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DQN  作者: 迎ラミン
第二章 寺
8/23

寺 3

「ねえ、ケイ先生。ちなみにですけど――」


 週明けの月曜日。幸浜中の視聴覚室でケイトは、真向かいから小声で話しかけられた。顔を上げると、キャスター付きの椅子ごと対面の位置に移動してきたセイが、じっとこちらを見つめている。

 今はもう放課後で、英語研究部の活動中である。

 部は現在、《ヴォイスオーバー! ~日本のアニメを英語で吹き替えてみた~》という研究活動に取り組んでいる。名前の通り複数の人気アニメ作品から名場面を抜粋し、自分たちで台詞を英訳、それを使った吹き替え動画もつくってみようという意欲的な企画だ。毎年の恒例だそうで、ここからさらに夏休み一杯かけて、実際に何本かの動画を制作する予定になっている。副部長も務めるセイによれば、そのなかから出来が良いものをいくつか選び、さらにブラッシュアップもして秋の文化祭で上映するのだとか。


「でも、ネットにアップしたりはしませんよ。失礼なコメントを書き込んだりして、一所懸命やってる人を馬鹿にしたり傷付けたりするような、最低な奴らだっているから」


 と、冷静な言葉も口にしていた。ともあれこうして、彼女たちは毎回の活動でコツコツと、まずは台詞の英訳から進めている。

 この日は顧問の先生が会議で不在のため、副顧問を務めるケイトだけが、指導役として端の席に座っていた。するとセイが「ケイ先生、どっちの英訳がいいか、ちょっと見てもらっていいですか?」とノート片手に席を移ってきたのである。

 セイが台詞を英訳しているのは、靴職人を目指す高校生の男子が、雨の日に出逢ったミステリアスな年上女性に恋をするという有名なアニメ映画だった。じつは海外でも広く知れ渡っており、何を隠そうケイトも大好きな作品だったりする。


「何?」


 声優役をどうするかの相談かと思い、ケイトは気軽にセイの顔を見返した。吹き替えまで自分たちでやってしまう部員もいれば、演劇部に頼んだり、逆にパソコンの合成音声を当てたりする者もいて、完成した動画は例年、多種多様で面白いとも言っていたからだ。

 しかし尋ねられたのは、まったく予想外の内容だった。


「殺人事件についての新しい話、何か知ってます?」

「え!?」


 突然何を言い出すのだ、とケイトはつい声のトーンを上げてしまった。通路を挟んだ隣の列から、ペアで取り組んでいる一年生部員二人が驚いた視線を向けてくる。


「あ、ソーリー。なんでもないの。続けて」


 とりあえず笑顔でごまかし、自分も小声になって尋ね返した。


「どうしてそんなことを訊くの? もちろん私は、何も知らないけど」


 するとセイは、褐色の肌に囲まれたつぶらな瞳を輝かせて、どこか楽しそうに言ったものである。


「だってケイ先生、事件の捜査をしてる刑事さんといい雰囲気じゃないですか」

「な、何を言ってるのよ! だから古峰さんとは、そういうのじゃありません!」

「ふーん。古峰さんていうんだ、あのイケメン刑事さん。年も近そうだし、お似合いですね」


 しまった、と思ったがもう遅い。これでサイをはじめとするいつもの五人組にも、「ケイ先生といい雰囲気の刑事さん」が古峰という名字だと、早々に情報が共有されてしまうだろう。思春期の女子が「コイバナ」を好むのは、アメリカも日本も変わらないなあ、と思う。


