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Remnant:ザイロス  作者: ミラ=ユノ
第1章: ノア
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第14話:Goodbye Noah

何かが、確かに壊れていた。


──心のどこかで、ずっと聞こえていた。

かすかに軋みを上げるように、何かが崩れていく音が。


あたりを満たしているのは、凍りつくような静寂。

空調ではない。冷却装置のせいでもない。

それは、感情がすべて凍りついたような、空間そのものの“温度”だった。


ノアとミラは互いに寄り添っていた。

それでも、寒かった。


クリスの遺体。

アシュの遺体。

床に横たわるふたつの命なき体が、この空間に取り返しのつかない現実を刻んでいた。


ノアは、わずか数時間の間に——


家族の死を思い出し、

育ての親であるサラの最期を知り、

かつての仲間であるアシュと殺し合い、

そして、クリスの死を見つめるしかなかった。


胸の奥で張りつめていたものが、ゆっくりと限界を迎えていくのを感じていた。

声も出なかった。すでに涙すら出ていなかった。

すでに感情を吐き出し尽くし、空になった器のように、自分の内側が何もないことを知っていた。


もう、立ち上がれない。


そう思っていた。

何度も、そう思おうとしていた。


──なのに。


「……ノア……?」


ミラが、不安げな声で呼ぶ。

その声に応じるように、ノアはゆっくりと身体を起こした。

かつてないほど重たく感じる体を無理やり引き起こすように、ゆっくりと、立ち上がる。


「……立とう。ミラ」


穏やかで静かな声だった。

それは、何かを諦めた者の声ではなかった。

ただ、誰のためでもない、“自分のために”何かを決意した者の声だった。


世界の平和なんてどうでもいい。

人類の未来も、誰かの理想も、もうどうでもいい。


でも——


アシュが、クリスが、サラが、サイモンが、そして名も知らぬ死者たちが託した想いだけは、誰かが背負わなければならない。


「俺が、背負う。俺が……続けるんだ」


ノアは、自分自身にそう言い聞かせるように、目の前の手を差し出す。


「ありがとう。ノア」


ミラはその手を、そっと取った。

小さく震える手。だが確かに、希望を求めて伸ばされた手だった。


ふたりはゆっくりと歩き出す。

冷却ユニット区画を後にし、再びその足で、この終わりかけた世界を歩み始める。


誰かの意志を継ぐ者として。

もう一度、歩き出す者として。


——2人は協力して立ち塞がる敵を次々と倒していき、一つの重厚な扉の前に立った。

その扉はまるで、待ち構えていたかのように音もなく開いた。


──《中枢・ヴェルグ・アーク》。


かつては人間が設計したとは信じがたい。まるで巨大な心臓の中に立ち入ったかのような空間。


周囲の壁面は有機的な曲線を描き、青白い光脈が脈打つように流れている。天井には幾重にも重なるリング状の構造体が浮かび、微かに回転していた。


「……これが、《アンゲルス》の“心臓部”……この中に、最終判断プログラムが……」


ミラの声には息を呑むほどの緊張がこもっていた。


ノアは無言でうなずき、前へと踏み出す。


「……これを止めれば……きっと、世界の終焉を止めることができるはずだ」


その言葉にミラも静かに歩を進めた。


