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シンデレラが迎えに来た

映画が大好きで、唯一無二の声を持つ中学3年生・奥寺おくでら 馮佳ふうかは映画を面白おかしく脚色した吹き替えを投稿していた。しかし本当の夢を誰にも言えず、進路を決める時期になっても何も決められずにいた。


そんな馮佳の前に、SNSで大人気の“今の日本で一番の美少女”・世糸乃よしのが現れる…

「アンタ、私の声になりなさい」


おそらく今の日本で一番美人に、訳のわからないことを言われた。


「私とアンタで、日本一の女優になるのよ」


この言葉で私の人生が180度変わることになるとは、この時は思いもしなかった。



—————————————



「はあ…再生数伸びない…」

スマホに表示されたアナリティクスを見ながら、牛乳パックのストローを噛む。


「奥寺氏!何を申す!10万回なんてすごい数でヤンス!」

「いやいや、もっと伸びてほしい!なんならこれだけで食べていけるくらい伸びてほしい!!」


内心10万回の再生回数で喜んでいるが、それは表に出ないようにする。

「まあ奥寺氏の声があれば、100万再生くらいヨユ〜でいけますとも!」

「そうかな?ありがと」





私、奥寺おくでら 馮佳ふうかは『映画憑依ガール』という名前で、動画サイトに映画を面白おかしく脚色した吹き替えを投稿している。

投稿しはじめた頃は全く伸びず、むしろアカウントを凍結されそうになったが、今のテイストに変えてから徐々に伸び始めた。



今回投稿した動画は、地球に潜伏しているエイリアンを監視する秘密組織を描いたコメディSFアクション映画だ。

手前で2人が真面目な会話をしている後ろで、車から伸びる巨大なイカの足が出産の痛みで暴れ回っている、静と動の対比が面白いワンシーンだ。


「奥寺氏の透き通った美しい声の一割でも(それがし)にあれば、声優で大ブレイク間違いなしでヤンスのに…」

「小鳥ってほんと声優と二次元大好きだよね」

「主役で華々しくアニメデビューして、アイドル声優としてキャリアを重ね、かわいい女の子に囲まれたいでヤンス!!声の才能があるのは羨ましいでヤンス!!」

「いやいや小鳥、体育のダンスの授業忘れたの?私たち踊れなさすぎて一生後で棒立ちだったじゃん」

「…じゃあアイドル声優は譲るでヤンス…」


お昼を一緒に取っているのは、話し方はかなり独特だが小学校からの大親友の小鳥。

全て同じクラスという奇跡もあり、友人には困らなかった。

「まあ私も声優になりたいってわけじゃないんだよね…」

声優も魅力的な仕事だし、なれるものならなりたい、が本音だ。








でも、私の夢は違うのだ…








「それにしても、最近はコメントも増えたでヤンスな!」

「そうなの!何人かはいつもコメントくれるからアイコンとか名前とかなんとなく覚えてて…」


コメント欄には

「声が綺麗」

「ミントが擬人化したような爽やかさのある声!」

「キャラの演じ分けもうまい!」

「すごい、口の動きに完璧に合ってる」など称賛が並んでいる。


「でも、この初期アイコンの人はなんかいつもコメントが独特で…」

「ンン?この絵文字一個だけのコメントでヤンスか?

「昨日の動画には赤のビックリマーク一個で、その前は目がハートの顔、その前は舌を出してウインクしてる顔…。botか、おじさんの視聴者なのかなって思ってて…初期アイコンだし」

「botだと、ひとつの動画に大量にコメントするイメージですが、これはちょっとタイプが違うようデスな…ついに某以外の憑依ガールの熱狂的なファンでアリマスな!!」

「ちょっと、声抑えて!」

「ゴメンでヤンス…」

小鳥が思ったより大きい声でユーザー名を話したので、慌てて昼休みの教室を見渡すが、誰も隠キャ二人組の会話なんて興味ない。一安心だ。



「まあでも、どうせバレないでしょ。顔出してないし、個人を特定されるようなものも載せてないはずだし…」

「それもそうですな!あ、この子の動画も最近好きでよく見るんでアリマスよ!」

小鳥のスマホには、絶世の美女が流行りの音楽に合わせて踊っている動画だった。

「“世糸乃”様でアリマス!いやあ世の中にはこんなにかわいい子がいるのでアリマスなあ」

「え、1.4億再生!?嘘でしょ!?ただ踊ってるだけなのに?!」

「やはりかわいい女の子は正義なのでヤンス!!」


たしかに動画の子は、ほんとうにかわいい子だった。

「かわいい」とも取れる顔だが「美人」の方が強いかもしれない。



吸い込まれそうになる大きな黒い瞳、まつ毛は韓国アイドルのように長く程よい束になっていて、通った鼻筋の先はツンと少し尖っている。

ツヤツヤした唇から覗く、矯正されたであろう白い歯の輝きは真珠のようで、肌はなめらかなシルクのようだった。

美しく艶めく金髪は、傷みを知らないようで、前髪はパッツンだったがきっとどんな髪型でも似合うのだろう。


「もうメディアに出てもおかしくない“バズ美人”なのに、まだSNSだけなんでヤンス。世糸乃様にはもっと活躍してほしいでヤンスよ」

「どんだけ可愛い子好きなの…」

コメント欄を漁ると、絶賛の嵐だ。当然かもしれないが、私の動画についているコメントよりも多かった。「今の日本で一番の美少女」との声も多数あった。

こっちは動画にかなり時間をかけて制作しているのに、ただ流行りの音楽で踊っているだけでこんなにバズるなんて…




「…どうせ加工だよ、加工。」








キーンコーンカーンコーン

「やば、次、ヤニゴリラの授業じゃん!出席番号的に私に回ってくるよね…」

「あーーー。御愁傷様でヤンス…」





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