117 程よくでも鍛えることはいいことだと思う
部屋の空調は相当良くなった。それがどういうことかというと、この部屋の中で過ごすことが苦ではなくなった、ということだ。つまり、長時間滞在が可能。ということは、出不精になってしまう可能性が高い。でも、それはそれで良くない。いや、だらだらと過ごすのもいいし、そうしたい気持ちもあるが、それを続けてしまうと不健康になってしまうかもしれない。それは駄目だ。不健康な状態では満足に怠惰もできない。感じられない。
なので、怠惰な生活を実感するためにも、健康になる、あるいは健康を維持する必要がある。
新たに作るものは、そのためのものだ。
トレーニング器具である。
今は空調が良くなったので、長時間部屋に籠れるため、その時間でパッと思い付く限りに五つ作った。
ダンベル。
頑丈な棒の両端に重りが付いているもの。手軽でどうにでも使えて、思ったら直ぐ使えるだけではなく、持って殴って良し、投げて良し、と何かしらの撃退にも使える便利アイテム。
ランニングマシン。
足場がベルトで回転するようになっていて、その場でウォーキングやランニングができるもの。普段は外で行う運動も、これなら雨の日とか室内でできるいいアイテム。
ベンチプレス。
ベンチに仰向けになり、上部にあるバーベルを手に取って上げ下げするもの。上げられないと大変なことになるので、補助してくれる人が居ると安心なちょっと危険かもしれないアイテム。
ラットプルダウン。
椅子に座って上部にある重しと繋がっているバーを上げ下げするもの。上げ下げできなかったら、ちょっと恥ずかしい姿を見せることになるかもしれないアイテム。
シットアップベンチ。
足を固定するバーが付いているベンチで、傾斜角度も調整できるもの。主に腹筋だが、他にも使える便利アイテム。
この五つを作った。もちろん、ただ作った訳ではない。今回は木製だけではなく、買い物で鉄とか糸、布、革とかも購入できたため、部分的に使いつつ、全体の強度も上げて、クッション的なものも設置しているので、これまでの木製だけよりもグレードが上がっている。
それだけではない。魔道具化もしている。魔道具化しているのは、全体の強度もそうだが、主に重りの部分。鉄で済ませてもいいが、それだとどれだけの量と金額が必要かわからないため、それを避けるために重りの部分を魔道具にした。
当初、重りは使用者の魔力量に合わせた重さになるようにした。でも、これは失敗。俺の実際の魔力量がどれくらいかはわからないが、少なくとも持ち上げられなかった。ビクともしない。試しに身体強化魔法を使っても無理だった。
どれだけの重さになっているのやら。
俺の魔力量はどれだけあるのやら。
持ち上がらないので、魔法陣を消して解除。
代わりの魔法陣を用意する。こっちは注いだ魔力量の分だけ重くなるようにする。これなら多少重いな、と思うくらいでも持ち上げることができた。
トレーニング器具は、これで一旦の終わりでいいだろう。まあ、俺の場合は筋肉を付ける――育てるというよりは、健康を維持するために使うので、これくらいで十分である。
さあ、早速一汗かこうか。
―――
一汗かいた。運動した後の気持ち良さを感じている。でも、このままは良くない。汗をそのままにすると風邪をひくことにもある。シャワーがあるので、まずはそこで汗を流してさっぱりしてこよう。
……ふう。さっぱりした。でも、疲労が残っているのは事実。つまり、それだけ体を酷使したということである。
なので、酷使した体を労わるために、マッサージ機を作ろうと思う。今からではない。体を酷使しているのに、新たに作って酷使するのは違う。まず一休み。構想を練る。
………………。
………………。
何故だろう。マッサージ機を考えて、まずハンディタイプの電動マッサージ機が思い浮かぶのは。一般的であると信じたい。
でも、今回作ろうと思ったのはそれではない。マッサージチェアの方だ。いや、ハンディタイプの方が手軽というのはわかる。効果もきっとある。でも、使用イメージが……それに使う相手も居な……いやいや、違う違う。使う相手ってなんだ。自分で自分に使う。肩とか腰に当てるだけ。それだけ。他の使い方や当てる箇所なんて……まあ、あるけど。いや、そうじゃなくて。
駄目だ。思考がどうにもそっち寄りになっている。疲れから生存本能が刺激されてしまったか? ともかく、一旦落ち着こう。
………………。
………………。
良し。もう大丈夫。自分を見失ったりしない。多分。重要なのはどう動くかではなくどれだけ振動できるか……違う。作るのはチェアの方。どう動く、動かすか、だ。
さあ、マッサージチェアを作ろう。




