シンデレラが迎えに来た4
「あ〜わぁ〜〜あ…」
「夕方までアクビが続くなんて、世界新記録でヤンスよ」
「面白すぎる映画が悪い…!編集しようと思ったのに、最初っから最後まで全部見ちゃったし…」
「あの映画は面白いでヤンス…しょうがないでヤンスな。でも、某らは受験生でヤンス!そこは忘れてはいけないでヤンスよ!」
「…はぁーい…」
靴を履き替え玄関から出たが、部活動で賑わっているはずの校庭には人っ子一人おらず、校門には人だかりができていた。
そこからは歓声や悲鳴が漏れていた。
「なんだろ…喧嘩とか?」
「こんなところで足止めを食らってる暇は無いでヤンス!今日の夕方アニメは絶対外せないでヤンス!突っ切るでヤンス!!」
「えーー…(さっき受験生がどうとか言ってたじゃん…)」
小鳥は群衆をかき分けどんどん進んでいく。こういう時は体育の時より俊敏に動くんだなあと思っていたら、いきなり足を止めた小鳥にぶつかった。
「痛った!何?どうしたのいきなり」
「……がいるでヤンス」
「え?なんて言った?」
「…女神がいるでヤンスよ…」
「…女神?」
「世糸乃様でやんすよ!!!!!!!」
人の輪の中心にいたのは、画面の中の虚構だと思っていたはずの美人『世糸乃』だった。
金髪をストレートのポニーテールにし、乱れのないパッツン前髪、耳にはダイヤのような光り輝く大きなピアスが。
淡いブルーのワンピースを華麗に着こなし、汚れのないヒールの靴と相まってまるでシンデレラのようだった。
「きゃーーーー!!!かわいいーーー!!!!!!」
「世糸乃ちゃんだーーーー!!!」
「こっち向いてーーー!!!」
映像の中で踊っていたまんまの彼女が目の前にいたのだ。
「…加工じゃなかった…」
持ち込み禁止のスマホが何台も、世糸乃に向けられていた。
どこから見ても撮っても美しく、AIが映し出されていると言われた方が実感が湧くかもしれない。
「こらーーー!お前ら、なんの騒ぎだ!」
集団より頭ひとつ抜けているヤニゴリラが人をかき分け中心に来た。世糸乃を見た瞬間、息を呑むのがわかった。
「あ、あの…えっと、どういったご用件でしょうか?」
ヤニゴリラは今までに見たことがないくらい表情がデレっとしていて、見ていられない。
世糸乃は少しだけ微笑み、初めて声を発した。
「はじめまして。ある人を探して、この中学校に参りました」
動画では踊っていただけなので世糸乃の声は初めて聞いた。想像していたより、幼く可愛い声だった。
「えーーー!!!」
「きゃーーー、だれだれ?!?」
「俺、俺!たぶん俺のことだよ!!」
野球部のお調子者《頭の悪そうなやつ》が手を挙げ、世糸乃に近づこうとした。
その時、世糸乃の後ろにひっそりと隠れていた、体格の良すぎる、サングラスをかけた男性が間に入った。
そのSPらしき人はヤニゴリラよりもっと背が高く、もっと肩幅があり、もっと筋肉が盛り上がっていた。サングラス越しに睨まれただけで、その男子はしっぽを巻いて戻っていった。
世糸乃は一度だけ咳払いをしてから話を続けた。
「奥寺馮佳さんに会いに来ました」
「嘘でしょ…」
心拍数が急上昇し、何が起こっているのか全くわからなかった。一ミリも理解できなかった。
足がもつれる自信しかないが、まだバレてないうちに逃げないと…
「ハイ!ハイ!!ここでヤンス!!!」
隣にいた小鳥が私の手を勢いよく掴み、空に掲げた。みんなが一斉にこちらを見た。
「ちょ、ちょっと…小鳥やめてよ…!」
小鳥は全く手を離してくれない。
知らない人に私を引き渡すなんて友人のすることか?
世糸乃の顔はパッと明るくなった。
笑顔になると余計にこの世のものと思えないほど、眩しかった。
そしてこちらに向かって歩く姿はもう映画のワンシーンだった。
こんな真正面から等速で見るなんて、意味がわからない…
「はじめまして、奥寺馮佳さん。あなたに会いに来ました。少しお話ししませんか?」
「……ぁ…はい?」
拍子抜けして、人生で一番マヌケな声が出た。
「ハイ!喜んででヤンス!」
「ちょっと、なんで小鳥が答えるの…!」
「よかった!じゃあ、2人とも車に乗ってくれる?」
「ハイでヤンス!」
「ちょっとまって…!私はついていくなんて一言も…」