2 まずはできることを知ることが大事
……落ち着いた。試行錯誤の先に魔法としか言えない力を得たことを知ったのだ。決して無駄な時間ではない、はず。うん。そう納得しておこう。何にしても焚火はできた。熱源確保。これで温かく寝ることができる。
……いや、放っておいたらというか寝たら消えるよな。当たり前。で、火を絶やさないようにするには起きて見ていないといけない。あれ? 寝られない? まあ、火が消えていたらその都度魔法で点けてもいいのだが……真っ裸である以上、火が消えると体が冷えた状態になって風邪を引く可能性は十分にある。こんな状態で風邪はちょっと……それと、よくよく考えると、焚火は焚火。剥き出しの火。火の粉が常に舞っている。防ぐものがない今の俺は火傷まっしぐらでは? どうしよう。
………………。
………………。
おはようございます。おはようございます? あれ? 陽が出て登り始めているような気がする。どうやら、考え事をしている間に寝てしまったようだ。焚火の火は消えている。でも、そこまで寒くないのはそれなりに気温があるからだろう。とりあえず……体調の変化はないように思う。完全に安心はできないが……まあ、頑丈な方なのかもしれない。火傷も見られないし……ただ、早急な改善は必要だ。服、どうにかしたい。
それと、よくよく考えてみれば、起きてから何も口にしていないのは……さすがにまずい。服もそうだが、その辺りもどうにかしないといけない。色々とやることが山積みだが、何もかもが足りないのが現状である。衣食住の確保は必須で、それを最優先の目的とするのは確定。
でも、その前に、まずは自分についてだ。何ができるのか、把握しておきたい。具体的には、魔法が使えるようなので、どれくらい使えるのか確認しておいた方がいい。何しろ、記憶にある世界にはなかった魔法があるのだ。そうなると、ここは異世界であることが濃厚で、魔法があるのなら魔物と呼ばれる存在だって居てもおかくしない。物理的な攻撃とかそういう道具は手元にないし、魔法が攻撃手段となるのなら使う一択である。
「――水よ。風よ。土よ。闇よ。光よ」
……うん。全部出た。水がばしゃっと出たし、風が吹いたし、土が盛り上がったし、何か黒い球体が出たし、眩しい何かが出た。俗に言う、使えるのは全属性というヤツだろうか? 後、定番として時空間的な魔法的なヤツだが……何か確認できるようなのはあっただろうか? 規模がデカ過ぎて気軽に使えそうなの……喉のところまで出かかっているんだが……まあ、いいか。多分、使えるだろう。思い付いた時でいい。しかし、真っ裸の魔法使いか。より珍妙さが際立った気がする。でも、これ、魔法は攻撃として使えるのだろうか?
攻撃に使ったとして、う~む……火だと森林火災。水だと対象がどこかに流れる。風だと森林伐採。土だと対象が食用可の場合、土味になりそう。闇と光はなんかこう、色々消失しそうで………………あれ? 森の中で魔法は攻撃に向かない? いや、焚き火の火種となった小さな火は、俺がそう思っていたから、小さな火だったのではないだろうか? つまり、使い方次第か。威力を調節すれば……調節できるのだろうか? できそうな気がする。
でも、どこまで高めることができるかはちょっとわからない。試してみるか。こういうのは雰囲気も大事だし、必要かわからないが自分で考えた詠唱とか……やって見ちゃう? 俺の他には誰も居ない訳だし、恥ずかしくない。自分しか知らないのなら、黒歴史は黒歴史にならないはずだ。
「……え~………………『火よりも焼き尽くすもの 音よりも速きもの その輝きは一筋の光となりて 幾重に轟き続け 彼の地に蹂躙と焦土を与えん 雷雨』」
どうせなら、と雷を落としてみよう。でも、近くだと怖いので遠くの空を見ながら詠唱していると、青空が広がる中に突如として黒雲が現われ、ビカビカと光り出したかと思えば、雨のように雷が振り続けた。遅れ轟音が届いて腹に響いてビビる。やばっ! 散れ、散れ、と手を振ると、雷が止み、黒雲が散り散りになって消え、元の青空へと戻る。ふう……できそうだと思ってやってみて、実際にできてしまうと怖いな。というか、誰かに当たっていたらどうしよう……現状だと確かめようがない。当たっていないことを願う。もし当たっていたら……ごめんなさい。
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この時、この竜の森近くにある町に向けて、隣国の布告なしの秘密裏による侵攻が開始していた。隣国は評判がよろしくない侵略国家であり、前々からこの竜の森がある国を侵略しようとこれまで何度もやり合った過去があって、今回の秘密裏の侵攻もその一つである。町の方が侵攻を察知した時にはすべてが遅く、準備不足のまま隣国の軍隊による侵攻を受け――ようとしたところで、突如町の上の青空に黒雲が現われ、隣国の軍隊に向けて雨のような轟雷が降り注ぎ、ほぼ全滅。隣国の侵攻部隊は何もできぬまま撤退を余儀なくされ、今回の被害を受けて隣国の侵攻は一時止まることになった。
その光景を見た町の人々によって、後に「天の怒り」と呼ばれるようになる出来事である。
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何も被害が出なかったことを祈りつつ、こういうのは迂闊に使わないようにしようと思った。