145 自分だけかもしれないけれど、そういう風にしか見えない時ってあるよね
マニカさん用の光鳴の魔道具を作る。「技名」と「効果音」はどういったものかは事前に決めておいてくれたので、後は魔石を使うかどうかだが、魔石は三個でいいそうだ。もっと付けれるけど? と思ったが、俺と同じ数にしたいらしい。いやあ~。なんか照れるというか、嬉しくなるというか。
ちなみに、ついでという訳ではないが、メリッサさんとラストにも要るかどうか聞いてみたが、メリッサさんは「これから忙しくされるでしょうから、落ち着いてからで構いません。じっくりと考えてみます」と言い、ラストは「欲しくなったら頼むから、その時の最優先でいいわよ」となんか約束させられた。
総数からすれば誤差にもならない数だが、二つ減ったことは素直に嬉しい。二人の答えに、心の中で敬礼しておく。
そして、早速マニカさんの光鳴の魔道具制作を――。
「俺のターン! 反論! セブナナン王国軍にはある程度回っていて、それに満足している者も居る! よって、作る数も他に比べると少なく、早々にセブナナン王国軍の分を終わらせれば、スロース殿は三か国軍の方に集中できる!」
「「「……確かに、一理ある」」」
しようと思ったが、マグレトさんたちの話し合いはまだ続きそうで、その邪魔をしてはいけないと思い、場所移動。ここでラストが「ちょっと回してくるわ」と言って居なくなる。……多分、回すとはスロットマシンのことだろう。
マニカさんとメリッサさんと共に、元王城の裏手にある庭園へ。光鳴の魔道具となる物さえあればいいので、正直どこでもいいのだが、まあ、今はあまり人目のないところの方がいいと考えながら進んだら、ここに着いただけ。
マニカさんから「これでお願いします」と模造品の剣を受け取り、それを光鳴の魔道具へと魔道具化する。直ぐ終わった。
渡して試してもらう。
マニカさんが光鳴の魔道具の剣を構え――。
「……魔力蓄積」
トリガーボタンを押すと魔石の一つが光り輝き「ピッ」と音が鳴った。マニカさんはさらに二度トリガーボタンを押して、残る魔石二つが光り輝いて「ピー」と音が鳴り続ける。
「『永遠に眠る氷棺』」
マニカさんが再度トリガーボタンを押すと、吹雪く音が流れ、何かが固まる大きな音が鳴り響く。これで対象が吹雪の中で棺型の氷漬けになる、といったイメージだ。
「……完璧です。スロース殿」
マニカさんが嬉しそうに笑みを浮かべる。少し頬が赤くなって高揚しているようだ。俺目線だけかもしれないが、なんかちょっとエロい顔に見えなくもない。まあ、何にしても、満足してくれたようで何よりだ。
マニカさんたちは部下の指導があると、ここで別れる。
俺が部屋に戻ると……話し合いは終わっていた。提督、守樹長、総長が笑みを浮かべて握手を交わし、マグレトさんは見てわかるくらいに落ち込んでいる。どうやら、反論はしていたが負けたようだ。……経験かな? それとも人数の差かな?
まあ、何にしても、俺は決まった通りに作っていくだけである。
……さあ、地獄のような重労働の始まりだ。
―――
専用の部屋が用意され、そこに模造品の武具を持参した人が来て、その模造品の武具を「技名」や「効果音」を確認しながら魔導文字を刻み、時々魔石を付けて、光鳴の魔道具へと魔道具化していく。
そうすること以外のことは考えない。他のことを考えると泣いてしまうから。他のことには目も向けない。向けるとそっちに向かって逃げ出したくなるから。一日にどれくらいの数を光鳴の魔道具しているのかも数えない。数えるといつまでも増えていく数字に絶望して心が折れるから。
………………。
………………。
始めてからどれくらい経ったかわからないが、泣きたいし、逃げ出したいし、心が折れそう。
駄目だ。月日を考えるな。俺。
それでも、俺は毎日光鳴の魔道具を作っていく。スロース。元気です。
日課の一つである、森の管理人小屋に転移して、ラオルの畑の管理をする時だけが心休まる時だ。畑から飛び出ている芽を前にして、お互い頑張ろうな、と励まし合う。活力です。
………………。
………………。
今、どれくらいだろうか……終わりは見えない……。
………………。
………………。
はい。元気です。大丈夫です。頑張れます。作れます。
………………。
………………。
あれ? 俺、光鳴の魔道具を作る以外、寝て、食ってしか……いや、考えちゃ駄目だ。心が折れる。
………………。
………………。
聞いて。作って。渡す。聞いて。作って。渡す。聞いて。作って。渡す。食う。寝る。聞いて。作って。渡す。聞いて……。
………………。
………………。
………………。
………………。
オデ……マド……ツク……。