すると——


「ようやく、ここまで来たんだね、ノア」


頭上から舞い降りるように現れたのは、白銀のコートを羽織ったイーサン=ヴァレンティだった。


「アンゲルスを破壊する。意思決定者として、俺はみんなの意志を継ぐ」


ノアは一歩、イーサンの方へ進み出た。


イーサンは静かに微笑む。


「……だが、もう遅い。ノア。世界はすでに終わっている。国家は利権に溺れ、倫理は形だけとなり、人々は“生き延びること”しか考えなくなった」


「それでも……」


ノアの声が空間に響いた。


「生きようとする人間がいる限り、それは“終わり”じゃない」


イーサンの目に、かすかな憐憫のようなものが宿る。


「甘いな。君はまだ“情報の全て”に触れていない。

今、JPセクター77以外の人類圏──いや、“かつて人類だった場所”では、既に人間の姿は消えている」


衝撃の事実にノアとミラは息を呑む。そしてイーサンは言葉を続けた。


「外界にはもう“人”はいない。ただ、命令に従うだけの処理単位──自我を持たない機械だけが、文明の末端で活動している。

残された人類は、ここザイロスと、分断された3国にわずかに息づいている。

だが、それらもいずれ、争いに飲まれ、終わる」


「だからって……お前が選別するってのか?」


「そうだ」


イーサンは断言した。


「この世界には、“正しさ”を証明する手段が残っていない。ならば、“力”によって選ばれるしかない。

僕は選ぶ。生きる価値があると認められる、“純粋な意志”を持つ存在だけを」


「その先に救いはないだろ!……人は変われるんだ。ミラのように!」


ノアの言葉にミラは驚き、そして静かにうなずいた。


イーサンの声は徐々に冷たくなっていく。


「違う。これは“救済”ではない、“切断”だ。過去の罪を捨て、未来の記憶だけを残す。それがアンゲルスの役目だ。君は意思決定者だろう? ならば理解できるはずだ」


「そんなのは、“人類”の終わりだ!」


ノアの叫びに、イーサンはふと目を細めた。


「……やはり、君は“彼”に似ているな」


「誰のことだ」


イーサンは静かに眼鏡を外す。


「これはサイモンの遺した眼鏡だ。僕は彼を父のように尊敬していた。思想は違っても、理想を語り合える存在だった」


彼はコートを脱ぎ捨てた。その下には、既に人間のものではない肉体——合金と透明樹脂で構成された、機械仕掛けのボディが露わになる。


「君を倒し、コードを書き換える。悲しいが……選ばせてもらうよ、ノア。これが“選別”の意味だ」


ノアとミラは構える。


ノアは静かにブレードを抜き、ミラは背後からビームガンを構える。


イーサンも、無音のまま空気を切るような鋭さで構えた。


「……来いよ。意思決定者。その意志で、未来を切り開けるかどうか、試してみようか」


刹那、イーサンの姿が視界から消えた。


「——ッ!」


ノアは咄嗟に身体を傾ける。風が斬られた音。背後から、金属の爪が喉元に突き立とうとしていた。


間一髪、ノアは回避して回し蹴りを繰り出す。しかし——


「遅い」


機械音と共にイーサンの身体があり得ない角度で回避。足先は空を切る。


直後、カウンターの肘打ちがノアの腹部に深く突き刺さる。


「ぐッ……!」


空気が肺から弾けた。ノアは数メートル後方へ吹き飛ばされ、床に背中を叩きつけられる。


「演算完了。君の動きはあと三手で限界に達する」