「でも本当に、古峰さんとはステディな関係とかじゃないからね。みんなも含めて町の人たちを心配してくださってて、そのイッカンとして私ともお話してくれるだけよ」


 たまたまとはいえ二人で食事をして、以降もたがいに気遣うようなメッセージや電話のやり取りをしているなどとはさすがに明かせない。


 ていうか実際、お付き合いしてるわけではないし……。


 自分自身にも言い聞かせつつ、ケイトは表向きの説明をしておいた。

 相変わらず楽しそうにそれを聞いていたセイだが、言葉が切れたところで、ふと表情があらたまる。

 瞬きを一つ挟んで、彼女はこちらの目を覗き込むように確認してきた。


「じゃあ古峰さんから、事件についての情報はなんにも聞いてないんですか?」

「ええ。大体、私たちイッパンジンに、そんな重要な話を簡単にしてくれるわけがないでしょう」

「そっか。そうですよね」


 納得した様子で頷いたセイは、「ごめんなさい、変なこと訊いちゃって」と可愛らしく舌を出しながら頭を下げてきた。


「ケイ先生とあのイケメンさんなら凄くお似合いだよねって、シーとも話してたから」


 予想通りの名前が出てきて、ケイトは苦笑してしまう。真面目なサイやホウ、そして大人しいテンは、仮に興味があったとしても大っぴらにそんな話はしないはずだからである。


「ほら、関係ないことに頭を使ってないで、早く英訳を完成させて。スケジュールも結構厳しいんでしょ」

「はーい」


 笑ったままノートを指してやると、いつもの表情に戻ったセイも素直に答えてくれた。




 数時間後。噂をすれば、ではないがケイトのスマートフォンに古峰から着信があった。たまたまだろうけれど、先週末の事件があった夜と同じく、シャワーを浴びて一息ついたタイミングでのことだ。


「ハロー?」


 以前にも増して打ち解けてきたからか、ケイトは自然とアメリカ風の応答をしていた。古峰の方はいつも通り、「こんばんは。古峰です」と丁寧に名乗ってくれる。


「ケイ先生、今、お時間大丈夫ですか?」

「オフコース。ちょうどシャワーを浴び終えて、リラックスしてました」

「そ、そうですか。なんだかすみません」

「いえ。私からも、メッセージを送ろうかと思ってたところなんです」

「本当ですか? ありがとうございます」


 本心から喜んでくれていることが、大きくなった声から伝わってきた。この間も抱いた感想だが、女性慣れしていないティーンエイジャーみたいで、ついつい笑いそうになってしまう


 こういう性格、なんて言うんだっけ……あ!


「ふふ」

「ケイ先生?」


 ウブ、という日本語を思い出し、今度こそ笑い声が漏れてしまった。怪訝そうにする古峰に「ソーリー」と続け、あらためて用件を確認する。


「それで、どうしました? あ、もちろん特に用事がなくても、私も嬉しいですよ」


 アメリカ人らしくストレートに付け加えると、再び律儀に「ありがとうございます」と答えてから、古峰は意外な質問をしてきた。


「教え子の皆さんは、大丈夫そうですか?」

「え?」


 なんのことかわからず訊き返した直後、古峰の声が神妙なトーンに変わる。


「小中学生の子どもたちが、怯えて学校に行けなくなったりしていないか心配になって。我々の力不足で、二週連続での殺人事件という大変なことになってしまい、本当に申し訳ありません。この間もお伝えした通り、皆さんが一日も早く安心して暮らせるよう、引き続き全力を尽くします」


 どうやら彼は、ケイトが思っている以上に、犯人逮捕に至らない現状を気にしてくれているらしい。幸浜が小さな田舎町という事実もわかっているからだろうが、やはりもともとが優しい性分なのだろう。


「サンクス。今のところ、小学校も中学校も問題ありません。必ずグループでトーゲコーさせてますし、中学の部活動も早めに終わるようにしていますから」

「なら良かった。もし僕が幸浜の子どもだったり、そうじゃなくても親御さんの立場だったら、やっぱり凄く心配ですから」

「ユーアーソーカインド。ありがとうございます」


 本当にいい人だなあ、と先ほどとは違う笑みを浮かべたところでケイトは閃いた。


「そうだ、古峰さん」

「はい?」

「もしお時間があれば、実際に子どもたちと会ってみませんか。逆にあの子たちの方も、古峰さんを『イケメンの刑事さん』なんて言って、お顔を覚えちゃってるみたいなんです」

「ええっ!?」


 意外な申し出に古峰はびっくりしている。それはそうだろうな、とケイトも自分で提案しておきながら、またおかしくなってしまった。事件の捜査をしていたら子どもに顔を覚えられたなんて、刑事っぽくない古峰ならではの話だ。

