１０６ せめてこれをやってから、でいつも時間がかかる
互いに飛翔できるため、空中を縦横無尽に動きながら攻防を繰り広げる。
「だったら、こういのはどうだ！ 『連鎖爆発』」
魔法で光球をいくつも作り出して、バニー姿の女性の周囲に向けて投下。程よく囲んだところで指をパチンと鳴らす。光球の一つが爆発し、それに連動して他の光球も次々と爆発していって、最終的には大爆発を引き起こした。
「やったか？」
「そういう時って、大抵はやっていないわよね」
声が聞こえてきたのはさらに上空。視線を向ければ、バニー姿の女性の蹴りが迫っていたので受け止める。
「しっかりと見ていたつもりだったんだけどな」
「確かに、中々の威力だったわ。私でも危なかったかも。でも、それだけ威力が高い分、一つ一つの爆発の規模が大きくなり過ぎていたから、それに紛れて逃れることができたのよ」
なるほど。大爆発になる前に上手く……いや、余裕はあったんだろうな。
そのまま格闘戦を繰り広げる。といっても、俺の方は受けるだけで精一杯だ。反撃する暇はほぼない。いや、その反撃頻度も当初より減ってきている。バニー姿の女性の力と速度が上がっていっているからだ。その対処に、どうしても後手に回ってしまう。未だ無傷というか、まともな一発はもらっていないが……それも時間の問題だ。
正直言って、ここまで手詰まりになるとは……勝ち目が見えない。いや、手段は……ある。ただ、それが通じなかったら……どうしよう。
悩む俺に比べて、バニー姿の女性はとても楽しそうだ。いつでも俺を倒せそうな余裕も感じられる。
「それにしても、本当に色んな魔法が使えて多彩ね。使えるのは全属性かしら？ それでも、不思議ではないわね。私たちの中に一人で全属性を使えるのは居ないから、当然と言えば当然だけれど」
「……えっと、何の話？」
「あら？ あなたとの戦いが楽しくて、ついつい要らぬことまで言ってしまったかしら？」
「いや、何が要らぬことなのか判断ができないので、先にそこを教えて欲しい」
「ふふ。とぼけちゃって。本当はわかっている、でしょ？」
「どうだろうな……それがわからないから判断ができない」
「確証はないってところかしら？ まあ、初めて会うのなら仕方ないし、それは終わったあとでね。それよりも、そろそろ大丈夫？ 準備はいいかしら？」
「準備？ 何の？」
「もちろん、均衡が崩れた後のことよ。そろそろだから」
バニー姿の女性の動きがさらに速くなる。目で追うのがやっと。あっという間に近付かれて、放たれた蹴りを受け止める――が、衝撃に殺し切れずにそのまま蹴り飛ばされる。明確なダメージはないが、受け止めた部分からバニー姿の女性の力がさらに上がったことが伝わってきた。
「く、そっ！」
飛ばされながらも体勢を変えて、バニー姿の女性に向けて魔法で熱線を数本放つ。バニー姿の女性はそれをすべて避けながら近付き、下から上に向けて拳を放ってくる。
反応はしていた。ただ、体勢が悪かったのと、さらに速度が上がっていた。受け止めるのが間に合わずに、腹部にまともに食らい、そのまま殴り飛ばされた。
飛んでいった上空で留まり、殴られた箇所に手を当てる。いいのをもらってしまった。かなり痛い。この世界で初めてまともにダメージを受けた気がする。
回復魔法……癒されていくイメージでいけるか？ ……いけた。暖かい光に包まれたような気分になって、腹部の痛みが引いていく。
完全に痛みが消えたところで、バニー姿の女性がゆっくりと同じ高さまで上がってきた。
「どうする？ まだ続ける？」
「いや、続けるも何も、そちらから仕掛けてきたと思うんだけど？」
「そういえばそうだったわね。思った以上に楽しめて、忘れていたわ。うん。運動も十分にできたことだし……」
おっ、これは、もしかして終わりにできるかも……いや、待て。まだ。まだだ。まだ終わってはいけない。何しろ、まだ挟んでもらっていないからだ。せめて、挟んでもらってからでないと終われな――。
「そうねえ……なら、最後にあなたの本気を見せて欲しいわ」
「えっと……本気？ 結構本気だったけど？」
魔法、バンバン放ったけど？
「そうなんだろうけど、まだ一手残しているような、隠しているような、そんな気がするのよね。違う？」
「……どう、だろうな」
「大丈夫よ。あなたが受け止めてくれたように、私も受け止めてあげるから。でも、見せてくれないのなら……そうね。今からでもグレッサア王国に協力して、あなたたちの側を滅ぼそうかしら？」
バニー姿の女性が怪しい笑みを浮かべる。冗談だとか、方便だとか、そんな類いのオチではないようだ。本気、なんだと思う。なんだかんだ、バニー姿の女性が興味を示しているのは俺だけなのだ。だから、俺が全力を出さないと……本当に四か国軍を滅ぼすだろう。それだけの力を有しているのは、これまでの攻防でわかっている。
……大きく深呼吸。
魔力の出力を高めていく。
