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Remnant:ザイロス  作者: ミラ=ユノ
第1章: ノア
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第11話:ZETA

──USI本拠地、セントラル・セネスタ侵入作戦。


「全ユニット、突撃準備完了!」


爆音とともに地面が震えた。空にはドローンの編隊が飛び交い、対空砲火が交錯する。レイヴン=カーライル率いる《ライブラ・ヘイヴン》の残存部隊が、ついにセントラル・セネスタの外郭に到達していた。


「ここで止まったら、全てが終わるわよ!」


黒の外套をなびかせ、前線に立つレイヴンの声が鋼鉄の戦地に響き渡る。かつて栄光の反カンパニー軍と呼ばれた《ヘイヴン》の魂が、今ふたたび燃え上がる。


「突撃──!」


号令と同時に地面を割るような爆発音。兵士たちが雄叫びとともに前進を開始した。


「“約束”は果たす。お前たちは、内部に入ってアンゲルスの心臓を止めてこい!」


「……ありがとう、レイヴンさん」


ミラが礼を告げると、レイヴンは短く頷いた。


「行け、ノア。君が選ぶ未来を信じてる」


その言葉を最後に、爆発音とともに彼女は前線に向けて走り出した。


ノア、ミラ、アシュ、クリス、アンナ──五人はその隙を突き、裏手の補給ゲートから施設内に潜入した。


──


「ここから内部の中枢施設へ直通するルートがある。だが構造は複雑だ。二手に分かれた方が効率がいい」


アシュが提案した。声は落ち着いていたが、どこか硬かった。


「俺とクリスとミラは東棟を、ノアとアンナ西棟を頼む」


ノアが頷き、二手に分かれて進行する。




──数分後、東棟・冷却ユニット区画。


アシュ、ミラ、クリスの三人は薄暗い通路を進んでいた。突然、壁を突き破って現れた自律型ドローン数体が襲いかかる。


「来るぞ! 電磁波防御を展開!」


クリスが咄嗟にシールドを張り、ミラが回避機動と同時に反撃を加える。アシュは一歩も引かず、真正面から敵のセンサー部を撃ち抜いた。


「……完了。これで制圧」


クリスが、最後の敵を撃ち倒し、銃を静かにホルスターへ納めた、その直後だった。


「──悪いな、クリス。お前はここまでだ」


その声は、あまりにも静かだった。

まるで友人に別れを告げるような、日常の延長にある言葉のようにすら聞こえた。


乾いた破裂音が戦場に響き渡る


パンッ


「……え?」


クリスがゆっくりと振り向こうとしたその瞬間──

彼の頭部が、真横から炸裂した。


アシュの放った弾丸は、精密にこめかみを貫通し、頭蓋の内圧を破裂させるようにして、後頭部を吹き飛ばした。

血液、頭蓋骨の破片、そして灰白色の脳髄が壁一面にぶちまけられ、肉片が乾いた音を立てて床に落ちる。


身体だけが反射的に一歩前に出たかと思うと、力なく膝から崩れ、そのまま壁にもたれかかるように倒れ込んだ。

ずる……と、まだ温かい脳の一部が、後頭部の空洞から滑り出て、床にどろりと落ちる。


血の匂いが一気に空間を満たした。


「アシュ、何を──っ!」


ミラが叫ぶ。だが、その声をかき消すように、すでにアシュは彼女に向かって銃口を向けていた。


その顔には、悲しみも、怒りもなかった。


ただ、狂気と疲弊の奥に、何かが壊れたような虚無だけが、ぽっかりと浮いていた。




──西棟:研究格納区画


「……こっちは無人みたいだな」


「でも、なにか……おかしい」


ノアとアンナは、静寂の中を進んでいた。

重々しい自動扉を抜けた先にあったのは──白く、何もない空間だった。


「ここ……だけ、まるで別世界みたい……」


空間中央には、銀色に光る球体が浮いていた。

それは有機的でありながら、人工物のような存在──


《ZETA=YGGD(ゼータ=ユグド)》の本体。


ノアは無意識に、その装置に手を伸ばしていた。


──触れた瞬間、視界が白く弾けた。


 



《メモリーバンク接続完了》


《意識反応:確認》


《ZETAプロトコル──記憶回復手順を開始》


 


ノアの中に、爆発のように記憶が流れ込んでくる。


──白い研究室。


──液体の中に浮かぶ、自分の“原型”。


──微笑む白衣の男。サイモン・グラス。


──言葉を発せずとも伝わる愛情と、技術者としての絶望。


 


(これは……俺が、生まれた場所……?)


 


《あなたは、この場所で生まれました。ZETA-Unit Code:SIGNA=NOAH》


《あなたの存在は、人類終焉を阻止する可能性の一つです》


(ゼータ=ユグドが……語りかけてる……?)


 


意識の中で、誰かが泣いている声がする。

誰かが何かを願い、何かを守ろうとしていた。


その“誰か”が──サイモンであり、ゼータユグドであり、かつての自分だった。


 


《全記憶再生プロトコル起動:80%》


《次の段階に進むには、意識の完全開放が必要です》


《あなたは、“意思決定者”の資格を持っていますか?》


ノアは眉を寄せた。


(意思決定者……。それは、ゼータユグドが未来を導くための……)



確実に、自分は何かを背負わされている。


そしてこの空間こそが──その始まりだったのだ。


 


アンナが声をかける。


「ノア、……大丈夫? 顔色が……」


「……ああ、大丈夫。大丈夫だよ……でも、たぶん──ここからが、本当の始まりだ」


ゼータユグドの本体が、脈動するように静かに光を灯す。


《全記憶再生準備完了》


《Phase:GENESIS》


《ノア=シグナ、あなたの起源を開示します》


ノアの視界が、ふたたび白く染まっていく──。

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