127 終わりの光を求めて
マグレトさんが増産部隊の増員のために動き出してから、数日が経ち、遂にその日が来た。
ターキスーノ海洋国、シガヒ森国、サスゥ獣国の三か国から選りすぐられた、生産能力がある人員が増産部隊員として招集される。人にエルフに獣人。種族は様々。でも、そんなの気にしない。気にするのは、生産能力があるかどうか、それと、魔石使用冷暖房の魔法陣を描ける者が居るかどうか、だ。
まあ、何にしても、まずは魔石使用冷暖房の生産である。今では、セブナナン王国を含めた四か国の関係各位、各所だけではなく、元グレッサア王国の住人――具体的には、この王都に居を構える住民や商人も魔石使用冷暖房の存在を嗅ぎ付けたようで、そこからも陳情という名の発注が届いているようなのだ。
魔石使用冷暖房の増産は、現在何を置いても進められるべき急務にまで成長している。
なので、頑張った。
元々のセブナナン王国の増産部隊が中心となって、三か国から来た増員の人たちに手順を教えつつ、魔石使用冷暖房を増産していく。
初日。体力、気力など、充実していたので現場は和気藹々としていた。多少の残業くらい平気。
二日目。新たな増産部隊の面々から、この元王都に大きな銭湯があることを知る。親睦を兼ねて、新たな面々も加えた増産部隊の全員で向かう。……数名。裏切り者……じゃなかった。増産部隊ではなく象さん部隊の者が居た。象さん部隊ではない増産部隊の面々との絆が深まる。
四日目。明らかに作業中の口数は減っていた。別に象さん部隊の人たちへのヘイトが高まった訳ではない。指導が終わったというか、新たな増産部隊の面々が増産作業に慣れてきて、質問数が減ったのである。少し静かになったのが寂しい……と思ったり、思わなかったり。
七日目。黙々と作っていく。会話なし。ただ、作っていく。……あれ? もしかして、一週間働き詰め?
十日目。多分。休みがないので曖昧になっている。「う~」、「あ~」と軽いゾンビ状態みたいな声を出す者が出始めた。限界が近いのかもしれない。直ぐには無理かもしれないが、何かしらの手を打って休みを与えた方が良さそうだ。
十五日目。久々の休日。マグレトさんにもう限界です、と訴えたことで休みが取れた。なんと、三連休だ。心と体のリフレッシュ。ああ……当たり前だけど、太陽が眩しい。怠惰だ……この三連休は怠惰に過ごそう。
十六日目。十七日目。寝た。
十八日目。三日ぶりに増産部隊の面々と顔を合わせる。……へっ。どいつもこいつも、いい顔になってやがる。……この三日間で発注数が増えたことには目を瞑った。
十九日目。きつかった。一度休んだことにより、余計にきつく感じた気がする。だからといって休みなくには今更できない。誰も脱落することなく乗り切ろう。増産部隊の結束が高まった。
二十三日目。明日は休みだ。頑張ろう。未だ闇の中を漂い、光は見えない。
三十日目。未だ闇の中。光を求める。
三十一日目。休み。寝る。
三十七日目。闇の先に光が見えた気がした。
三十八日目。寝た。
三十九日目。増産部隊の面々と円陣を組む。終わりの光を求めた。
四十五日目。休。寝。
五十日目。マグレトさんが来た。一旦、状況が落ち着くだけの数が揃ったことを教えられた。
思考が覚醒していく。
………………。
………………。
「ということは……つまり……」
「終わった。終わったのだ。スロース殿。増産部隊はこの状況を乗り越えたのだ」
マグレトさんがそう断言する。
「「「う、おおおおお~! よっしゃあああああ~!」」」
増産部隊は歓喜に包まれた。
「ありがとう。感謝の言葉しかない」
そう言うマグレトさんも巻き込んで、握手やハイタッチ、ハグを交わしていく。
今なら間違いなく言える。今後、セブナナン王国、ターキスーノ海洋国、シガヒ森国、サスゥ獣国の四か国による共同部隊が作られようとも、俺たち増産部隊の絆が最も強いということを。
―――
魔石使用冷暖房の増産については落ち着いた。といっても、これはこの元王都内では大体出回ったというだけであって、これからの増産のメインは、四か国に向けての輸出へと切り替わっただけである。なので、増産部隊は解散しない。今後も魔石使用冷暖房を増産していくが、これまでのような数を短期間で増産する、といったことではなくなっただけだ。
それに、まだやることがある。新たに増産部隊となった面々に、俺の魔法陣を教えてみて、描ける者が居るかどうか、を確認しなければならない。俺が魔石使用冷暖房から解放されるのは、それを終えてからだろう。
それはいつのことだろうな、と思いつつ、魔石使用冷暖房を増産しながら、三か国から来た増産部隊の面々に魔法陣を教えてみた。
どうか、複数人は居ますように。
そう願いながら。




