中で安堵して、今に至るまでを続けて話す。


 ………………。

 ………………。


「――という訳です」


 話し終わると、青い竜は両前足を組んで強く頷く。


「……なるほど。やはり……」


 青い竜は何やら納得しているのだが、何に納得しているのだろうか? 俺の境遇に何か思い当たるものがあるのだろうか? もしそうなら、できれば知りたいが……迂闊なことは聞けない。生物として存在が違い過ぎるというのもあるが、生産者と野菜泥棒では立場が違い過ぎる。だから、逃げることも考えない。逃げられるとも思えないし、多分だけど戦っても勝てない気がする。今はまだ、だけど――と強がっておく。まあ、自分がどこまでやれるようになるかなんてわからないからね。強がってもいいのだ。


 なんてことを考えながら、下される沙汰を大人しく待っていると……。


「……まあ、我には関係ないことだな。重要なのは……そう、重要なのは、お前が我の畑の野菜を盗ったことである。その罪を償ってもらうぞ。お前の体を使ってな」


「――っ!」


 俺の、体を、使って、だと! そ、そそそ、それはつまり、俺の純潔を奪う、ということか? それで清算する、と。竜の竜が俺の尻の穴を……いや、それはもう尻で収まらずに体を貫くことになる――元々の体の大きさが違うのだから、そうなるのは間違いない。でも、それってつまり、俺、死ぬよね? 竜の竜に貫かれて。なら、使うというのはそのまま死ねと言われているようなものだ。それとも、そういう行為をしても俺が生き残る可能性があるのだろうか? たとえば、竜の竜が実は短小……それでも貫きそうだから極小であるとか? それでも死にそうな気がするが。となると、サイズ変更ができる? ……ありそうだ。竜だから、でなんでもできそうだし。この状況でなければ素直に羨ましいと思う。でも、そこまでして? という思いもある。それに、そこまでする理由は……さすがにないよな。となると、俺の勘違いか?


 ……いや、待てよ。そもそも相手は竜だ。当然、竜と人とでは生態が違う。もしかしたら、竜はそういう生態なのかもしれない。つまり、人のオ〇ホ化? ……もしそうなら、なんというか規格外過ぎる。なんという竜だ。さすがはDragonだ。


「……なんか失礼なことを考えていないか?」


「いえ、まったく」


 青い竜の問いに、首を左右に振って答える。失礼なことなど考えていない。答えに辿り着いて、これから俺の身に起こることに対して覚悟を固めているところだ。


 ……はあ。野菜泥棒の結果がこうなるとは……思えば短い人生だった。いや、実際は見た目の年相応に生きていると思うが、何分記憶の方が森の中から始まっている。それ以前が何もない。だから、短い人生なのだ。もっと、生きたかったな。でも、受け入れるしかない。相手が竜となるとそもそも戦っても敵わないだろう。多分。


 きっと、戦ったとしても無力化され、身動きできなくなったあとに使われるのだろう。使われる、という事実は変わらない。視界が滲み、自然と涙が溢れて流れそうになるが、グッと我慢。これがこれまでの行動の結果なのだ。受け入れるしかない。受け入れるしかないのなら、いい加減覚悟を固めろ、俺。前向きになれ。


 ……ああ、そうだ。やってやるよ。俺の体の気持ち良さ、とくと味わえ!


 ――と、俺の覚悟が固まったのがわかったのか、青い竜がそれでいいと頷く。


「先ほどの話の中で、お前は働いて返そうと思っていた、と言っていたな。その通りにしてもらおう。お前には我の畑の収穫を手伝ってもらうことで、無断で我の畑に手を出したことを不問とする」


 ………………。

 ………………。

 あっ、そっちね。


「かしこまりました」


 誠心誠意、頭を下げた。

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