寺 5
《それでハマユウ書店の美智絵さんに、素敵なキーホルダーをいただいたんです》
メッセージに続いて、付けたばかりのキーホルダーの写真を送る。返信はすぐに届いた。
《綺麗ですね! キーにもよく合ってます。ケイ先生はさり気ないお洒落がお上手ですよね。アクセサリーとかも上品だし、お会いするたびに素敵だなって思ってました》
《Thanks ! I'm so happy !》
ハマユウ書店から帰って、入浴と夕食も済ませた晩。もはや当たり前のように、ケイトは古峰とメッセージをやり取りしていた。相変わらず捜査で忙しいだろうに、古峰もまた、そんなことは微塵も感じさせない明るい言葉を返してくれる。
今は学校帰りにハマユウ書店に寄ったこと、そこでテンと葉村に会えたばかりか、美智絵から松竹石のキーホルダーをもらったことなども、嬉々として報告していたところだ。
《ひょっとしてその石って、幸浜の松竹石ですか?》
《Yes ! 凄いですね、古峰さん。見てわかるんですか?》
逆に訊き返すと、ここまでほとんど間を置かずに表示されていた返信が、初めて時間を置いて、それも十秒近く経ってから届いた。
《いえ、じつはですね》
またしても不自然な間。そうして彼が伝えてきた内容に、だがあまり驚かなかったのは、心のどこかでケイト自身も同じ可能性を考えていたからだろうか。
《一部の媒体では既に報じられてるみたいですが、事件の凶器になった石、いずれも松竹石だったんです》
《I see. 最初の事件は神社のチカライシだし、この間のも現場がお墓ですもんね》
《ええ。御林神社に祀られている力石は、いずれも松竹石でできているそうです。そして二つ目の事件も、墓場にある香炉――お線香を置くために石をくり抜いた箱のようなものが凶器だったんですが、やはり松竹石製だったんです》
《なるほど》
とはいえ、そこに何か意味があるのかどうか、ケイトには皆目見当が付かない。同一犯の可能性こそ高いようだが、凶器の素材が一致したのは単なる偶然の可能性も多分にある。特殊な石が取れる狭いコミュニティで、神社の力石と墓場の香炉で人を殴れば、それが仮に他の町だったとしても、同様の結果が生まれるのではないだろうか。
考えながら、ケイトは自然にビデオ通話ボタンをタップしていた。やはり直接話す方が手っ取り早いし、彼の顔を見たいというのもあった。
「もしもし」
「ハロー、ケイトです。今、大丈夫ですか」
「はい。僕も今は自宅ですから」
言葉の通り、Tシャツ姿の古峰の背後には、エアコンとカーテンの上部が映っている。以前に尋ねた際、「警察の独身寮で寂しく暮らしてます」と笑いながら彼が教えてくれたのを、もちろんケイトは忘れていない。
「良かった。それでメッセージの続きなんですけど――」
口調をあらためて古峰に尋ねる。
「トーゼンって言ったら申し訳ないですけど、二番目の事件も結局、指紋とかは出ていないんですよね」
「ええ。残念ながら。単純ではありますが、おそらくは手袋をした手で凶器を持って、背後からガツンとやったんだと思われます。さらに念を入れて複数回殴打しているのも、最初の事件とまったく同じです」
「オー、ノー。何度もですか……」
「ええ。あ、これも、もうマスコミにはオープンになっている情報ですから大丈夫ですよ」
相変わらず古峰は、たとえ物騒な話をしていても、さらりとこちらを気遣ってくれる。もちろんケイトも、彼が非公開情報を一般人の自分に漏らすなどとは、欠片も疑っていないが。
そんなことを頭の片隅で考えていると、何かに気付いた様子の古峰が慌てて付け加えてきた。
「すみません、せっかくの素敵なキーホルダーなのに、事件の凶器と同じ素材だなんて話になっちゃって」
「いえ、ノープロブレムです。素材は共通していても、さすがに石そのものが同じってわけじゃないでしょうから」
笑って首を振りながら、ローテーブルの上にある松竹石のキーホルダーを手に取って眺める。先ほど古峰宛の写真を撮ったときと同じく、鏡のように磨き上げられた表面に、黒髪の女性が映り込む。
ちょっと気が強そうに思われちゃうのよね。
髪と同じ色のくっきりした眉に目をやって、ケイトはさり気なく苦笑した。彼にもそう思われていませんように、と願いながら。
「ケイ先生? どうしました?」
「ああ、ソーリー。じゃあ引き続き、古峰さんは捜査を続けられるんですね」
「はい。ほぼ毎日足を運んでますし、いっそのこと幸浜に部屋を借りちゃった方が早いんじゃないかって思い始めてるくらいです。はは」
「無理しないでくださいね。もし帰れなくなったら、いつでも連絡してください」
「い、いえ、基本的に車で来てますので!」
再び慌てた反応をされて、ケイトもようやく理解した。ただし自分としては、特に深い考えもなく伝えただけだったし、むしろ「相変わらずウブな人だなあ」という感想が浮かんで、笑ってしまいそうになる。
「OK。じゃあお時間があれば、今度はお話したハマユウさんでお茶でも飲みましょう」
「はい、ぜひ!」
嬉しそうなリアクションに、「では、グッナイ」と明るく返して通話を終える。ふと目をやるとキーホルダーのなかの自分もまた、どこか嬉しそうに笑っている。
次の瞬間、ふと思い付いた。探偵の真似事をするつもりなどないけれど、せっかくだし松竹石について詳しく調べてみよう。
輝く石の表面を撫でたケイトは、よしっ、とばかりに小さく頷いた。