淡々と告げるイーサンは、すでにノアの戦闘行動をすべて“解”として読み取っている。


「ノア!」


ミラの声が響いたが、彼女が動く前に、イーサンが指を鳴らす。


周囲の床が変形し、無数の粒子が収束して人型を成す。——《コードアンゲルス量産体》。


ミラはその群れに足止めされ、ノアとの距離を奪われる。


「これは僕と彼の話だ。退いていてくれ」


イーサンは再び、空気を切るようにノアの正面へと滑るように接近。


「お前は……世界を切り捨てようとしてるだけだ……!」


ノアは震える脚で立ち上がり、左腕に仕込まれたブレードを伸ばす。呼吸が荒い。意識が霞む。


「その声……まだ折れないのか。ならば証明してみせろ、“意志の優位”を」


次の瞬間、激突。


ノアの斬撃が閃光のように迸るも、イーサンの動きはまるで重力を無視するような軌道で跳躍し、真上から回転蹴りを叩き込んでくる。


「ぐぅッ!」


ガードしたはずの腕が痺れ、神経が焼ける。イーサンの一撃は機械の質量と正確な角度で殺意だけを抽出したような一打だ。


「さあ、立ち上がって。君は“人間の意思”を継ぐ存在なのだろう?」


イーサンは手を差し出す。だが、その手には冷たさしか感じない。


ノアは血を吐きながらも、その手を叩き払う。


「……そんな冷たい手で、人を測ろうとするな……!」


瞬間、ノアのブレードに放電が走る。過負荷モード、《Limit-Burst》。自壊覚悟の一撃。


「受けてみろよ、これが——人の願いだ!!」


全身の力を込め、ノアは真っ直ぐに踏み込む。イーサンの右肩を貫く一撃。だが、イーサンは眉一つ動かさない。


「無駄な破壊だよ、ノア。僕の身体は、そんな感情では止まらない」


貫かれた肩を無造作に引きちぎり、再び冷徹な眼でノアを見る。

イーサンの外したはずの腕は既に再生していた。

その強靭な右腕がノアの頭部を鷲掴みにし、空中へと持ち上げる。


そして——


「ッ……ぐ……ッ!」


ノアの腹部に、機械仕掛けの拳が何度も何度も突き刺さる。

鉄が肉を砕き、骨が軋む音。力だけでなく、演算された角度と重みを兼ねた一撃。


「ノアッ!!」


ミラの叫びと共に、ビームガンの弾幕がイーサンを包んだ。


しかし。


「ほう……あれだけの《量産型コードアンゲルス》を突破したのか」


イーサンは僅かに顔を上げると、嘲るように微笑んだ。


——その身体には傷一つない。


「無駄だよ。その程度の火力では、僕の装甲は抜けない」


そう告げると同時に、ノアの身体が床へと叩きつけられる。

響く鈍音と、ノアの呻き。


続けて、イーサンの右腕が“拳”から“刃”へと変形した。

ナノ構造の変異による、光すら鈍く吸い込む黒いナイフ。


それが振り下ろされようとした、その瞬間——


「ノアーーーーッ!!」


ミラの視界に“白”が広がった。


——これは、現実ではない。


自身の意識が、どこかへ引き込まれたことを、ミラは直感した。

目の前に広がるのは、まるで無限に続く記憶の箱庭。


そして、その中心に——少女が一人、座っていた。


年齢はミラと同じくらい。

だがその瞳は、信じられないほど静かで冷たく、まるで“全て”を見通しているようだった。


「ようやく来たのか、私」


「あなたは……誰?」


「“私”だよ。あんたの中に封じられてた、もう一つの人格。

あのとき——ノアと出会った瞬間に、“生き延びるため”に封印された可能性」


少女は立ち上がり、言葉を続ける。


「力が欲しいかい?