 二秒ほど考えるような間が空いてから、古峰は「じゃあ」と笑った。


「せっかくだし、お言葉に甘えて話を聞かせてもらおうかな。ケイ先生の教え子なら、みんな可愛くていい子たちでしょうし」

「イエス! 特に懐いてくれてる五人組がいるんですけど、みんなとってもグッドボーイズ&ガールズなんです。ぜひイントロデュースさせてください」

「OK。アイム・ルッキング・フォーワードです」


 気持ちが和んだのか、彼もおどけて英語で返してくれる。その後もリラックスして他愛ない会話を楽しんだ二人は、機会を見つけてサイたち五人に古峰が会いに来るという約束も交わして、笑顔で通話を終えた。




 律儀な古峰は約束を守って、早くも三日後、子どもたちに会いに来てくれた。彼からそうしたい旨を伝えられた直後に、ケイトも五人のリーダーであるサイに伝えてある。

 かくして「イケメンの刑事さん」と子どもたちは学校が終わった放課後、第一の事件現場からもほど近い、琴浜の遊歩道にあるベンチで初めて対面することとなった。

 先に待ってくれていた古峰を、真っ先に発見したのはシーだった。


「うわ、やっぱ格好いい! ケイ先生、ずるい!」


 しかも第一声がこれである。「何がずるいのよ」と苦笑するケイトの隣では、「だよね」とセイが、そして真面目なホウまでもが「たしかにお似合いです」などと勝手な感想をつぶやいている。最後の良心たる(?)サイだけは、「テン、ちゃんと挨拶するんだよ」と従兄弟の手を引きながら、女子たちのコメントをさり気なくスルーしてくれたが。


「こんにちは、みんな。小野原警察署の古峰です。放課後なのに、わざわざありがとう。」


 古峰の方もこちらに気付いて、立ち上がり爽やかに挨拶してくる。「ありがとうございます、ケイ先生」と、ケイトにもいつもの笑顔を向けてくれた。


「いえ。お伝えした通り、この子たちも古峰さんに会いたがってたので」

「こんにちは! 私、青木詩織です! ケイ先生のこと、大事にしてあげてください!」


 ぱっと手を挙げたシーが、ますます勝手な台詞を口走る。もはやつっこむ気も起きないケイトを差し置いて、テンも含めて五人はそれぞれに〝らしい〟自己紹介を述べ、すぐに場は和やかな雰囲気に包まれた。


「――なるほど。じゃあみんな、小さいときからずっと一緒に育ってきたんだ」

「はい。ご覧の通りの田舎町で、小学校も二クラスだけでしたから。テンたちなんかはもう、一クラスになっちゃってますし」

「県内で唯一、過疎認定されてる町だもんね。僕も小野原の人間だけど、正直、幸浜がそこまで人口が減ってるなんて、大人になるまで全然知らなかったよ」

「観光地として名前だけは知られてるから、逆に衰退しているなんて思われないのかもしれませんね」


 二列並んだベンチで向かい合い、古峰とサイが大人同士のようなやり取りを交わす。彼と子どもたちは、自己紹介からの流れで自然に会話を弾ませていた。五人組が興味津々というのもあるが、古峰自身の朗らかで優しいキャラクターもあるのだろう。シーとセイによって「ケイ先生は、ここでしょ」と強引に彼の隣に座らされたケイトも、先程から微笑ましくその様子を見つめ続けている。


「あの、古峰さん」


 話の切れ目を上手く見計らって、ホウが胸の前に手のひらを掲げた。彼女が座る側のベンチは、向かって左からホウ、テン、さらにサイ、シーという並びである。こちら側はセイ、古峰、ケイトという順で、四対三のお見合いのような格好は最初から変わらない。

 片方の手をテンと繋いだまま、ホウは落ち着いた声で続けた。


「事件についてもし気になることがあれば、私たちへの聞き込みも、この場で遠慮なくしちゃってください」

「あ、うん。ありがとう」


 ずばりと言及されて、逆に古峰の方が面食らっている。家業の手伝いを普段からしているホウは、セイと並んで大人とも如才なく会話できる優等生だ。年度が替わって新たなクラスの学級委員を決める際も、満場一致でこの二人になったとケイトは聞いている。


