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DQN  作者: 迎ラミン
第二章 寺
6/23

寺 1

 キャシーでの食事をきっかけに、ケイトは古峰とメッセージのやり取りをするようになった。 何を隠そう、


《幸浜での事件が一段落ついたら、本当に食事に誘わせてください》


 と、重ねての誘いだって受けている。恥ずかしながら恋人などいない身だし、あの台詞は「シャコージレイ」ではなかったのだと、正直なところちょっぴり嬉しくもある。

 そうしたなかでの翌週末。

 なんと、またもや町内で他殺死体が見つかるという事件が起きた。




 前回と同じく、死体の発見は土曜の朝。殺害方法も同様で、おそらくは石での撲殺らしい。ただし場所は打って変わって、御林神社からは少し離れた(りゆう)(せん)()という寺の一角である。

 竜泉寺は町内の(やま)(いし)地区と呼ばれるエリアにあり、港側から見ると、幸浜半島の付け根を挟んだ反対側に位置している。今はもう廃校となった旧『山石小学校』の校舎とグラウンドを見下ろすような形で、土手沿いに建つ小さな寺だ。ケイトも話でしか知らないが、幸浜の人口が一万人近かった平成初期までは、幸浜小と山石小、二つの小学校が町にあったのだとか。


 その竜泉寺の敷地内、土手の斜面に広がる墓地で、後頭部を殴られ死んでいる中年男性が再び発見されたのだった。

 今度も大家の杉野さんから話を聞いたケイトは、まるでデジャヴだと感じながら現場へと急いだ。時刻も先週とほぼ同じで、確認したスマートフォンの時計は午前八時台を示している。

 十五分ちょっとで現場に到着すると案の定、既に沢山の野次馬が、寺へと続く階段や山石小の周囲にたむろしていた。グラウンドは警察車両が駐車場として使っているようで、出入口には制服の警察官も立ち、一般人は入れなくなっている。


「あ!」


 グラウンドの外から首を伸ばしたケイトは、墓石が並ぶ斜面の下で話し合う、男性二人の姿にすぐさま気付いた。古峰と彼のバディ、たしか野明とかいう刑事だ。

 しばらく見つめていると、先日と同じように「あとは任せた」とでも言わんばかりに手を挙げた野明が、一人でグラウンドに下りてくる。そうして一台のセダンに乗り込むと、早々に海の方へと走り去っていった。徒歩でも五分程度だが、そちらには幅百メートル程度の砂浜『山石海水浴場』がある。人の出入りもここよりはあるので、手がかりを探しに行ったのかもしれない。


 やっぱり、自分だけ手柄を立てたいのね。


 人知れずケイトは頬を膨らませてしまった。古峰と打ち解けるなかで、感じていたことである。もちろん本当のところはわからないし、キャシーでは古峰も「別に仲が悪いってわけじゃありませんよ」と語ってはいた。

 けれども県警組と所轄組の立場の違いについて、


「まあドラマとか映画も、当たらずとも遠からずってとこはありますけど」


 と、タコスをかじりながら苦笑していたのもよく覚えている。

 つまり野明は、現場での雑用や地道な聞き取りなどは古峰に任せて、というか押し付けて、事件解決に繋がる大きな手がかりや証言のみを狙い、単独で動き回っているのだろう。


「美味しいとこだけ持っていこうなんて、セコいじゃない」


 スラング混じりの日本語が漏れたタイミングで、視線を感じてくれたのか、数十メートルは離れているはずの古峰がこちらを振り向いた。真っ直ぐに目が合い、向こうも「あ!」という表情で小さく会釈してくれる。

 嬉しくなったケイトが、さり気なく手を振ってみせたとき。


「ケイ先生!」

「おはようございます!」


 これまたデジャヴのように、サイとシー、さらにはホウ、セイ、テンも揃ったお馴染みの五人組が現れた。彼らもさっそく事件のことを知ったようだ。


「おはよう」


 さて、何をどう話したものか、とケイトは一瞬考えてしまった。二週続けての殺人事件が起きてしまった事実は、もう隠しようがない。同一犯か、それとも別人かはわからないが、犯人もまだ捕まっていないはずである。教師としては、危険だから家から出るなと言った方がいいかもしれない。

 そこまでいかないにしても、犯人が逮捕されないまま週明けになってしまえば、登校時だけだった集団での移動を下校時にも適用したり、通学路に保護者や地域の大人が立つといった話が、学校や役場から確実に出るはずだ。やはり今は、この子たちを安全に帰宅させなければ。

 唇を引き結んだタイミングで、テンが「ケイ先生」と素朴に呼びかけてきた。


「うん? 何?」

「誰に手を振ってたんですか?」

「え? ああ、ええっと――」


 別に隠すことではないのに、微妙な間が空いてしまった。すると目ざといシーが、興味津々で言ったものである。


「あそこのイケメンさんと、手ぇ振り合ってましたよね? ひょっとして彼氏さんですか?」

「え!? じゃあケイ先生、警察の方とお付き合いされてるんですか?」


 真面目なホウまで、いや、真面目だからこそか、目をぱちぱちさせながら信じてしまっている。


「ノー! 知り合いは知り合いだけど、先週の事件で聞き込みされただけ! 手だって、私の方しか振ってないってば!」

「本当かなあ。ケイ先生、自分も美人だから絶対面食いだよねって、私たちいっつも話してるんですよ」


 セイまでいたずらっぽく加勢し始めた。というか、どんな評価をされているのやら。

 場違い極まりない会話をようやく終わらせてくれたのは、やはりサイだった。


「おいみんな、プライバシーの侵害だぞ。大体それどころじゃないだろ」


 ぽんと手を叩き、一歩前に出て真面目な声音で確認してくる。


「すみません、ケイ先生。また現場に来ちゃって。でも僕ら、帰った方がいいですよね」


 ケイトも気を取り直し、「そうね」と頷いてみせる。


「マンガイチ、犯人と出くわしちゃったら大変だし。とりあえず皆を順番に家まで送っていくわ。ここは警察に任せて、もう行きましょう」

「はい」


 やっぱりサイ君は頼りになる、と感心しつつケイトは子どもたちを促し、早足でその場をあとにした。

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