131 喜んでくれると嬉しくなるよね
大型施設「小海」をオープンしたが、まずはターキスーノ海洋国軍に利用してもらった。そもそもの依頼がターキスーノ海洋国軍のホームシックをなくすため、だからである。
その結果。
「……海だ。海がある」
「ああ……波の音……潮風……故郷がここに……」
「海よ、私は帰って来た!」
「「「うおおおおお!」」」
突然叫んでビックリした。ターキスーノ海洋国軍はそのまま突撃して、人工海の中に入って泳いだり、波打ち際で海水のかけ合い、砂浜でお城製作、と楽しみだした。そんなに求められて、作って良かったと思うと同時に、もうちょっと、こう……大人な感じにならなかったのだろうか? と思わなくもない。
施設の説明もあるし、マグレトさんと提督にも来てもらったのだが、マグレトさんは苦笑を浮かべ、提督はまったく……と額に手を当てて頭を振っていた。そうしたい気持ちはわかる。
人工海ではしゃぐターキスーノ海洋国軍を放っておいて、マグレトさんと提督と共に海の家に入り、そのまま地下へ向かう。実際に魔導基盤を見せながら、使い方の説明をする。
水の循環に関しては、元王都の方に下水道が完備されていたので、そちらと繋げておいた。魔石に関しては、一つの魔導基盤にそれなりの数を使うが、消費魔力を抑えているので多少はもつ。それに、ターキスーノ海洋国軍の喜びようを見れば、定期的に必要な魔石を集めてくれるだろうから、この施設の維持はできる。あとは、できること。操作の魔導基盤で、穏やかな波や激しい波、微風から強風まで、ある程度は変更できるようにした。
結構一気にまくし立てるようにここまで説明したのだが、マグレトさんと提督から特に質問はなく、理解したように頷いていたので、一度の説明でしっかりと覚えたようだ。上に立つ人たちだし、地頭がいいのだろう。
「あ、それと、ここに天井はないというか、付けるつもりはないから。そもそも海に天井なんてないし。だから、ここにもないということで」
理由を説明すると、文句はなく、それでいいと頷きが返ってくる。
「もう一つ。壁の方は特に手を付けていない。俺がそのままでもいいと思っているし、これからの運用で必要だと思うなら、風景を描くなり何なり自由にしてくれていいから」
これにも頷きが返ってきた。
これで一通り、伝えるべきことは伝えたかな……いや、もう一つ。
「警備の方はどうする? 何か防犯的なものでも仕掛ける?」
「いや、その必要はないよ」
提督が断ってきた。え? いいの? なんなら、魔導基盤で壁に高圧電流流すとかできるけど?
本当に何もしなくていいの? とマグレトさんを見ると苦笑を浮かべていた。必要ない理由がわかっているようだ。どういうこと? と思っていると、提督が地上の砂浜に戻るというので、マグレトさんと共に付いていく。
海の家から出ると――。
「ターキスーノ海洋国軍、集まりな!」
提督のかけ声で、海ではしゃいでいたターキスーノ海洋国軍が集まり、綺麗に整列する。
「お前ら、『怠惰』殿によると、どうやらここはまだ防犯の方がまだ決められていないそうだ。なら、どうするかわかってるよな?」
提督の問いかけに、整列しているターキスーノ海洋国軍の最前列に居る一人が答える。
「もちろんです、シーミゥ提督! 防犯、警備、監視員、レスキューといった人員が必要であれば、海の出来事に慣れていて、日頃海の上で様々な訓練をしている我々が適任であります! そういったことは我々にお任せください!」
それがターキスーノ海洋国軍全体の意思であると証明するように、全員が敬礼した。ここを守りたい、それだけ大事な場所として認識してくれたようだ。作って良かった。素直に嬉しい。なので、任せようと思う。
こうして、ターキスーノ海洋国軍のホームシックはなくなった。
でも、警備体制について後日聞いた感想として……そこまでガッチガチにしなくてもいいんじゃない? 他にすることあるのでは? というものだった。その感想はきっと間違っていない。何しろ、マグレトさんと提督が、今度は「小海」以外の仕事を任せるのが一苦労になった、と愚痴を零していたから。それは……うん。俺にはどうしようもない。
―――
それから、この大型施設「小海」は一般開放され、ターキスーノ海洋国軍を中心に警備もばっちりなので、安全な娯楽施設と認識されて、元王都の住民たちを中心に連日賑わいを見せている。
ちなみに、いつの間にか施設内に水着が売られている店ができていた。聞けば、ラストが運営している服飾系のお店だそうだ。
「お店、持ってんの?」
ラストに聞いてみる。
「持っているわよ。というか、『大罪持ち』の何人かは自分のお店を持っているわ。ちなみに、この世界の服飾系が発展しているのは私のおかげよ」
えっへん、と胸を張るラスト。揺れる胸に意識が取られるよりも、それで何故バニー姿なのか疑問に思った。いや、別にバニー姿が悪い訳ではないけれど。寧ろ、いい。口にはしないが。
まあ、何にしても、水着があるのなら、「小海」はより楽しめるだろうな、と思っていると、マグレトさんが俺の部屋を訪ねてきた。シガヒ森国のユグシア守樹長と共に。