「ケイ先生からも伺ってたけど、君たち五人は本当に凄いんだね」


 笑顔を取り戻した古峰だが、すぐに事件の話をするでもなくしみじみと口にした。


「頼りになるリーダーのセイ君に、元気なムードメーカーのシーちゃん。好奇心旺盛で行動力のあるセイちゃんと、お姉さんタイプで面倒見がいいホウちゃん。そんなみんなに可愛がられてる、芯はしっかりしてるテン君。聞いてた通りだし、会えて本当に嬉しいよ」

「あ、ありがとうございます」


 面と向かって褒められ、ホウがさり気なく頬を染めている。大人びているとはいってもそこは思春期の女の子、可愛らしい反応だ。


「じゃあお言葉に甘えて、ちょっとだけ事件絡みの話をさせてもらってもいいかな。とはいっても事情聴取とかじゃなくて、学校での友達の様子とか、おうちの人たちはどんな風に心配されているかとかを、ざっくらばんに。逆に僕の側からも話せる範囲でだけど、何か質問があれば答えさせてもらうよ」


 笑みを深くした古峰が、安心させるように大きく頷いてみせる。

 そうして、連続殺人事件に関する小さな学級会のようなものが始まった。


 宣言通り、古峰はまず学校内の様子を皆に尋ねてきた。具体的には今回の連続殺人事件が、生徒たちの間でどのように捉えられているか、話題に上る頻度は高いのかといった部分である。


「うーん、危機感がなくて申し訳ないんですけど、なんか身近で起きてるって感じがしないんですよね。被害に遭ったのが同世代の子とかだったら、もっとやばいって思うんでしょうけど」

「うん。少なくとも女子はみんな、そんな感じだよね。ぶっちゃけ、元ヤンでDQNなおじさんが復讐されたんなら自業自得じゃん、みたいな声もよく聞くし」

「なるほど。たしかにそうだろうね」


 さっそく意見を述べるセイとシーに、古峰もすかさず同意する。先日、ケイトも電話で彼に伝えたが、自分の目から見ても、子どもたちが特別怯えているような様子は見られない。セイが言うように危機感がなさすぎるのも困るが、情緒不安定になったり、引いては心の病にかかってしまったりするよりは、そちらの方がよっぽどいい。


「男子も同じです。やっぱり元ヤンへの怨恨殺人だろうって、みんな捉えてますから。警察も、そちらの線をメインに捜査されてるんでしょう?」

「うん。被害者二人の共通点から動機はほぼ明らかだし、わざわざ殺害方法まで同じにしてるわけだからね。模倣犯って可能性もなくはないけど、同一犯による復讐と見て間違いないと思う。マスコミにもそれは公開済みだし。……って、ごめんごめん、お堅いうえに物騒な話になっちゃって」


 またもやサイと大人のようなやり取りを交わして、古峰は苦笑している。「いえ」と自分も微笑んで首を振るサイの隣で、「テン、小学校はどんな感じ? あ、もちろん行った日の印象だけでいいからね」とホウが視線を左側に向ける。


「うん。おんなじ」


 ぶっきら棒というよりは言葉を選んでいる感じで、テンは素朴な答えを、きちんと古峰に向けて発した。つまりは中学と同じく、どこか他人事のような空気が小学校でも漂っているということだろう。

 それも仕方ないかな、とケイトは思う。保護者たちは心配だろうが、何せ小学生の子どもたちなのだ。身内の誰かが殺されたのならともかく、自分と直接関わりのない、それも「元ヤン」で「DQN」な人物の生死など、彼ら・彼女らにとっては、すぐに意識の外へ追い出されてしまってもなんら不思議ではない。


