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彼女が最初に気付いたのは、市場にある露店の数々。果物や野菜、魚や肉、そして織物や陶器など、さまざまな商品が並べられている。特に目を引いたのは、彩り鮮やかな実をつけた未知の果物や、透き通ったような織物。しかし、その中でも一際異彩を放っていたのは、売られている動物たちだった。中には彼女が知っている動物と似た特徴を持ちながらも、翼や角など、一部異なる部位を持つものもいた。
次にアイリスの目に留まったのは、子供たちが集まって何かのゲームをしている場所だった。彼らは大きな円を描き、その中心に立った一人が他の子供たちに向かって何かを叫びながら動いていた。アイリスにはそのルールが理解できなかったが、子供たちの楽しげな笑顔と歓声が、彼女の孤独感を少し和らげてくれた。
また、ファローネアの人々の服装も彼女の興味を引いた。多くの男性は、ゆったりとしたローブのようなものを身にまとい、その下には彩り豊かな織物でできたズボンやシャツを着ていた。女性たちは複雑なデザインのドレスやスカートを着ており、頭には繊細な帽子や飾りをつけていた。
言語の面では、アイリスには一切理解できない言葉が飛び交っていた。しかし、彼女は言葉だけでなく、彼らのジェスチャーや表情からも多くを学び取った。例えば、商人同士の取引では、お金を数える手つきや、商品を指差しての交渉など、共通のジェスチャーが存在していることがわかった。
夕方になると、都市の中心にある広場では、多くの人々が集まり、音楽やダンス、演劇のようなパフォーマンスが始まった。アイリスは遠くからその様子を眺めていた。彼らの音楽やダンスには、彼女が知っているものとは違ったリズムやメロディーがあり、その新しさに引き込まれた。
その中で、アイリスは彼らの文化や習慣、言語の違いを感じながらも、彼らの暮らしの中に共通する「人々の絆」や「日常の楽しさ」を感じることができた。しかし、その一方で彼女は、この未知の都市での孤立感も強く感じていた。
「私はこの場所にどれだけ溶け込むことができるのだろう?」彼女はそんな疑問を抱きながら、ファローネアの都市を歩き続けた。
太陽が傾き、ファローネアの都市はオレンジ色の光に包まれていた。アイリスは自分の足を信じ、異世界の街路を歩き続けた。だが、彼女はやがて、自分がまったく見知らぬエリアに迷い込んでしまったことに気づいた。
この区画は他の地域とは異なり、古びた家々とがらんとした通りが広がっていた。道端には石でできた祠のようなものも見られ、中には燭台に火が灯されているものもあった。アイリスは足元に転がる石を踏みながら、その祠に手を合わせ、助けを願った。自分の現状を打破するための手掛かりを探していると、突然、後ろから急な足音が聞こえてきた。
振り返ると、3人の男たちが自分に向かってくるのが見えた。彼らの顔には怪しげな笑みが浮かんでおり、手には見知らぬ武器を持っていた。アイリスは恐怖に打ち震え、逃げ場を探したが、彼女の後ろは壁に囲まれ、出口は彼らの方向だけだった。
「どうしよう…」と思ったその時、強烈な風が吹き、男たちの間から一人の青年が現れた。その青年は銀色の髪をしており、青いマントを身にまとっていた。彼は一瞬で男たちの間を駆け抜け、アイリスの側に立った。