あんたが今ここで立ち止まれば、ノアは——あの優しいノアは殺されるよ」


ミラは、震える唇を必死に噛みしめながら答えた。


「……欲しい。ノアを助けられるなら……どんな代償でも構わない」


少女は満足げに笑みを浮かべた。


「いい覚悟だ。でも忘れるな。“私”はただの力じゃない。

あたしは“存在理由そのもの”だ。あんたの内に宿る、“全てを守るための狂気”だよ」


瞬間、空間が砕け、白が光の粒となって弾け飛ぶ。


——ミラは目を開けた。


そこは、元の《ヴェルグ・アーク中枢》。

ナイフはすでにノアの心臓を貫こうとしている。


「ノアッ!!」


ミラの身体から、ありえない加速が生まれた。

背面から吹き上がる推力、眼球が捉えきれない速度。


彼女の腕がノアを抱え、空間を跳ねるように跳躍する。


イーサンの刃は空を裂き、床に深々と突き刺さった。


「っ、間に合った……!」


ミラは荒い呼吸の中、ノアを優しく支える。


「ミラ……その力……?」


「わからない。でも、“助けたい”って思ったら、できたの」


イーサンは刃を床から引き抜き、舌打ちを漏らす。


「なるほど……噂は本物みたいだな。これが“封じられていた第二人格”か。《LIBRA-00》。」


ノアは、血まみれになりながらも、再び足を踏みしめた。


「ありがとう、ミラ……もう、大丈夫だ」


イーサンの瞳が赤く染まる。


「最適戦術、再構成完了。相互リンク、強化。始めよう、最終判断を。」


一瞬で姿を消したかと思えば、次の瞬間、ノアの背後に回り込んでいた。


「……っが!」


ノアの背中に重力のような打撃。肋骨が悲鳴を上げ、床を滑る。


追撃。斜め下から放たれた回し蹴りがノアの右腕に直撃。


「ぐっ……!」


骨が砕け、右腕が変な角度に曲がった。だがノアは立ち上がる。

その姿に、イーサンは機械仕掛けの冷たい声で呟く。


「なぜ立てる? 理屈に合わない」


「……“理屈”で心は動かないからさ……!」


返したその瞬間、ノアは左腕で構え直し、残った短剣を投げた。

イーサンは瞬時に弾き、今度はミラの背後にワープ。


「ミラ、伏せろ!」


ノアが叫ぶが、イーサンの手刀がミラの肩を貫く。


「うっ……!」


「ミラッ!!」


ノアが突撃し、左脚で蹴り飛ばした。


しかし──その刹那。


イーサンの左足が、ノアの右膝を逆方向に蹴り砕いた。


「があああああッッッ!!」


意識が飛びそうになる痛みに、ノアは倒れ込む。

そこに、拳の雨が叩きつけられる。


「“希望”とは、こうして粉砕されるべきなのだ。

脆く、儚く、非効率な存在として。」


最後の一撃が、ノアの左眼を潰す。


世界が、暗い闇に包まれた。



——崩れていく白い部屋の中、

声が聞こえた。


「ノア、君は誰のために戦うの?」


それは、サラの声だった。

次にサイモン。アシュ。アンナ。クリス。ミラ。

過去に出会い、失い、そして繋がった全ての声が重なる。


「進め、ノア」


「繋いだ想いを、ここで終わらせるな」


「君は、まだ終わっていない」



——ノアは左手で床を掴み、無理やり立ち上がる。

右腕、右脚、左眼……すでに破損。血まみれ。

だが、まだ生きている。


「……ああ、まだ……終わってねえよ……」


その姿にイーサンの演算が狂う。


「ありえない……生命維持は限界値を超過している……! 立てるわけがない……!」


ノアは小さく笑った。


「……機械には、わかんねぇだろ……心の底から、“負けたくない”って思う気持ちは……!」


次の瞬間、ミラがビームを放つ。それに気を取られたイーサンの胸部装甲に、ノアが跳躍し、ナイフを突き立てた。


「ここだろ……“お前の心臓”はッ!!」


ゴオォオオン!!