「だろうなあ。了解、テン君もありがとう」


 古峰もそこは予想していたようで、笑顔でテンに礼を述べている。するとサイが、逆に古峰への質問を発した。


「あの、差し支えない範囲で構わないんですが、犯人の特定に繋がりそうな痕跡とか情報は、見つかっていないんですか」

「というと?」


 視線を返した古峰の目が、一瞬だけ鋭く光ったようにケイトには見えた。刑事としての職分を守り、話せるラインを見極めようとしているのかもしれない。

 それでも冷静に、「例えばですけど――」と宙を見つめてからサイが答える。


「凶器の石に指紋が付いてたとか、被害者の二人に恨みを抱いてそうで、しかも犯行時刻にアリバイのない人物がいたとか」

「お、鋭いなあ。けどさすがに、そのあたりは具体的にイエスとかノーとかは答えられないんだ。ごめんね。ただ、僕ら下っ端が相変わらず聞き込みとか現場の調査を続けてるってところで、察してくれると嬉しいかな」

「あ……。わかりました。ありがとうございます」


 困った顔をする古峰の返事から、サイも文字通り察したようだ。すなわち指紋や容疑者の特定など、犯人に繋がりそうな何かはまだ見つかっていないらしいと。「すみません、生意気な質問をしちゃって」と、謝るのを忘れないのもさすがである。


「ケイ先生は、どうですか」

「え?」


 サイが自分にも話を振ってきたので、ケイトは思わず目を瞬かせた。理知的な瞳がまっすぐにこちらを向いている。


「ケイ先生は、厳密には町の職員なんですよね。だったら先生方だけじゃなくて、役場の人たちがどんな風に事件を捉えてるのかみたいな部分も、知ってるのかなって思って」

「あ、ううん。たしかに契約上は町の臨時職員だけど、用がない限りは役場に顔を出すこともないから。先生たちは……そうね、もちろん心配してるよ。ただ、セイちゃんとシーちゃん、テン君も言ってたけど、みんなの様子が変わりないのには、逆にちょっと安心してるかな。学校で会ってる限りだけど、今回の事件で物凄く怯えたり、心に傷を負っちゃったりするような子がいなくて、本当に良かったって私も思ってる」

「ありがとうございます。セイじゃないですけど、どうしても身近な感じがしないので」

「だよね。でも引き続き、登下校とか外を歩くときは気を付けてね」

「はい」


 頷いてからサイは、「ちなみにですけど――」と続けた。


「先生方も、事件は怨恨絡みだと見てるんですか?」

「どうだろう。でも被害者たちのことを知ってる先生もいらっしゃるし、警察もそう発表してるから、大体同じ考えなんじゃないかな」


 軽く傾けたケイトの頭の中に、葉村の顔が浮かんだ。ただ、彼は既に容疑者から外れていると古峰も言っていたし、自分からわざわざ触れるような話でもないかと思う。それにサイたちだって彼の教え子なのだから、二人の被害者と葉村が小中学校へ同時期に通っていたということも、どこかからの情報で知っているかもしれない。


「まあ、そうですよね」


 再びサイが頷いたところで、話を一段落させるように古峰が明るい声を出した。


「なんにせよケイ先生が仰ったように、みんなも引き続き気を付けて。あ、もちろんケイ先生もですよ。日本は治安がいいなんて言われますけど、特に女性の一人歩きは用心するに越したことはないですから」

「サンクス。でも何かあったら、助けてくださいね」

「も、もちろんです。どこからでも、すぐに駆け付けます!」


 にっこりとケイトが顔を覗き込むと、あたふたした返事とともに、不自然に目を逸らされてしまった。じつはなかば確信犯でやってみたのだが、相変わらずウブなところのある人だ。


「お話はこれぐらいにして、みんなで少し歩きましょうか。ようやく涼しくなってきたし」


 さり気なく舌を出して立ち上がると、子どもたちも笑顔で倣ってくれた。


「古峰さん、海岸ぎりぎりまで一緒に行ってもらっていいですか? お魚とか見つけるの、テンが凄く上手なんです!」


 テンと手を繋いだシーが、海側へと古峰を誘ってゆく。というかむしろ彼女の方が、軽快な足取りのテンに引っ張られているようでもあった。そういえばテンは、以前もここで大きな蟹を捕まえて見せてくれた。港町の子どもらしく、海の生き物が好きなのだろう。

 二人の姿を、ケイトは目を細めながら眺めやった。

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