132 上に立つのも大変だなって思う
マグレトさんがシガヒ森国のユグシア守樹長が来た。なんとなく、また何かしらの用件があるのは明白。なので、俺から尋ねる。
「えっと……今度はシガヒ森国軍の方で何かありました?」
「済まない」
「察しが良くて助かる」
二人共が申し訳なさそうだ。俺としては……まあ、出発までの時間はまだあるし、面倒なことにならないのなら別に構わない所存である。
という訳で、早速話を聞いてみると……まあ、ターキスーノ海洋国軍と同じでホームシック? いや、これはどちらかと言えば嫉妬だと思う。いや、多少は哀愁もあるかもしれないが。
どういうことかというと、シガヒ森国軍の人員構成はエルフである。それで、国の名にも付いている通り、基本的には森の中で暮らしているので、長く森から離れると恋しくなるそうだ。つまり、ホームシックと言えなくもないが……個人差はあれど、そうなるには通常それなりの期間を要する。とてもではないが、この数か月でかかるものではないらしい。
だから、嫉妬なのだ。何に嫉妬しているのかというと、先のターキスーノ海洋国軍のホームシック改善のために作った大型施設「小海」である。アレを見て、自分たちも欲したのだ。森を。
ただ、規模が規模だけに、普通に望んでも叶うのは難しいだろう。なら、一計を案じる必要がある、ということで、ターキスーノ海洋国軍がホームシックになった結果で作られたのなら、自分たちもそれに倣おうと、同じくホームシックになったので森が欲しい、管理も自分たちがしっかりとするので、どうか! と言い出したそうだ。
「……いや、それ、事実で、ターキスーノ海洋国軍みたいな状態になったのなら、まあ、考えるけど、でも……言ってしまえば嘘なんでしょ? こうして二人が説明している訳だし」
「まあ、そうなんだけど、ね。ただ、今後のこの場の統治のことを考えると、できればどこかの国だけが優遇されているような、そんな状況は避けたいというのがある。これにはユグシア守樹長も賛同しているから、この場に同席してもらっている」
「……まあ、そんな大層な思いよりも、私としては部下たちの取った行動が、ただただ申し訳ないと思う方が強いというだけですよ。だから、それに巻き込まれる関係者たちに、せめて頭でも下げようと、こうしてマグレト統括に付いていっている次第なのです」
「なるほど。……上に立つって大変ですね」
「「ははは」」
マグレトさんと守樹長の乾いた笑いが響いた。
まあ、マグレトさんが必要だと思っているのなら、やってみてもいい。時間もあるし。なので、前向きに受けることにする。そのことを伝えると、二人共喜ぶというよりは、助かった、と安堵する方が大きそうだった。でも、問題が一つ。
「森って、そんな簡単にできるというか、作れます?」
「「……」」
マグレトさんは遠くを見て、守樹長は腕を組んで口を固く閉ざした。
構想は……ないようだ。
悩みながらマグレトさんが口を開く。
「その……う~ん……魔道具でどうにか?」
「できません。というか、そのどうにかの部分がハッキリしないことには、作りようがありません」
「だよな。うん。ちょっと言ってみただけ。それでできたらいいなって」
無茶を言う。いきなり木を作るというか生やす魔道具って……なんか怖くない? どうなってんの? て思う。少なくとも、俺にはさっぱりだ。
次いで、守樹長。
「いや~……ね。うん……どこかから森を持ってくる、とか?」
「それ、環境破壊になりません?」
「まあ、なるかどうかと問われれば、なる、ね。却下ですね」
守樹長は自己判断で却下を下した。同感なので何も言わない。
その後もうんうん唸りながら、三人で相談するが中々決まらない。受けた以上はどうにか解決したいが、どうしたものか……。
「……いや、待てよ。森は無理でも、森を感じられればいい……つまり、自然の緑を感じる、と捉えてもいいはずだ……守樹長」
「はい。なんですか?」
「植物を成長させる魔法、みたいなものはあります?」
「一応、あるにはあります。ですが、それは精々草花の成長を早めるものであって、木にも多少の方かはありますが、あくまで多少であって、それで芽から木に、ましてや森までとなると……」
「いえ、草花だけでも十分です。それなら、『植物園』ってどうですか?」
「「……植物園?」」
言葉だけではピンと来ていないようなので、記憶の中にある様子や、鑑賞目的もあるが、多数の植物を収集、育成、保存といった学術的研究としての目的もある、といったことを伝える。
俺の説明を聞き終えたマグレトさんと守樹長の顔には、これでいける、という確かな希望があった。
話し合いがもう少し続いた後……植物園を作ることで決定した。




