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DQN  作者: 迎ラミン
第三章 港
13/23

港 3

 第三の殺人が起きてから半月後。ケイトは小学校の廊下で、同じく授業終わりの葉村に呼び止められた。


「ケイ先生」

「あ、葉村先生。お疲れ様です」

「急で申し訳ないですけど、今日の放課後って空いていますか」

「え? はい、特に予定はありませんけど」

「それは良かった」


 いつもの穏やかな笑みが、彼の顔に浮かぶ。


「飲みに連れていってくださる、とかですか?」


 周囲に子どもたちがいないのを確認してから、ケイトは小声で尋ねた。事件の捜査はいまだ進展が見られず、町民によっては不満の声もあるという。ただし大部分は、第三の事件から一週間も経たないうちに、田舎らしいのんびりした空気を取り戻している感じだった。ターゲットが元不良のDQNばかりということで、やはりどこか他人事なのだろう。かく言うケイトたち教員にも、以前と変わらず、仕事終わりに連れ立って食事をする者などが出てきている。


「いやいや、私は下戸だから」

「あ、そうでしたね」


 以前、たまたまハマユウ書店でコーヒーをご馳走になった際、葉村自身から聞かされたのだった。酒も煙草もやらないそうだが、優しくて真面目なこの人にぴったりだと、勝手に納得したものだ。ケイトも自分から飲むほど好きではないし、アルコールに強くもないので、葉村先生にしてはめずらしいな、と思い逆に尋ねたのである。

 果たして葉村が誘ってきたのは、飲み屋ではなく意外な店だった。


「ケイ先生、内藤商店さんには行かれましたか」

「いえ。残念ながら、まだ」


 内藤商店――いつだったかホウとも話した、元芸能人の店主が経営する人気のラーメン屋である。遠く県外からもマニアが訪れるほどの人気店であるうえ、最近では連続殺人事件の取材をするマスコミ関係者も加わって、ますます入りにくくなっている。そんな状況もあって、ケイトもいつかいつかと思うままに、いまだ食べられていないのだった。


「じつはですね――」


 まるで秘密の取引をするかのごとく、葉村も声をひそめた。


「このあと内藤商店さんで、新商品の味見を頼まれてまして」

「えっ!?」

「今日は定休日なんですが、他にも二人ほど、できれば年代の違うお客さん候補を連れてきて、意見を聞かせて欲しいそうなんです。もちろん無料ですよ」

「ワオ!」


 叫びかけたケイトは、慌てて手のひらを口に当てた。

 葉村いわく、そもそも内藤商店が現在の場所に店を構えることができたのも、同世代の彼が、遠縁に当たる不動産屋を紹介してあげたからだとか。


「私、高校時代の同級生が落語家をやってるんですよ。その線から、たまたま内藤さんが物件を探していると伺って」


 義理堅い内藤氏はその恩を忘れておらず、葉村が店を訪れた際はトッピングをこっそりサービスしてくれたり、こうして新メニューの試食をさせてくれたりもするのだという。


「で、いつだったかホウちゃんが、自分もケイ先生もまだ内藤さんのラーメンを食べたことがない、って言ってたのを思い出しまして。十代と二十代の女性なら、内藤さんがアピールしたいお客さん層にもぴったりですし」

「なるほど。ウィン―ウィンになるわけですね」


 気付けばケイトも、ますます小声になっていた。傍から見れば完全に怪しい密談である。


「どうですか、ケイ先生。ホウちゃんとは現地で合流することにしていますので」

「オフコース! ぜひご一緒させてください。ありがとうございます」


 声を大きくしないよう心がけつつも、頬が緩むのをケイトは止められなかった。寿司やそばなどの純和食も好きだが、何を隠そうラーメンやカレー、コンビニのレジ前フードといった「ショミンの味」もまた大好きなのである。しかも念願叶っての内藤商店だ。


「しっかり食べて、しっかりモニターさせていただきます」


 きりっとした顔で伝えると、葉村はおかしそうに笑みを深くした。




「こんにちは、葉村先生。わざわざすみません。さあ、どうぞどうぞ」


《定休日》の看板がかかっている内藤商店の出入り口をノックすると、バンダナを頭に巻いた長身の店主が、すぐに出迎えてくれた。店内からは同じ格好の、奥さんと思しき女性も「こんにちは!」と笑顔で挨拶してくれる。

