134 丁度考えていたことが実際に起こると冷静ではいられないもの
植物園「小森」の空調設備のため、除湿と加湿ができる空気清浄機の魔道具の大型――除湿と加湿ができる大型空気清浄機……だと長いので、「大型空気清浄機」をいくつか作った。一つの大きさは……まあ、業務用ってこれくらいの大きさだよな? と一目見て思えるくらい大きい。仕方ないのだ。まだ、魔導基盤を小さくする技術が俺にはないのである。
また、そんな大きな大型空気清浄機であっても、一つでは植物園全体をカバーするとか無理なので、複数個作ったのだ。
それを、「小森」内の要所に設置。大型空気清浄機も、「小海」に使っている魔道具と同じくらいの数の魔石を使い、同じくらいの日数を使える。
後は、その使い方を実際に管理するシガヒ森国軍に伝えて……終わり。
俺はいい仕事したな、と思う。後のことはシガヒ森国軍次第だ。でも、大型空気清浄機を設置した時に、もう六割くらいは終わっていて、草花の成長は後僅かで、木の方は植樹と他所からの運搬計画があるらしく、完成度100%はまだ先のようだが、一般公開できるくらいの完成度の方はそこまで時間はかからないだろうから、その時が楽しみだ。
待つだけ、というのが特にいい。
やるべきことをやり終えて、もうやることがないのは最高だ。後のことは任せたぜ、シガヒ森国軍。アデュー。
―――
植物園「小森」の一般公開を待ちわびながら、ふと思うことがある。
ターキスーノ海洋国とシガヒ森国のお願いは片付けた。セブナナン王国は……まあ、既に協力しているので片付けた側に置いてもいいだろう。となると、残る一国。サスゥ獣国からも何かあるのではないか? と勘ぐってしまうのは……おかしなことではないはず。きっと何かあるに違いない。
……あるか? あるなら、そろそろ来てもおかしくない。………………でも、来ていない。なら、ない? 何も? ……それなら、それで、まあ、いいか。取り越し苦労という言葉もある。きっと気にし過ぎなのだ。
――コンコン。「マグレトだ。今、いいだろうか?」
ファッ!
ノック音に反応して、咄嗟に身構える。
……いや、身構えるのはまだ早い。まだマグレトさんが来た目的がわからないじゃないか。案外「小森」の進捗状況か一般公開日の予定日とか教えに来てくれただけかもしれない。あるいは、そろそろ人員交代の人たちが来るとか?
「サスゥ獣国のライレン総長も居る」
ファーーーーー!
心の中で思いっ切り叫んだ。口から出さなかった自分を褒めたいが、今はそれどころではない。何故? どうして? アレか? 直前まで考えていたからか? まさか、俺には未来を予見する力が……ないな。あったら、とっくに開眼しているだろうし。うん。
ともかく、来たのなら仕方ない。待たせる訳にもいかないので、応じる。その前に一旦深呼吸。
……部屋の中に招いて、早速来訪の目的を尋ねる。
俺としては身構えていた。でも、そんな必要はなかった。
「……えっと、サスゥ獣国軍としては、特に要望はなし?」
「ああ、ないな」
「……本当に?」
「まったく」
「と安心させて……実は?」
「全然ない。事実だ」
これだけ確認して、ないというのならないのだろう。良かった。ほっと安堵する。いや、時間もあるし、できることならやってもいいのだが、頻度というものが大事だ。後、タイミングも。立て続けはちょっと、ね。
「正確には、我輩のところ――サスゥ獣国軍の中にも、ホームシックになる者が居た。故郷を放れ、戦地へと赴いたのだ。当然の感情と言えば当然。そこを軽く見るつもりはない」
「確かに。でも……居た? つまり、今は居ない?」
「そういうことだ。ほかならぬ、それを解決したのは『怠惰』だ」
「……俺?」
サスゥ獣国軍に対して何かした覚えはないが?
「そもそもサスゥ獣国軍は獣人が多い。だから、出自は様々だ。故郷の環境もそれなりに分かれている。だが、草原は近くにあるし、海は『小海』ができて、今度は自然を感じられる『小森』なんてのもできる。それで十分カバーできるようになったってことだ」
なるほど。いつの間にかサスゥ獣国軍の方も解決していた、ということか。結果オーライ。万事解決。良かった良かった。
……本当に?
なら、総長はどうしてここに? 必要ないという報告のため? いやいや、そんな訳ない、と思う。でも、それなら来訪の目的は……わからないので、聞いてみる。
「……それじゃあ、今日ここに来た目的は?」
「いや、何、ターキスーノ海洋国軍のこともシガヒ森国軍のことも、言ってしまえばそれぞれシーミゥ提督とユグシア守樹長の個人的なお願いみたいなものだ。なら、我輩の個人的なお願いも叶えて欲しいと思ってな」
「えっと……まあ、そう言われるとそうな気もするけど……とりあえず、その個人的なお願いとは?」
「なあに、簡単なことだ。我輩と一戦交えてくれ」
……はぇ?




