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シンデレラが迎えに来た3




「河森亜美様とお会いしたのでヤンスか!?羨ましいでヤンス!!!」

「様!?…うん、面談中なのに、割り込んできたよ。さも当然かのごとく」



小鳥と私は帰宅途中にコンビニに寄り、傘立ての近くで話し込んでいた。学校の最寄りのコンビニではなく、家に近いコンビニにしたのは寄り道を教員に目撃される確率を下げるためだ。


「うーむ、まあ河森様は少しワガママなところがあるという話ですからなあ。しかも、都会じゃないこの金沢で、芸能事務所からスカウトを受けたって噂でアリマスぞ!」

「あー、百万石祭りでスカウトされたって噂でしょ?すごいよね」

「おそらく、利家とまつを演じた俳優さんの事務所の人がいたのでヤンスな…」

「なるほどね。私のアカウントにもスカウトとかこないかな〜、なんて……」



「…ところで、お弁当はいいでヤンスが、相変わらずそのアイスはなんでヤンスか?」

「え!北陸限定の甘エビ味アイスだよ。絶対おいしいよ!」

「いや、その隣に期間限定ルビーロマン味とかもあったでヤンスよ…」

「それは明日食べるの!まだ在庫あったし!」

「変な味の限定商品より、おいしそうな限定商品のほうが早くなくなりそうでヤンスが…」



「いっただっきまーす!」



全体は薄ピンクで、ところどころ赤色のエビの形をしたトッピングがまぶしてあるアイスを一口かじった。見た目はそれほど悪くないのだ。


「うーん…よくわからん味…」


「…でしょうナ」


「こう…なんていうか、海産物の臭みは流石にないけど、甘エビの味もなくて『甘い何か』って感じ…一口食べる?」

それがしは絶対に食べないでヤンス…」

食べ終わってから『本日のアイス』という文章と共に、夕日をバックに撮ったアイスの写真をツブヤイッターに投稿した。





「小鳥は進路、もう白水高校で決まり?」

「そうでヤンスなあ。白水と滑り止めの私立を一応受けるでヤンスね。」

「県内1番の高校行けるなんて流石学年トップ」

それがしの取り柄は勉強だけでヤンスから。奥寺氏は、まだ志望校決まってないでヤンスか?」

「うん…どのみち私の学力じゃ、白水はいけないから別々の進路になるね…」

「さみしいでヤンスな…」





夕暮れの街の日常の音が、無言の2人の間に流れる。


今までは将来のことを考えたことは無かったが、漠然とした不安が押し寄せるようになってきた。


小鳥以外の友人はおらず、他人とまともに会話もできない、高校でやりたいこともできそうにない。


こんな自分はどうしたらいいのだろう…




「あ、もうこんな時間!私、今日もR15指定映画3本立て鑑賞会するけど来る?」

「いや、遠慮するでヤンス!1本でもお腹いっぱいでヤンスよ!」

「えー、せっかく15歳になったんだから、見たかったやつ全部見たくない?」

「普通はそんなにR15の映画知らないでヤンスよ…」

「やっぱり初手の博士が強烈だったか…」

「自分の脳に、脳がこびりついてるでヤンスよ…」







—————————————







深夜0時。

「流石にR15映画連続3本はキツかったなぁ…」


リビングの照明を明るくし、食べ終えたコンビニ弁当を片づけ始める。

母が看護師なので、夜勤のある日は大きいテレビのあるリビングで夜遅くまで鑑賞会をすることができる。

大画面でグロい映画を見るのも一興だなとしみじみ思う。




「あ、やばい。次の動画録んなきゃ…何にしようかな…やっぱりこれかな」


頭は良いが見た目やファッションに無頓着な主人公が、超一流のファッション誌の編集長のアシスタントとして奮闘する映画だ。

以前も動画を出したことがあるが、大好きだから何度でも出したい。


「この映画はダサダサ主人公が覚醒して、綺麗でオシャレになって仕事もバリバリこなす、ってところがかっこいいけど…やっぱり鬼ボスである上司の女優さんの演技がしびれるよね…」



特にお気に入りは、最初のシーンだ。

運転手付きの車から降り、コツコツコツコツとヒールを鳴らし、エレベーターに乗る。

この工程では一切顔が映されていない。周りの態度だけでも、この編集長の力がわかる。


そしてようやく顔が映される。


ただサングラスを外すという動作だけで、表情だけで


『この女はやばい。絶対に怒らせてはいけない存在だ。』


と観客にわからせる演技力…!







「演技力ありすぎて、お化けって感じ」






鏡の前で母の使っていないサングラスで真似してみる。

まずサングラスを華麗に外せない。流石は体育1。


なんとか外せるようになっても、表情が作れない。

体をうまく動かせないやつは顔の筋肉も動かせないのか?マスカラがダマになっていようものなら、飲み物を飲んでリップが剥がれていようものなら即クビにしてやるぞ、という目線がうまくできない。




諦めてその後のセリフを真似し始める。

うん、こっちの方が得意だ。

感情の抑揚は少ないが、アシスタントのメモのスピードより早くズバズバ注文を言っていく。

録音を確認し、本物に近づけていく。

この工程を何度も繰り返し、完全にシンクロさせるのが大好きな時間だ。


でも、セリフの真似をするなら、第1アシスタントのほうが様々な感情が凝縮されているから楽しい。

白目を向いたり眉を動かすのは無理だが…。




「って真似もいいけど、動画用のセリフも考えなきゃ」




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