 ようやく入れた内藤商店は、厨房に面したカウンターとテーブル席が三つ、あとは出入り口から衝立を隔てた左手にささやかな小上がり席があるだけの、こぢんまりした内観だった。話によればキャシーやハマユウ書店と同じく、こちらも夫婦二人だけでやっているそうなので、これくらいがちょうどいいのだろう。


「おお、あなたがケイ先生ですね。お噂はかねがね。店主の内藤です。で、そちらが教え子のホウちゃん、と。お二人とも初めまして」

「ケイト・ファフナーです。葉村先生のお言葉に甘えてしまって、すみません」

「相馬法子です。私までお邪魔しちゃって、ごめんなさい」

「いえいえ。こっちがお願いしたんだし、遠慮なく召し上がって、忌憚のないご意見を聞かせてください」


 葉村が事前に伝えておいてくれたのだろうが、内藤がさらりと自分たちの名前を口にしたことに、ケイトもホウも驚いた。しかも元芸能人らしからぬ気さくな態度。店内の壁なども、タレントのサインなどをこれ見よがしに飾ったりしておらず、誰が見ても「小綺麗な普通のラーメン屋さん」だ。


「あの、内藤さんは凄く有名なコメディアンだったって、お聞きしたんですが……」


 なんだか信じられないケイトは、ついストレートに尋ねてしまった。だが彼は嫌な顔一つ見せず、「有名ってほどじゃないですよ。ちょいとテレビに出てただけです。それもトリオの端っこで」と変わらずに頬を緩めて謙遜するばかりである。口の脇や目尻にしわこそ刻まれているが、黒々とした髪や色艶のいい肌は若々しく、同世代だと言っていた葉村より遙かに年下のようにも見える。とはいえ奥さんとお揃いのバンダナ、そして胸当て型のエプロン姿が完全に馴染んでいる姿は、やはり芸能人というよりも「愛想の良いラーメン屋のおじさん」だ。


「ほら、立ち話させちゃ悪いでしょ。どうぞお入りになってください。テーブル席でいいですか?」


 背後から夫をたしなめた奥さんが、皆をなかに促してくれる。「ええ、もちろん」と葉村が代表して答え、一同はテーブルを付けた即席の四人がけ席へと案内された。


「ケイ先生と、相泉さんとこのホウちゃんね。お二人とも噂通りの美人さんだし、会えて嬉しいわ。内藤の妻、()()()です。どうぞよろしく」

「お世話になります」

「こんにちは」


 夫以上に気さくな感じの由貴子夫人は、ケイとホウを前に、にこにこと興味津々の態である。


「特にケイ先生は、葉村先生だけじゃなくていろんな人から、お話を伺ってたの。町にもすぐ溶け込んでくれた、凄く素敵でいい先生だって」

「あ、ありがとうございます」


 内藤にも「お噂はかねがね」などと挨拶されたが、一体全体、自分は幸浜町の人々になんと言われているのだろう。若干不安になってきたケイトは、複雑な表情で返してしまった。隣ではホウが、斜向かいでは葉村が、そんな様子を見ておかしそうに笑っている。


「大丈夫ですよ。家内の言葉通りです。外国人がめずらしい土地で、すぐさまみんなの人気者になった英語の先生。日本語もペラペラで、本当は〝なかに日本人が入ってるんじゃないか〟説まであるアクティブな美人さん。皆さん共通して、そう言ってます」


 さっそく試食品の準備をするのだろう、カウンターの向こう側へとまわりながら、内藤も明るく続ける。張りのある声とわかりやすい説明に、ケイトは彼が就いていた前職の片鱗を感じさせられた。なんにせよ、悪い噂は立っていないようでほっとする。


「すみません、ケイ先生。内藤さんたちのような移住者はともかく、田舎の人間はこれだから。あ、私はもちろん勝手な噂話なんてしてませんからね」

「私たちだってしませんよ」


 葉村とともに、隣に座るホウも安心させるような台詞で続いてくれる。ただし、わざとらしく「あんなことや、こんなことも黙ってますから」などと付け加えるので、ケイトは思わず「こら!」と頭をはたくふりをした。


