128 大人の階段を上ったかもしれない
セブナナン王国からの人員にはもう教えた後ではあるが、念には念を入れてもう一度教えつつ、残る三か国からの人員にも、数日かけて魔石使用冷暖房の魔法陣を教えてみる。
……結果。元々セブナナン王国にも一人居たが、三か国の方にも一人ずつ、まだ荒いが少なからず効果を発揮する魔法陣を描けるようになった。また、それだけではなく、セブナナン王国を含めた四か国それぞれに、多分これから先、練習をしていけば、その内描けるようになるだろうな、と思う者が二、三人居た。
ともかく、後は練習あるのみ。質問などはあるかもしれないが、俺が教えてみる、ということは終わった。つまり、俺は自由を手に入れた。いや、魔石使用冷暖房はまだ増産部隊によって作られているので、その手伝いはするのだが……。それによくよく考えてみると、元王都を攻める前の野営中に作った、温冷操作可能の木箱の魔道具や洗濯の魔道具。アレらももしかしたら増産されることになるのでは? と思う。
思う、が………………わざわざ提案することはしない。その時が来たら、その時だ。自ら進んで忙しくしたい訳ではない。
今は増産も落ち着いたことだし、のんびりとしよう。
―――
穏やかというか、のんびりと過ごせる時間がある生活を過ごす。具体的には、朝は転移でラオルの畑で一仕事したあと、戻って魔石使用冷暖房の増産を行い、昼以降は自由時間という感じだ。増産部隊の面々も、今は大体そんな感じである。一部、練習も兼ねて昼以降も増産しているが、夜にはしっかりと休んでいるので問題ない。
そんな折、マグレトさんから「セブナナン王国から交代の人員が派遣された」と教えられる。まあ、距離が距離なので、直ぐ来るという訳ではないが、ある程度の今後の見通しがついた気がした。まあ、実際は交代人員が着いたとしても、引き継ぎなどがあるし、セブナナン王国だけの話ではないので、四か国全体が交代しても問題なし、となってからの出発になるだろう。
具体的な日はまだだが、時間はある。無限ではなく有限だが。
なので、魔石使用冷暖房の増産でも消えなかった、何か作りたいという欲求を解消するために、他にも何か作ろうと思った。金はある。今回の増産でそれなりの金額を手にしたからだ。もちろん、それは俺だけではなく、増産部隊全体で言えることだが。だから、何の憂いもなく、素材を買うことはできる、思い付くままに作っていくことができるということだ。
――が、それは思い付けばの話。思い付かなければ何の意味もない。今、これを作りたい、というものは特になかった。でも、何か作らせろ、と数日昼以降は彷徨った。
――結果。
俺の部屋の中に、ドラムの回転速度を任意に変えられる「スロットマシン・マークⅡ」、入れるコイン数で倍率が変動する「スロットマシン・マークⅢ」、リーチ時、当たり時、外側に付けられたいくつもの魔石が光る演出機能を備えた「スロットマシン・マークⅣ」、5連ドラム搭載で役を増やした大型スロットマシン「スロットマシン・マークⅤ」の計四台と、このスロットマシンで使えそうな木製コインがバケツ一杯詰まっているものがあった。
………………。
………………。
何故作った? 何故、俺はこれらを……。
そういえば、なんか彷徨っている時に……「うわっ、ぶつぶつ言いながら彷徨っていると思ったら、『なんか作りたい』を繰り返して、私も認識していないし……え、怖っ。ちょっと、大丈夫? スロー、ス……ちょっと待って。ねえ、スロース。私、作って欲しいものがあるんだけど。スロットマシンの改良を……」と後半甘えるように囁かれたような……いや、囁かれただろ、これ。
おのれ、ラスト。いや、さすがは「色欲」と言うべきか。惑わされるとか、狂わされるとか、「色欲」に支配されて失敗するとは、きっとこういうことなのだろう。
しかし、「色欲」による失敗を体験した、か……なんか大人の気分というか、大人への階段を一つ上がったような気に……いやいや、うんうん、良くない。こんな体験しない方がいいに決まっている。それに、俺はもう大人だ。……多分。記憶を探るが……う~ん。イマイチハッキリしない。大丈夫だよな? 俺の俺。使用済み、だよな?
問いかけても、答えてはくれない。
まあ、この世界から、となるとまだ新品だが。
そんなことを考えていると、不意に部屋の扉が開かれ、ラストが姿を見せる。
「……ノックくらいしろ」
「あっ、正気に戻ってる」
「ほう。そう言うってことは、俺がおかしかったのはわかっていて、それに付け込んだ自覚もあるってことだな?」
「あはは。バレたか。残念。ごめんね」
ラストがウインクしながら謝る。それを見て、俺は大きく息を吐いた。
「はあ……まあ、いい。これは借りってことで、いずれ返してもらうとして、折角作ったんだ。持っていけ」
「いいの?」
「いいぞ。あっても仕方ない。いや、困る」
ギャンブルはほどほどにというか、のめり込んでは駄目だ。また時間が飛ぶ、なんて経験は懲り懲りだ。
「わーい! ありがと! スロース、大好き!」
思いが透けて見える大好きをどうも。
四台のスロットマシンとバケツ一杯の木製コインをラストに渡す。渡す、が――。
「わかっているとは思うが、これで不健康になれば……」
「わ、わかってるわよ! 気を付ける! 健康なことは大事! だ、大丈夫だから! 忘れてないから!」
焦るラストを見て、暫し監視が必要かもしれない、と思った。




