05
夜の帳が降り、静寂が部屋を覆っていた。アイリスは今日一日の出来事を思い返しながら、ゆっくりとベッドに身を沈めた。古びた手紙の文字は彼女の心に深く刻まれており、まだ頭の中で響き渡っていた。曽祖母エレナの言葉に勇気づけられ、彼女はゆっくりと目を閉じた。
眠りの中、彼女は自分が見たことのない世界に足を踏み入れた。眼下に広がるのは、巨大な城壁に囲まれた美しい都市、ファローネアであった。赤や青、黄色の屋根がひしめき合い、鳥のさえずりや市場のにぎやかな声、車輪の音が耳に届く。その都市では、人々が忙しく動き回っており、彼らはアイリスとは異なる服装や髪型、さらには耳や尾のような独特の特徴を持っていた。
アイリスは新しい景色に驚き、しばらく立ち尽くしていたが、好奇心が先行し、ゆっくりと前へと進み始めた。市場の近くには、色とりどりの果物や珍しい動物が売られており、彼女は興味津々とそれらを眺めていた。
しかし、突然、彼女の背後から大声が聞こえてきた。「危ない!」という叫び声と共に、巨大な石の像が彼女の方へと転がってきた。驚いたアイリスはすぐに走り出したが、足がもつれてしまい倒れてしまった。
その瞬間、見知らぬ少年がアイリスの手を掴み、彼女を引き上げた。「大丈夫か?」と少年は彼女に尋ねた。アイリスは「ありがとう」と頷きながら、彼に感謝の意を示した。
少年は「ロレン」と名乗り、彼もまたこの都市の住民であった。アイリスは彼に自分の状況を説明すると、ロレンは驚きの表情を浮かべたが、すぐに彼女を自宅に連れて行くことを提案した。
ロレンの家族はアイリスを暖かく迎え入れ、彼女が知らないファローネアの歴史や文化について教えてくれた。この都市は、異なる次元の空間に存在し、特定の条件を満たした者だけが訪れることができるという。そして、アイリスの持つ印が、その条件の一つであることも明らかになった。
夢の中の時間はあっという間に過ぎ、アイリスは突如として現実の世界へと引き戻された。彼女は驚きと恐怖で目を覚ましたが、ロレンや彼の家族と過ごした時間は、彼女の心に深く刻まれていた。
夢の中で訪れたファローネアの都市と、そこでのロレンとの出会い。それは、彼女がこれから迎える運命の序章であり、アイリスはその旅路の始まりを期待しながら再び眠りについた。