プロローグ
外国人女性が殺人事件の謎を追う、長編ミステリです。
©Lamine Mukae
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【名簿に揺れた過疎の町 ~なぜ町長は選挙人名簿を不正利用したのか~】
《昨年十一月、K県の外れにある幸浜町で、着任したばかりの竹宮正彦町長(五一)が、
「役場職員だった立場を利用し、有権者の氏名・住所等の個人情報が載った町民名簿をコピー、九月に行われた町長選挙で不正利用した」
とみずから明かし、責任を取る形で職を辞した。各種ネットニュースのトップ記事をはじめ、全国的に大きく取り扱われた事件だったので、覚えている方も多いだろう。
翌十二月の、言わば「やり直し選挙」。前回の選挙で竹宮氏に敗れた元町長、元会社役員、さらには泡沫候補の自称法律家など数名が、町の刷新を謳い立候補するなか、告示五日前になんと竹宮氏も再度の出馬を表明する。
「私自身も幸浜出身。その愛する町の皆さんから、心を入れ替えてもう一度頑張ってくれ、と多くの声をいただいた」
としてのことだ。急ぎで作ったのだろうか、選挙ポスターに顔写真などはなく、毛筆で大書された名前のみ。ビラにもやはり手書きでの名簿不正利用に関する謝罪文と、渦中の身ならではの(?)潔さが逆に目を引いた。
街中での演説も、
「私の認識の甘さで、田舎しか知らない故の見識や教養の至らなさで、町民の皆様に大きな大きなご迷惑をかけ、赤っ恥をかかせてしまった。だからこそ自分のケツは自分で拭かせて欲しい! 落とし前を、この手で付けさせて欲しい!」
と、町長立候補者らしからぬ言葉遣いと涙声で、なりふり構わず訴える様が、とにもかくにも注目を集める格好に。
果たしてやり直し選挙の結果は、これまた驚いたことに、その竹宮氏がわずか八十票差ながらも見事に当選。「不正を告白し辞任した町長が、直後の選挙で再び選ばれる」という、前代未聞の事態となったのである。
竹宮氏は自身の給与を一年間受け取らないこと、一連の騒動に関してさらなる謝罪と説明を真摯に行うこと、仮に刑事罰が科されるならば、素直に受けることなどを明言しているものの、内外の風当たりは強いままだ。
人口約七千人、うち半数以上が高齢者という、県内で唯一の過疎認定を受けている幸浜町。かつては風光明媚な観光地として賑わった時代もある港町は、これからどうなってゆくのだろうか。》
(森長裕:フリージャーナリスト)