1 プロローグと書いておけば、それはプロローグ
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
ナハァトです。
前作の終わりから予定より時間がかかり……書き直したりしていて……どうにか投稿できるくらいには書けました。
楽しんでくれたらなあ、と思っているので楽しんでくれると幸いです。
よろしくお願いします。
では、本編へ。どうぞ。
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おはようございます。おはようございます? なんでおはようございます? 目覚めたのはわかる。意識はある。意識はあるが……俺ってなんだ? 誰だ? わからない。どうしてだ。……それもわからない。なんというか、こう、知識はあるが、その中に自分に関するものだけがすっかりなくなっている感じ。俺が誰かもわからないし……俺はどうして森の中に居る? 森……だよな? 一応、木々に草花があって、それがどこまでも続いているから森の中で間違いはない。
あと、なんか背中がチクチクする。後ろを見れば、木にもたれかかっていたからだということがわかった。……いや、おかしくない? なんで木にもたれかかっているだけでチクチク? というか、後ろを見た時に、妙に肌色が多かった気がする。確認。
……どうやら、俺は所謂中肉中背くらいの人の形であるようだ。それがよくわかった。だって真っ裸だから。俺の俺がこんにちはしている。妙に解放感があると思った。締め付けるものが何もなかったからだ。防ぐものが何もないからだ。守るものが何もないからだ。でも、わかったこともある。俺の俺には森ができていた。どうやら大人のようだ。あと、森は黒い。髪は黒髪なのかもしれない。
なんとなく満足して周囲を確認。……服の類はない。………………え? なんで? なんで真っ裸で森の中に居るの、俺? これは……どっちだ? 記憶にある世界でなんか襲われて身ぐるみを剥がされて記憶を失った? デスゲームでも始まる? もしくは、異世界に飛んだ? そう考えると、草木もどこか違うような気がするような……いや、そのままな気も……わからない……わからないが、このままでいることが危険なことだな、というのはわかる。何やら億劫な気持ちを危機感で抑え付け、立ち上がって周囲を散策する。
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森でした。いや、それはわかっている。ただ、思いのほか奥というか、森の外に出ることができない。まあ、そんなに散策していないというのもあるが。なんか裸足で歩くというのが……何故か痛くはないが靴が欲しい。切実に。それをいうなら服も。
でも、発見はあった。とても大きな湖を見つける。周囲数十kmはありそう。水深はわからない。潜って確かめる方法もあるが、予想以上に深いと水圧の問題もあるし、息止めでどこまで続くかもわからない。下手をすれば戻って来られなくなる。それに、もしピラニアみたいなのが居たらどうしようもない。何より、今の俺は真っ裸。体温の奪われるのは危険だ。なので、でっかい湖で、もしかしたら水源として使えるかも? という感想に留めておいた。
それと、見た感じ清い水に見えなくもない。透明度が高い。湖を覗き込む俺の顔が見える。やはり黒髪だった。顔の出来は……可もなく不可もなく……いや、多少可に傾いている、としておこう。あと、十代後半~二十代前半くらいに見えるので、若いことはわかった。
さて、これからどうしたものか。大きな湖のある森の中で真っ裸という以外、何もわかっていない。なのに、もう陽が頂点から傾いている。何かしらの行動を起こさないと、真っ暗の寒い中で居ることになる。つまり、火だ。火が必要なのだ。火を熾さないといけない。文化の光を……焚き火をこの手で生み出す。
焚き火は一気に大きくは燃えない。少しずつ大きくしていかないといけない。まず、当然だが種火を作るための便利な道具なんてない。ナイフすらないのだ。ここは原始的な方法として、ハンドドリル――木の棒を押し付けて回転させ、摩擦熱で火種を作るしかないようだ。できれば木の棒は平たい板とかに押し付けるのがいいと思うが、そんなものはない。太い枝はあるので、それに石で叩いてどうにか窪みを作り、そこに木の棒を当てるとしよう。次に、火種を燃えやすい火口で受け止めて火としないといけない。火口となるのは、木の削りカス……は無理そうなので、剝がれかけている樹皮や枯れ葉を使う。次に、火口の火を焚き付けに移して、さらに大きくする。炊き付けに使うのは、小枝が丁度いいだろう。そして、最後に焚き付けの火を薪となる細い枝、太い枝に移して力強く燃え始めれば焚き火の完成である。自分のことはさっぱりだが、知識だけでもあって良かった。
早速、必要な物を集めていく。少し時間はかかったが、揃ったと思ったところで、早速実行に移す。
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む、無理だ。最初の火種がまったくできない。ハンドドリルのせいで腕もパンパン。陽ももう大きく傾いて、そろそろ森の木々に隠れて見えなくなりそうである。ヤバいな。どうしよう。知識だと簡単だが、実際にやってみると手強い。どうしたものか。なんかいきなり森の中とかに居たし……ここが知識の中にある世界とは違う別の世界とかで、魔法が使えたらな。そうしたら簡単だ。
「火よ」
小さくてもいいから、と思いながら、パチンと指を鳴らす。これで一発なのに。うん。一発だった。火種に火が点いた。
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色々と思うことはあるが、普通なら大喜びするところかもしれない。でも、俺が最初に思ったのは――。
「さっきまでの無駄になった時間を返してくれ」
嘆いた後、魔法で焚き火を作った。