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100 サイド 王都攻め 4

 グレッサア王国の王都を南部から攻めるのは、サスゥ獣国(じゅうこく)軍である。


 代表者であるライレン総長は、グレッサア王国の王都の壁が沈んでいくのを見て、高揚していた。


「がはははははっ! まさか、こんな手段で我らを王都に攻め入れさせようとするとは――なんという魔力量! 『大罪持ち』はやはり只者ではないな! 面白い! 是非とも一度手合わせをお願いしたいところだ!」


 これほどの大規模で魔法を使う者を相手に、自分ならどう戦うか。ライレン総長の頭の中はそれで一杯になった。だから、出遅れた。ライレン総長がスロースとどうやり合うかの妄想をしている間に、視界の端で王都に攻め入る者たちの姿を見つける。セブナナン王国軍とシガヒ森国軍だ。ターキスーノ海洋国軍の方は王都を挟んでいるので見えていない。


「いかん! 余りに楽しい想像で、先手を譲ってしまった!」


 はっ! とするライレン総長。ちなみに、妄想の中でライレン総長はスロースに一度も勝っていない。想像であるにも関わらず、スロースはライレン総長を圧倒していたのだ。ライレン総長はそういうスロースしか想像できなかったのだが……だからこそ、如何にして己の攻撃を通すかを模索するのが楽しかったのである。戦闘が大好きなのだ。


「行くぞ! お前たち! がおおおおおっ!」


 ライレン総長がサスゥ獣国軍の戦意を高めるために咆哮を上げる……のだが。


「「「……」」」


 サスゥ獣国軍は答えてなかった。何故だ? とライレン総長がサスゥ獣国軍を見れば、全員呆けていた。王国の壁が沈む光景から立ち直っていない。いや、中には本能から怯える者も居た。あのようなことが起こる、起こせる者が居るのか、と。もしも、それがサスゥ獣国軍に向けられたら、と考えてしまったのである。


「この、馬鹿者どもが! 正気に戻れ!」


 ライレン総長の拳骨が、近くに居た者たちに飛ぶ。それで正気を取り戻し、伝播するように他の者たちも正気に戻る。


「いいか! あれは敵ではない! 味方だ! だから恐れるな! それに『大罪持ち』であれば、あれくらいのことは造作もない、ということを知れたのは大きい! いざという時の心構えや予習になったからな!」


 その言葉に、サスゥ獣国軍がざわつく。まさか、総長はあれとやり合うつもりなのか? 無謀じゃね? いや、やり合いたいんだろうなぁ……戦闘大好きだから、と。


 そう思われていると察したライレン総長はそっと目を逸らし、「模擬戦くらいなら、いいではないか」と口にする。


 サスゥ獣国軍は、ライレン総長が戦闘大好き――とりわけ強い者と戦うことが何よりも好きであることを知っている。だから、基本的にはライレン総長が「大罪持ち」に絡む前に取り押さえて、駄目な場合はどうにか模擬戦の中だけの話にしてもらえるようにお願いすることにした。だから、どうかあの「大罪持ち」が話の通じる者でありますように、とサスゥ獣国軍は願う。


 思考はそこまでだ。今は戦時中である。


「もう大丈夫だな! 行くぞ! がおおおおおっ!」


「「「う、うおおおっ!」」」


「「「ぐ、ぐおおおっ!」」」


 ライレン総長の咆哮を皮切りにして、サスゥ獣国軍から様々な咆哮が次々と上がる。


 サスゥ獣国軍が、王都に向けて動き出した。


     ―――


 サスゥ獣国軍はあっという間に東部に居たグレッサア王国軍を蹂躙して、王都の中に入っていく。その動きは正に電光石火の如くだった。


 これには、サスゥ獣国軍を構成する獣人と呼ばれる種族ならではの特性が関係している。獣人には様々な種族が存在していて、その種族差や特性の違いはあれど、全体的に身体能力そのものが非常に高い。本当に高い。それこそ、その中でも上澄みともなれば、人が身体強化魔法をかけたところで対応できないほどだ。まあ、その代わりと言ってはなんだが、魔法関連は不得手だ。とことん不得手。まあ、例外もあるが、基本的に不得手である。魔力がない訳ではない。


 そのため、頑張れば個人で騎馬並みの速度が出せるし、その速度下で細かな動きもできる。


 だから、グレッサア王国軍が矢と魔法を放とうが簡単には当たらない。余裕でかわされ、足も止められず、速度も落ちない。


 王都に入ってもその動きは変わらず、止められず、グレッサア王国軍も貴族の私兵たちもその勢いに押されてどうにもできずにやられていく。


 サスゥ獣国軍は、かなりの速度で王都を占領していった。


     ―――


 そして、ほぼタイミングを同じくして、四か国軍が王都の中央付近にあるグレッサア王国の王城を取り囲んだ。


 その時、どうぞ、中へとお進みください、と言わんばかりに、王城の城壁が地面の中へと沈んでいった。

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