3直し。家に連れてこう
「ね、ねえ。石川君。そこのお店とかどう?」
「ん。良いんじゃないか?」
抱きついたまま顔を赤くしている月菜が提案したのは、個室で食べられるレストラン。個室と聞くと高そうに聞こえるが、意外とそういうわけでもなさそうだ。
入ってみるとなかなか良い雰囲気。デートとかでも使えそうなオシャレな店だ。俺たちは席に案内され、お互い向き合った状態で座る。……はずなのだが、
「まだくっ付いたままなのか?」
「ダ、ダメ?」
上身遣いでそう問われると、俺は何も言えない。年上で更に上目遣いというコンボをくらって、俺は撃沈されたわけだ。俺は頭を抱えつつ、
「別に構わないけど、……田舎の距離感はかなりおかしいんだな」
遠回しに、この辺の常識は違いますよぉ。と伝えておく。だが、これへの月菜の返しは予想外だった。
「え?田舎でもこんな距離感はやらないよ」
「……ん?」
俺は一瞬思考が真っ白になった。コイツは何を言っているんだ、と言う気持ちである。
でも、すぐに思考は切り替えられ、
「もしかして、誘ってるのか?」
「……うん」
恥ずかしそうにしながら頷く月菜。まさかナンパを嫌がってた月菜から誘われるとは思わなかった。まだ出会って時間も経ってないぞ!吊り橋効果にも程があるだろ!
「そ、その、田舎から出てきたから知り合いがいなくて心細くて、話して貰えたのが嬉しくて」
聞いてもいないのに理由を説明している月菜。寂しいのは分かるけど、なんか違うだろと思わなくもない。
……もしかしたら、都会への憧れの中にイケメンの彼氏とかもあったのかもな。他の憧れだった友達やら何やらが出来なかったから、ちょっとそこへの憧れが強くなりすぎて……って感じか?
「………夜を一緒に過ごすのは構わないけど、付き合うのは流石に無理だぞ」
「あっ。うん。私も流石に付き合うとか考えてな………え?よ、夜!?」
顔を赤くして目を見開く月菜。
「あれ?違ったか?」
俺はそういうことなのかと思ってけど、この慌て用だと違ったのかもな。踏み込みすぎたかもしれない。
でも、その割りには月菜が離れようとしないんだよな。そう言う目で見られるのが嫌なら密着なんてすぐにやめると思うんだが。
「……違わない」
ちょっと不思議だったけど、顔を赤くした月菜はそういうことがしたいということで良かったらしい。ただ恥ずかしいのか、なかなか顔を上げようとしない。
「まあ、それより先に食べようぜ。かなりお腹空いたんだよ」
「そ、そうだね!私も注文する」
やっと月菜は顔を上げた。それからお互い食べたいものを頼んで、
「ん~。おいしぃ~」
「うん。さすがは都会。田舎とは味付けが違うな」
料理を食べ始める俺たち。月菜はこっちに来て初めての外食らしく、美味しそうに料理を食べていた。俺も都会の料理は久しぶりだから、かなりおいしさを感じてるぞ。田舎は素材の味で勝負してるけど、こういう店は味付けで勝負してるよな。それぞれの良さがあると俺は思う。
適当に雑談しながら俺たちは夕食を食べ、
「「ごちそうさまでした」」
「…………」
「…………」
お互い無言。じっと俺が月菜を見つめると、赤くなって目をそらされた。これからのことを想像して恥ずかしくなっているんだろうな。ここは俺が会話も含めてリードしないと。
「どっかのホテルにでも行くか?それとも、俺の家にでも来るか?」
「い、石川君の家?……お、お持ち帰りってヤツ?」
「ははっ。そういう言い方も出来るかもな」
「っ///」
恥ずかしげにうつむく月菜。初めてだし流石にホテルかと思ったんだが、
「お、お持ち帰りで」
「お、おお。……分かった」
意外なことに俺の家へ来ることとなった。……よく考えてみると、引っ越してきて初日から女を連れ込むとかヤバいよな。もう完全に普通の学生じゃないよな。
「家に帰る前に、明日の分の買い物して良いか?」
「あっ。うん。私も買い物行きたかったし良いよ」
と言うことで買い物へ。月菜は相変わらず歩いてる間は俺に抱きついていた。道行く人に見られて恥ずかしがっているが、それでも離れようとはしない。相当人肌が寂しかったんだな。
「朝は家で食べてくか?」
「あっ。うん。お願いして良いかな?」
「ああ。構わない。それなら2人分の食材買っておかないとな」
俺たちは買い物をして家に帰った。ここで分かったのは、意外と月菜はジャンクフードが好きだと言うことだ。ポテチやらチョコやら菓子類を買ったりしていた。俺は違うが、こういうのも親元から離れたときにやりたいことではあるのかもな。
買い物の後は、オシャレな飲み物とかを買いながら俺の家に向かう。恥ずかしさのためか月菜は俺の腕を引っ張っており、買い物袋を下げている方より月菜がくっ付いている方の腕が重いという状況だ。そんなとをしていてもいつかは家に着くわけで、
「ほら。ここだ」
「ふぇ。着いちゃった。………って、え?ここ?本当に?」