「どんなことかは知らないけど、大人をからかわないの。ホウちゃん、なんだか最近、シーちゃんとかセイちゃんみたいになってきてない?」

「あはは。気のせいですよ、気のせい」


 教師と教え子というよりは姉妹のようにじゃれ合う二人を見て、残る大人たちが一斉に笑う。

 そうして、リラックスしながら待つこと五分ほど。「はいよ、最初の品、お待ちどお」という内藤の声に続き、由貴子がお盆に載せた小型のどんぶりと箸、レンゲを三つずつ運んできてくれた。


「じゃあ、まずはこれを試食してみて」

「ワオ!」「おお!」「美味しそう!」


 ケイトたちの目が揃って輝き、同時に歓声も上がる。


「期間限定の新作『フィリップラーメン・秋味』です。まずかったら正直に言ってくださいね」

「とんでもない! 見ただけで美味しそうです!」

「いい匂い!」

「それにこれ、ソリー・フィッシュ……ええっと、サンマ、ですよね?」


 英語が先に出てしまったが、ケイトが尋ねた通りどんぶりには銀色の焼き魚が、チャーシューの隣で大きく存在を主張している。たしか似たような日本食の写真を見たことがあったな、と記憶を探ろうとしたところで、ホウがすぐにその名を口にした。


「にしん蕎麦みたいですね! ほんとに美味しそう!」

「ご名答。うちはもともと魚介系のスープだけど、これは秋刀魚からも出汁を取ってるの。あとは秋鯖なんかも加えてね。麺がのびないうちに食べてみて」


 由貴子の返事に従い、三人は「いただきます」とこれまた見事に揃ったタイミングで手を合わせ、さっそく食べ始めた。


「うん、お世辞抜きに美味しいです。臭みとかが全然無くて、でも秋刀魚の香りや脂の美味しさが感じられる。さすがだなあ」


 レンゲでスープも味わいながら、葉村が何度も頷く。ケイトとホウもまったく同感だった。さらにトッピングも、定番のチャーシュー、ナルト、メンマ、煮卵に加えて、シメジにチンゲンサイと季節の野菜が加わっているので、まさに『秋味』の名に相応しい。ちなみに頭の「フィリップ」というのは、お笑い芸人時代の内藤の芸名『フィリップ内藤』から取っているそうで、その『フィリップラーメン』こそが店の看板商品ということは、ケイトも様々な人から聞かされている。


「エクセレント! 私、こんなに美味しいラーメン、初めてです! 明日からでもお店で出せると思います」

「ですよね! うちのお客さんにも絶対お薦めしちゃいます」


 絶賛とともに、女子二人もあっという間に丼一杯を平らげてしまった。嘘偽り抜きに、修正して欲しいところなど何も見つからない。


「良かった。全国的にも秋刀魚出汁はめずらしいみたいだし、正直どうなのかなってところもあったんです。もちろん自信はありましたけど、自分たちは店の味に馴染みすぎちゃってますから」

「グルメの葉村先生に、アメリカ人のケイ先生、中学生のホウちゃん。三者三様の皆さんが褒めてくれたし、これで安心して他のお客さんにも出せるわ。こちらこそ、本当にありがとう」


 内藤と由貴子も、逆に嬉しそうに顔をほころばせてくれている。期間限定と言っていたし、きっとこれで内藤商店はますます行列が伸びることだろう。そういった意味でも、今日連れてきてもらえて良かったと、ケイトは葉村に心から感謝した。


「ありがとうございます、葉村先生。こんなに美味しいラーメンを食べさせてくれて」

「いやいや、お礼なら内藤さんにどうぞ」


 だが内藤夫妻も、「何言ってんですか。助かってるのはこっちですから」「そうですよ。むしろ、食べてくれてありがとうです」と謙虚な態度を崩さない。キャシーの甲斐夫妻やハマユウ書店の草柳夫妻もそうだが、幸浜移住組の人たちもまた、気持ちのいい町民ばかりだ。加えて先ほどの話ではないが、度の過ぎた噂話に花を咲かせたり、相手のプライベートに首を突っ込むような真似は決してしない。

