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第2話


「あれ、あんたまだ居たの」


 風呂を済ませ、自室代わりの社務所へと戻って来た紅音は、ここまで送ってくれた友人がそこで寛いでいる様子を目にした。


「なんとなく帰る気分じゃないから、今日はここで寝させてもらおうかなって」


 畳の敷かれた床に大きな黒の翼の先をつけて休む胡鳥は、いつの間にか楽な服装に着替えていた。よく見れば、その服は紅音の私物である。


「せっかく翼があるんだから、飛んで帰ればいいじゃないの」

「そういう気分じゃないのよ」

「ふうん…持たざる者には理解しがたい感覚ね」

「紅音ちゃんだって飛べるでしょうに」

「そりゃ飛べるけど」


 友人が勝手に自分の服を着ていることも、ここがまるで自分の家ででもあるかのように寛いでいることも、彼女からすれば今更のことである。特段気にした様子もなく、紅音は髪の水気を拭き取りながら、友人の背から伸びた翼を指さして言った。


「寝てくのはいいけど、その翼どうにかしてよね」

「分かってるって」


 その言葉と共に、胡鳥の翼が突然彼女の背から消える。

 背中に翼を出したままでは仰向けで寝られないこと、そしてここの布団や畳に抜け毛ならぬ抜け羽を落とそうものなら掃除が面倒臭いと紅音に怒られるのもあって、彼女は就寝前このように翼を背に仕舞っているのである。

 この時の胡鳥は何かしらの術を使って翼を収納しているらしいが、なんだかんだ言いつつもその様子を何度も目にする羽目になっている紅音にもその仕組みはよく分かっていない。

 羽根が落ちないのならそれでいいかと、ほとんど気にしていないようだ。


 胡鳥が翼を仕舞うのを見て、髪を拭き終わった紅音は渋々ながらも部屋の襖を開けた。

 押し入れから出された薄手の布団が床に二組並べられると、二人の少女はそれぞれの布団に潜り込む。


「最近暑くなってきたわよね」

「ほんとに。風起こしても熱風ばっかで困っちゃう。ここはいいよね、年中涼しくて快適だし」

「…あんたまさか、暑いから帰らなかったわけじゃないでしょうね?」

「ばれたか」


 季節は夏。いくら山の中とはいえ、クーラーも無い木製の家屋の中はそこそこ蒸し暑いはずであるが、如月神社の社務所は夏でも涼しく過ごしやすい温度に調節されている。

 多種多様な妖怪たちに愛された「あやかし巫女」だからこそ保たれるこの空間を、彼女(とその友人達)は日々有難く享受しているのである。


「おやすみ、紅音ちゃん」

「おやすみ、胡鳥」


 片や、如月の鬼子。

 片や、息吹山きっての大妖怪。

 

 平素であれば、時に慕われ時に畏れられる彼女たちだが、今この場所で寄り添って眠る二人からは、その面影は微塵も感じられない。

 今だけは、普通の少女として。彼女たちは眠りについたのであった。

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