ノアのナイフがイーサンの中央制御コアに届く。


衝撃波が弾け、金属の皮膚が砕ける。


「っぐあ……ああああああ……ッ!!」


イーサンの身体が制御不能に陥る。


「──やはり、君は……私と違って、“人間”だったな……」


彼は崩れ落ちるように膝をつく。


イーサンの肉体は、静かに、しかし確かに崩れ始めていた。


ノアは、血に濡れた口元をわずかに歪めて言った。


「イーサン……また、いつか……あんたのストロベリーパイを食べたいな」


その言葉に、イーサンの瞳が一瞬見開かれる。


驚き、そして──


「……ああ。そうだね、またいつか……作ろう。僕とノア、そしてサラと……サイモンが。

あの、小さなテーブルを囲んで。たくさん作るよ……」


イーサンは、ふらつく足でゆっくりと立ち上がろうとするが、力尽き、仰向けに倒れ込む。


「……くそっ……

言えなかった……

 リア……」


その言葉と共に、イーサンの頬を静かに涙が伝い、

やがてその肉体は、塵となって消えていった。


ノアとミラは、ただ黙ってその消滅を見届けていた。


──すべてが、終わった。


周囲には、もう敵はいなかった。

アンゲルスの心核は沈黙し、ゼータ=ユグドの声も止んでいる。

戦火のない静寂だけが、世界に訪れていた。


ヴェルグ・アークの最深部に差し込む人工の光が、静かに揺れていた。


「……これで……《アンゲルス》を止められる……よね」


ミラが、小さく微笑んだ。

けれど、ノアの顔には影が差していた。


「……ミラ。俺の……すべてを話すよ」


その言葉に、ミラの笑みが凍りつく。


ノアが語る“真実”。

彼の口から告げられたのは、あまりにも優しく、あまりにも残酷な運命だった。


「……アンゲルスと繋がれている俺は、完全停止と同時に……役目を終える。

つまり、消えるってことさ」


「……そんなの……そんなのって……!」


ミラの声が震える。

膝をつき、崩れ落ちるように叫ぶ。


「だったら……壊さなければいい!

アンゲルスを壊さなきゃ、あなたも……!」


「それで、未来が守れるのか?」


ノアの声は、苦しげだった。


「俺たちは、もう知ってしまったんだ。

この兵器が存在する限り、誰かがまた手にする。

俺がいなくなった後、それを“正義”の名で動かす者が出てくる……。

それを止めるのは、今しかない。俺にしか、できない」


ミラは言葉を失い、ただ首を横に振り続けるしかなかった。

冷たい床に手をつき、涙がポタポタと落ちていく。


──ノアが、背を向けて歩き出す。


足取りは静かで、穏やかで、それでいて、あまりにも決意に満ちていた。


けれど──


その足が、ふと止まる。


「……ミラ」


肩が小さく震えていた。


ゆっくりと振り返ったノアの瞳には、こらえきれない涙が滲んでいた。


「本当は、別れたくなんかないんだ……!

止めなきゃいけないってわかってる。使命だって、理解してる。

でも、心が……お前と一緒にいたいって、叫んでるんだよ……!」


その瞬間。


ミラは立ち上がり、駆け出していた。

声にならない想いを胸に、ノアに飛び込むように抱きしめる。


「……バカ……どうして……そんな優しいことばかり言うの……!」


ノアは、ミラを強く抱きしめ返す。


2人の間に、言葉はいらなかった。


そして、ミラが顔を上げる。


ノアの目を見つめると、彼もまた、その目を見返した。

そこには、どんな世界よりも確かな“想い”があった。


2人の唇が、静かに重なる。


──ほんの少し、甘くて、あたたかい味がした。


「ありがとう、ミラ……最後に、“プレゼント”を渡すよ」


ノアは、ミラの額にそっと手を当てた。


その瞬間──ミラの意識に、ノアの“記憶”が流れ込んでくる。


サイモンの優しい手。

イーサンと語った真理と絶望。

サラの笑顔と、別れの涙。

アシュが命をかけて守ろうとした叫び。

──そして、ミラと過ごした、かけがえのない時間。


クレープ屋の甘い香り。

背中合わせに見上げた星空。

くだらない冗談と、すれ違い。

泣いて、笑って、また歩き出した記憶。


「……ミラ、大好きだよ」


ノアの声が、優しく、あたたかく、耳に響いた。


「私も……大好き、ノア」


もう一度、ゆっくりと唇を重ねる。


それは、未来を共に歩めない2人が交わす、たったひとつの“永遠”だった。


やがて、ノアがミラの手を静かに離す。


立ち上がり、振り返らずに歩き出す。


ミラは、その背中を見つめながら──微笑みながら、涙を流した。


「……じゃあね、ノア」


ノアが、最後に手を振る。


その身が、ヴェルグ・アークに吸い込まれ、静かに光に包まれていく。


ゴウン……


深く、低い起動音。

それは、静かに始まったノアの終焉の合図だった。


空間が揺れ、光が砕け、空間がゆっくりと崩れていく。


ノアの姿は、もうどこにもなかった。


けれど──


彼の“想い”は、確かにミラの胸に刻まれていた。


たとえ命が尽きようと、記憶は消えない。

たとえ体が滅びようと、愛は残る。


それが、ノアの“選んだ未来”。


そして、ミラが“生きていく理由”だった。

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