 都会ほど冷たくはないけれど、一昔前の田舎みたいに、ずけずけとこちら側に踏み入って来ることもない心地良い距離感。それを自然に実践できる人たちが、移住者にこそ多いようにも感じるのは気のせいではないだろう。


 こういう方々が、未来の幸浜を創っていくんだろうな。


 すっかり町の人間のような感想を抱きながら、ケイトもずっと笑顔を浮かべていた。




 内藤夫妻は秋味ラーメンの他にも、幸浜で養殖しているという牡蠣を使った『牡蠣ワンタンスープ』や、ラーメンに入っているものとはひと味違う、豆板醤風味、カレー風味との『変わり味玉』も試食させてくれたが、それらもまた絶品の味だった。しかも帰り際には、人気商品の『フィリップ餃子』までお土産に持たせてくれるので、三人は恐縮するしかない。


「これじゃあモニターっていうより、タダメシグライですね。ごめんなさい」


 帰り際、ケイトがぺこりと頭を下げると、内藤夫妻は「あはは」と揃って大きく笑い、手を振ってみせてくれた。


「とんでもない。具体的な感想も沢山もらえて、冗談抜きに助かりました。新商品も自信を持って出せそうです。三人とも、どうもありがとうございました」


 頭のバンダナを取った内藤が、会釈までしてくれる。隣で夫とまったく同じ動作をしてくれていた由貴子が、顔を上げて「それにしても」と続けた。


「ケイ先生、本当に日本語ペラペラですよね。そういうスラングとか難しい四字熟語とかも、自然に使えるんでしょう」

「はい。敬語だって全然問題なくて、下手したら私たちよりきちんとしてるくらいです」


 本人より先に、ホウが嬉しそうに胸を張る。教え子が自分のことを誇りに思ってくれているらしいとわかり、ケイトもまた喜びが湧き上がってくる。けれどもなんだか照れ臭いので、笑ってごまかすことにした。


「ときどきホウちゃんたちにまで、必要ないところで敬語を使っちゃうけどね。〝黒板消しを取っていただけますか〟みたいな」

「ははは、それは見てみたいなあ」

「どこかのお嬢様みたいね」

「ノー。普通の家ですよ。マムはシングルですし」


 リラックスしていたからか、つい聞かれてもいないことまで口にしてしまった。とはいえ今の時代、国内外を問わずシングルマザーは取り立ててめずらしくもない。ましてや内藤夫妻は外の世界も知っている移住者だ。案の定「ああ、そうなんですね」となんでもない調子で流してくれた。葉村とホウも、「へえ」という表情を一瞬見せただけで、すぐに変わらない笑顔に戻っている。


 噂話ウンヌンじゃなくて、自分から言ってたら世話ないわね。


 内心で苦笑を浮かべたケイトは、気持ちを切り替えて再び頭を下げた。


「本当にご馳走様でした。今度はお客さんとして、きちんとお金を払って食べに来させてください」

「ありがとうございます。ケイ先生なら、いつでも大歓迎ですよ」

「ぜひお待ちしてます。もちろん葉村先生もホウちゃんも。皆さん、こちらこそどうもありがとうございました。まだちょっと明るいですが、気を付けて帰ってくださいね」


 最後まで気さくで優しい内藤夫妻と手を振り合って、三人は店をあとにした。


「まずはホウちゃんを送っていきますけど、ケイ先生はどうされますか? いったん港のそばまで行ってから戻る形で良ければ、最後までご一緒しますよ」


 道に出てすぐ、葉村が尋ねてきた。時刻は午後六時過ぎ。内藤が言った通りまだ明るいが、よく考えたら幸浜は連続殺人事件の真っ只中なのだ。ホウだけでなく、大人とはいえ女性であるケイトのことも気遣ってくれたらしい。

「あ、大丈夫ですよ」と片手を振ったのはホウだった。


「今日、内藤商店さんにお邪魔することは家にも言ってありますから。電話すれば、すぐに母が車で迎えに来てくれるので、葉村先生はケイ先生を送っていってあげてください。たしか葉村先生のおうちも、役場の方でしたよね」


