148 用法はお守りください
マグレトさんによると、提督、守樹長、総長はそれぞれ自分の執務室に居るらしい。三か国の方も交代人員は既に来ていて、引き継ぎ作業も終わり、近々国元に戻るそうだ。そのための準備で忙しくしていると思うが、こちとらもうそれが明日である。俺には今しかない。次がいつか、あるかないかもわからないので、今が最善である。
そんなことを考えている内に、提督の執務室に着いた。ノックして返事を貰い、中に入る。提督は歓迎してくれた。
「起きたようだね。眠るように死んで、じゃなかった。死んだように眠っていると聞いて、心配したんだよ。さすがに押し付け過ぎた、とね」
「いや、まあ……」
なんと言っていいものか……。その辺りはマグレトさんにも言われたので、もう俺は気にしてない。ただ、その眠るように死んだは死んでいるので止めて欲しい。まだ生きているから、俺。
その後はお世話になりました? お元気で。と挨拶回りをしていることを告げて、提督からも、これからも精々気張りな、と、もしターキスーノ海洋国に来ることがあれば連絡しな、と言われる。
――と、そこで挨拶自体は終わりだが、一つ気になった物があった。提督が持つサーベルのような剣が少し変わっていた。宝飾品のような魔石が鍔部分に散りばめられているのだ。もしかして……と聞けば、やはり光鳴の魔道具だった。……まったく記憶にない。
恥ずかしながら記憶にないことを告げると、提督はそこまで追い詰めていたのか、と苦笑いを浮かべた。まあ、もう終わったことである。
ちなみに、提督の光鳴の魔道具は、魔力注入で魔石が光り、「巨大渦巻」の合図で「ミキサーで切り刻むような音」が響くようになっているそうだ。うん。記憶にない。いや、聞けば朧気ながら……うん。
提督は、ターキスーノ海洋国の国王に見せびらかして自慢できる物ができたと喜んでいた。
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次は守樹長の執務室。こちらも入って直ぐに謝罪されたが、マグレトさんと提督から同じように謝罪されたので、もう気にしていないと伝える。その後の挨拶は普通に終わり、提督と同じように守樹長からも、もしシガヒ森国に来ることがあれば歓迎すると言われた。ここも、もし行くことがあればお願いします、と答えておく。
そして、ここでもに気になったのは、守樹長が持つ杖型の光鳴の魔道具だ。記憶にないが、体が覚えているのかもしれない。だから、気になるのだろうか。守樹長の光鳴の魔道具は杖の先端に魔石が横に一周するように付けられていて、こちらも魔力注入で光り輝いて、「太陽焼光」の合図で「燃やして焼き尽くすような音」が響くようになっているそうだ。
また、守樹長からは、火属性の魔法も使えるそうだが、実際には森の中で火属性の魔法を使う訳にはいかないので、こういう使ってはいけない魔法のイメージの補助ができる道具は助かる、と感謝された。
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その次は総長の執務室。こちらでも謝罪されたが、お決まりの言葉を返す。それはいいのだが、総長は何やら目に見えて疲れていた。げんなりとしている。どうしたのかと尋ねれば、書類仕事が苦手で、今は交代人員との引き継ぎの影響でその書類仕事漬けらしく、それで――ということらしい。書類仕事が楽に終わる魔道具はないか? と尋ねられたが、ない、とハッキリと答えておく。そんなものがあれば……どんな手段を使ってでも手に入れようとしてくる人がたくさん出てきそうなので、考えるのも怖い。
ここでも、是非サスゥ獣国に是非とも寄ってくれ、と歓迎するような言葉をもらう。
そんな総長の光鳴の魔道具は、手甲に爪が付いているものだった。やはり、記憶にない。手甲部分の各所に魔石が付けられていて、魔力注入で輝き出し、「風刃爪撃」の合図で、「風で切り裂かれるような音」が重なって響くようになっているそうだ。
そもそも総長には自前の立派な爪があるのだが、爪付き手甲は相手に対して手加減が必要な時とか、訓練くらいは丁度いいらしく、また、実際にやろうと思えば風の刃を放てるらしく、ちょっとしたビックリ箱のような意味合いでも使えると、ニヤリとしていた。
俺からすると光鳴の魔道具は玩具扱いなので、できれば用法を守って欲しいと心の中で思う。
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最後に、増産部隊の面々のところへ。
作業部屋の方に集まっていたので、全員と挨拶をかわしていく。握手したり。ハグしたり。離れていても俺たちは増産部隊だと誓い合った。絆ができていた。……象さん部隊の面々も、仲間だ。自然と、いつかまた会えたら、と口にしていた。
ちなみに、増産部隊の面々も光鳴の魔道具は持っていたのだが……うん。これは記憶があったとしても把握し切れない。
そんな感じで挨拶回りは終わり……翌日。セブナナン王国の王都に向けて出発となった。




