105 いいようにやられているかもしれない
王城の外まで蹴り飛ばされてしまった。このままでは地上に落下してしまうので、即座に飛翔の魔法を発動して、合わせて魔法で風を起こして逆噴射。飛ばされた勢いを抑えてから、体勢を整える。そのまま空中で一旦待機。状態を確認。怪我はない。蹴りを受け止めた箇所に痛みも……ない。身体強化魔法をより強く発動したおかげだろう。
息を吐いて王城を見れば、俺が蹴り飛ばされてできた穴から、バニー姿の女性が現れて、俺を見る。
「卑怯だぞ! 蹴りを受け止めたらご褒美……じゃなくて、挟み技で来るって言ったのに!」
「あら? 別に一回の蹴りで、とは言っていないわよ」
「………………」
「………………」
「それは、確かに」
「でしょう」
「ということは……あれ? 蹴られ損ってこと?」
一気に気力がダウンした。
「別に蹴られ損って訳でもないわよ。少なくとも、私は見直したわよ。あなたのことを。受け止めてくれて嬉しかったわ」
「……いや~」
なんか照れる。
「だから、次はもっと速く、もっと強くいくから……もっと受け止めて、ね」
「えぇ?」
照れるのは早まったかもしれない、と思う間もなく、バニー姿の女性が跳躍して、一直線に俺に向かって飛んでくる。
「飛べるのかよ!」
「当たり前でしょ!」
そのまま空中で格闘戦を繰り広げる。といっても、俺は防戦一方だ。まともに食らったものは一つもないが、それでもバニー姿の女性の攻撃はどれも重く、速くて、一瞬たりとも気を抜けない。
だからこそ、理解できた。できてしまった。
多分、バニー姿の女性は俺と同等か、それ以上に強い。
……これはマズい。俺だけではなく、四か国軍が相手でも勝ちそうだ。謁見の間に居た王さま? たちはそのことを知っていた? だから、バニー姿の女性に頼ったのか。
なら、負ける訳にはいかない。ここまでやったことを無に帰さないために。相手が俺よりも強いかもしれないからってなんだ。勝負は実際にやってみないことにはわからない。相性だってある。やれるだけやってみるさ。
「受け止めてくれるのは嬉しいけれど、そればかりだとつまらないわ。あなたもそうでしょう? 別に攻めてもいいのよ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
バニー姿の女性の蹴りを受け止めた際の勢いを利用して距離を取りつつ、魔法を発動。言葉にすることでより魔力を込める。
「『氷貫槍』」
二階建ての家くらいの大きさの氷の槍を作り出して、バニー姿の女性に向けて射出。避けられると思うから、次の魔法を――と思ったところで、氷の槍は砕け散った。砕け散って空を舞うように落ちる氷の破片の向こう側で、拳を突き出した姿勢のバニー姿の女性が居る。
え? もしかして、殴って粉々に粉砕したの?
バニー姿の女性が氷の破片の一つを掴み、噛んで、パキッと割る。
「少し柔くないかしら? 私、硬い方が好みよ」
「だったら、こういうのはどうだ! 『火炎槍』」
先ほどと同サイズの炎の槍を作り出して射出。これなら砕くことはできないはずだ。避けるしかないはず。そこを狙って次の魔法を――と考えたが、バニー姿の女性は避けるのではなく、構え、蹴りを一閃。何を? と思ったところで、炎の槍が縦に真っ二つに割れて、何かに押されるように消えていく。
まさか、蹴った風圧で? かまいたちみたいなもの? ――それはマズイ。炎の槍の向こう側に俺が居るのだ。
「うひぃ!」
咄嗟に回避行動。見えないので大袈裟に。
風を感じたかと思えば、空にある雲の一部に縦線が入った。
「ええ~……もしかして、全身凶器の方ですか?」
「それ、よく言われるわ。私みたいな女性にかける言葉ではないと思うけれど」
「それは確かに。軽率に言って、すみません」
「いいわよ。それに、ここは……私も凶器だと自負しているわ」
バニー姿の女性が腕を組み、大きな胸を下から持ち上げて盛り上げる。一緒に、どこか挑発するような笑みも浮かべて。
「……それも、確かに」
喉を鳴らさなかった自分を褒めたい。でも、脚だけではなく胸に挟まれるのも……て、違う。今は戦闘中だ。気を抜いちゃいけない。現に、バニー姿の女性が悩殺するようなポーズを取ろうとも、戦意は少しも消えていない。
「ふふ。そうそう。そうでなくちゃ。さあ、もっと楽しみましょう」
いや、少しも消えないどころか、より滾っているように見える。もしかして、戦闘も大好きな感じですか?
……はい。と答えられるのが怖いので聞かないでおく。その代わりに、今度は土を固めた巨大な拳で殴ったり、巨大な竜巻を発生させたり、さらには雷の雨を降らせたりと、連続で威力高めに魔法を放つが、砕かれ、蹴り消し飛ばされ、踊るように避けられたりとまったく通じなかった。しかも、バニー姿の女性はまだまだ余裕である。
俺の魔法がまったく通じていないというか……あれ? もしかして、戦闘の相性悪い感じ?
「ふふ。次から次へと色んな魔法を放てるなんて、とっても楽しいわ。私たち、相性がいいかもしれないわね」
あっ、そっち目線だと、そうですね。