 学年一、とも讃えられるしっかりした様は伊達ではない。「それは良かった」と葉村が頷くと同時に、ホウは眼鏡のフレームとお揃いの色をした赤いスマートフォンを取り出し、さっそく自宅へ電話をかけ始めた。


「もしもし、お母さん? ……うん。今、お店を出たところ。……うん! 超美味しかった! ……わかった。じゃあ坂の下で待ってるね。はい。はーい」


 やり取りの中身をすぐに察したケイトと葉村は、アイコンタクトを交わし、ホウの母親が到着するまでは付き添うことにした。内藤商店は港に繋がる道から緩い坂を上って五分程度の場所にあるので、通話が終わるのを待ち、ぶらぶらと三人で坂を下り始める。


「おうちの方は大丈夫なの?」


 親子よろしくホウを真んなかに挟んで歩きながら、ケイトは尋ねてみた。ホウの自宅でもある旅館『相泉』は、感染症の世界的流行すらも乗り切って営業を続けている人気の宿だ。今日も忙しいのではないだろうか。


「今夜は四組だけって言ってたし、大丈夫だと思います。お陰様で週末とかは、常連さんを中心に全部のお部屋が埋まったりしますけど」

「へえ」

「なんにせよ、変わらずに営業できているのは本当にいいことだね。感染症が終わったと思ったら殺人事件だなんて、いい加減な商売してたら絶対に厳しくなってたはずだよ。ホウちゃんもお手伝いしながらの相泉さんのおもてなしが、それだけ素晴らしいって証明だ」


 感心するケイトの反対側から、葉村がにこにこと褒め称える。


「ありがとうございます。葉村先生も、またぜひお食事にいらしてください」

「うん。あのキンメの煮付けは最高だもんねえ。お父さんにも、よろしくね」

「はい」


 如才なく答えるホウの姿を、ケイトは微笑ましく眺め続けた。先ほど感心させられたのは、旅館の経営が良好なことだけではない。こうして自分たちとも完全に会話が成立する、ホウの大人っぽさや聡明さを、あらためて凄いなと思ったのである。

 たまにケイトは勝手な想像をしてしまう。あの仲良し五人組のなかで、テンを除けば唯一の、そして誰が見てもナイスガイなサイが、シー、ホウ、セイのそれぞれと付き合ったらどんなカップルになるのだろう、と。


 シーちゃんとは、まさに「ビナンビジョ」よね。おたがいに憎まれ口を叩いちゃいそうだけど、ビジュアル的にも完璧。で、セイちゃんだったら、意外にあの子がサイ君を振り回しちゃう形かも。好奇心旺盛で、いろんなところでデートしたがりそうだし。


 そして、ホウ。


 ホウちゃんとサイ君は、そのままずーっとお付き合いして結婚まで行っちゃいそう。今だって、しっかり者の夫婦って感じだもんなあ。


 男女の学級委員として、常にてきぱきとクラスを切り盛りする二人の姿を思い出しながら、つい頬を緩めてしまうのだった。しかしながら、こればかりはおたがいの気持ちがあってだし、サイも彼女たちも揃って魅力的なので、他のグループからも大人気だ。どんな形にせよ素敵な恋をして、学校生活も頑張って、充実した十代を過ごして欲しいと心から願うばかりである。


「――先生。ケイ先生? 大丈夫ですか?」

「え? ああ、ソーリー、ホウちゃん」


 呼ばれてケイトは、ハッと我に返った。


「どうしました?」

「あ、ううん。ホウちゃんはいつもちゃんとしてて凄いなって、先生として誇りに思ってたの」

「……本当ですか? なんか思いっきり怪しいんですけど」

「ほ、ほんとほんと! あなたならきっと、いいお嫁さんにもなれるんだろうなって」


 あたふたとごまかしたものの、逆に冷静な口調でつっこまれる羽目になった。


「ケイ先生。そういうの、マリハラって言うんですよ。マリアージュ・ハラスメント」

「そ、ソーリー」


 これでは、どちらが先生だかわからない。

 しょぼんとうなだれるケイトを見て、葉村だけが変わらずにこにこと微笑んでいた。

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