シンデレラが迎えに来た9
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『単刀直入に言います。
大地とは、別れてください。』
『…理由を聞いてもいいですか?』
『過去、芸能人と付き合っていると世間にバレると、謂れのない誹謗中傷や殺害予告なんかが大地やあなたに降り掛かります。
事務所としては大地のことは守りますが、あなたのことは守れないんです。
そんな想像を絶する状況になっても、あなたは付き合い続けることができますか?』
『…はい!私は大地さんのことを本気で愛しているんです…!
だから、どんな困難も乗り越えていけます…!』
『若いですね。考えの全てが若くて甘いです。
いいから、潔く身を引きなさい。
大地はアイドルとして今が一番大事な時なんです!
そんな時に恋愛スキャンダルなんて、ファンが離れ、売上が下がるんです!
あなたはその分の補填なんてできないでしょ?
あなたが下がりきった大地のイメージを上げてくれるんですか?』
『…できないです。
でも、でも…それでも、大地さんのことが大好きなんです!』
朝田明里は瞳に涙を浮かべ、震える肩を必死で抑え込んでいるような演技をしていた。
『仕事の愚痴を言ってても最終的には、この仕事が大好きでファンがとっても大切だってオチになるところとか
ファンも大切だし、私のことも大切にしたいって言ってくれるところとか』
溜めていた涙が、大きな瞳からポタポタと溢れていく。
もう演技ではなく本物の感情そのものに見えた。
『私も、彼の将来を考えるなら、別れた方がいいってわかってます。』
『わかってるなら別れなさい!』
『わかってます!わかってます…!
矛盾する気持ちだってわかっていますが…
運命的に出会えたのだから、別れたくありません!』
「カット!!!」
すごい、すごい…
もう言葉にできないほどそのお芝居にのめり込んでしまった。
ポタポタと涙を流していたのにカットの声がかかるとピタっと泣き止む朝田明里はやはり、今を輝く若手女優なのだろう…
「明里ちゃん、いいかんじなんだけど、もう少しだけ意思を強くできる?
子供っぽいセリフなんだけど、交渉してるような…
できそう?」
「はい!
『別れたくありません!!』
『別れたくありません…!』」
色々な少しずつ感情の込め方、抑揚の付け方を変えながら何パターンか試していた。
『別れたく、ありません…!』
「あ!そんな感じ!それでお願いします!」
「はい!」
潤んだ瞳で仕事を華麗にこなす彼女は、この世で一番輝いていた。
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