103 パッと見ただけではわからない状況もある
いや、本当にどういう状況だ、これ?
とりあえず、扉を開けたことに気付いていないようだし、俺は透明なままだからバレていない。じっくりと確認してみよう。
まず、ここは……玉座っぽい椅子もあるし、そこは他よりも数段高くなっている。他にも装飾が施された柱がいくつもあって、高くなっている場所に続く床には高そうな絨毯が敷かれているので、多分ここは謁見の間だろう。
それで、居る人たちは……まず、グレッサア王国兵が複数名居る。それと、仕立ての良さそうな衣服を着ている人たちが男女問わず多数。その先頭というか一番前に居るのは……顔は見えないけれど、頭に王冠みたいなのを被っている。マントも着ていて……王さまのように見える。というか、ここが謁見の間なのなら、王さまだと思う。
――で、その王さま? を含めた人たち全員が頭を下げている相手が、玉座に居るバニー姿の女性だ。そのバニー姿の女性は謁見の間の奥――玉座に座ってこちら側を向いているので、その姿がよく見える。
見た目で言えば、十代後半か、二十代前半くらいで、紫色の髪に飾りの黒色のうさ耳があって、顔立ちは恐ろしく美人。スタイルはボン、キュ、ボンを体現していて非常に良く、黒色のバニー衣装を着ていて、足は黒網タイツに、黒のハイヒールを履いている。
そんなバニー姿の女性が玉座に座り、そのバニー姿の女性に向けて全員が頭を下げているという状況が今という訳だ。うん。しっかりと確認したけど、やっぱりわからない。一瞬、玉座に座っているし、バニー姿の女性がグレッサア王国の王さまというか女王さまなのか? と思ったが、それだと王さま? が王冠を被っている意味がわからない。
……バニー姿の女性は、「真・女王さま」とか「裏・女王さま」とかだろうか?
首を傾げると、王さま? が体勢はそのままでバニー姿の女性に声をかける。
「卑劣にもセブナナン王国は他三か国と協力し、遂にこの王城まで迫ってきました。グレッサア王国存亡の危機でございます。どうか、この困難を乗り越えるために、お力添えをお願いできないでしょうか?」
王さま? から切羽詰まった感じを受ける。いや、それは王さま? だけではなく、他の頭を下げている全員からだ。唯一そんな感じを受けないのは、バニー姿の女性だけ。余裕のある笑みを浮かべている。
「あら? 王城に迫っているんじゃなくて、もう攻められているわよ。言葉は正しく、ね。それに、あなたは相手を卑劣と言うけれど、元々あなたたちの方からセブナナン王国に仕掛けたことが発端だと聞いているわよ? なら、当然やり返されることは織り込み済みじゃない?」
「も、もちろん織り込み済みです。ですが、卑劣にも我が国の最強戦力である『四魔』がセブナナン王国を攻めている隙を突き、国境付近に隠していた兵を使って国境の砦から始まり、男爵が治める町を占領し、次に子爵、伯爵、侯爵と続いて、果ては公爵が治める町まで占領したかと思えば、次の狙いはこの王都。突然のことで咄嗟に対応できず、『四魔』とも未だ連絡は取れていません。」
「ふ~ん……それで、私にどうにかして欲しいと言いたい訳ね?」
「は、はい。ど、どうでしょうか? 『四魔』が戻ってくるまで、私たちをその御力でお守り頂けませんか?」
ここまでの様子を見て、どうやら、王さま? が、バニー姿の女性に自分たちを守って欲しいとお願いしているようだ。それがわかった。一応、王さま? に真剣さみたいなものは感じられるので、冗談とかそんな感じではなさそうだ。つまり、本気。本気で、バニー姿の女性に、この状況を打開できるだけの力がある、と思っているようだ。
……ということは、「四魔」がやられてしまっているとは思っていないから時間稼ぎをしている、という推測は当たっていたが、その他に、あのバニー姿の女性が居るから、四か国軍に囲まれたとしても問題ないと籠城を選択した、ということなのか?
首を傾げると、バニー姿の女性の方も首を傾げた。
「う~ん……でも、私としてはあなたたちを助ける義理はないし、正直評判悪いわよ、あなたたち。それに、私がここに来たのは先に見てこいとお願いされたからであって、戦えとも、あなたたちを助けろともお願いされてはいないから」
「そ、そこをなんとか……そ、そうです! 何やら調べたところによりますと、相手には『大罪持ち』を名乗る不届き者が居るようです。『大罪持ち』が居ると吹聴して、此度のことを起こした可能性もあります」
「あら? もしそれが本当なら由々しき事態ね。偽者や吹聴を見逃す訳にはいかないわ。ねえ?」
バニー姿の女性の問いかけは王さま? に向けられたものではない。
多分、俺に向けられたものだ。何故なら、がっつりと目が合っているから。
あれ? もしかして、俺が見えている?




