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馬車に揺られること数時間、休憩を挟みながら結婚式が行われる領地へと着いた。

領主の家まで馬車は町に入ると列をなしてゆっくりと走った。

エマーリエが乗った馬車と後ろを走るオズワルド達が乗った馬車を囲むように騎士達が護衛をしており、町の人たちが見物しようと集まってきていた。

田舎町なので道は舗装されておらず、馬車がガタガタと揺れる。

揺られながらもエマーリエは馬車の窓から外を見た。

好奇心旺盛な町の人達が手を振っているのが見えて慌てて前に座るアラン王子を見た。


「町の人達が手を振っていますよ。振り返した方がいいですよね」


「好きにすればいいと思うが」


アラン王子は手を振るつもりなど無いらしく、窓の外をちらりと見て興味ないとばかりに腕を組んでエマーリエを見つめた。


「えー、私一人で手を振っていたらバカみたいじゃないですか」


そう言いつつも手を振り返そうと、左手を上げて微笑みながら手を振ってみた。

マナー教室で学んだ上品な手の振り方を思い出して、手の角度と笑顔は完璧だ。

エマーリエが手を振ると町の人たちから歓声が上がった。

反応が返ってくると嬉しくなり、また手を振る。


「凄い恥ずかしいですね」


自分が見られる側になるなど考えたことも無かったが、注目をされていると思うとかなり恥ずかしい。

そうこうしているうちに領主の屋敷へと馬車はついた。

アラン王子の手を借りて馬車を降りると、ずらりと騎士達が並んで出迎えてくれる。

先ほど護衛していた騎士達だ。

アラン王子は慣れているのか視線すら向けずにスタスタと歩いていくので、エマーリエは置いて行かれないように、並んでいる騎士達に頭を下げながら領主の館へと入る。

玄関ホールにはすでにオズワルドとマドリーヌが到着しておりエマーリエ達が行くと二人はニッコリと笑った。


「お疲れではないですか?」


オズワルドがエマーリエを気遣いながら声を掛けてくれる。

なんて優しい子なのと感動しながらエマーリエはマナー教室で学んだ通り上品に笑って頷いた。


「お気遣いありがとうございます。王室の馬車は乗り心地の良い馬車でしたので大丈夫でした」


「それは良かったです」


苦笑するオズワルドの隣でマドリーヌもクスクスと笑っている。

何かまずい事でも言ったかとアラン王子を見るが彼は無表情のままだ。


「まるでいつもは乗り心地の悪い馬車に乗っているようないい方ではあるな」


アラン王子の呟きにエマーリエは大きく頷いた。


「なるほど!でも真実ですしねぇ」


「そういう素直な所は可愛いと思う」


アラン王子は聞こえないぐらいの小声で言うとエマーリエの髪の毛を一瞬だけ撫でた。


「か、可愛いって言った・・・」


真っ赤になって撫でられた頭に手を置いてエマーリエは呟く。

生まれて初めて異性に可愛いと言われた。

静かに喜びに悶えているエマーリエを置いてアラン王子は出迎えてくれた領主のもとへと向かう。


「ようこそおいで下さいました。アラン王子、オズワルド王子、領主のランドル・ブロッグでございます。狭い家ですがどうぞ、おくつろぎいただければと思います」


頭を下げるランドルにアラン王子は頷いた。


「ご子息の結婚おめでとうございます。お世話になります」


珍しくアラン王子が敬語で話しているのを見てエマーリエは関心する。

いつもは無表情で少し偉そうだが、優しいところも見せるアラン王子がますます好きになり胸がいっぱいになる。


「こちらが、先日婚約された方ですかな」


「そうです。エマーリエです」


アラン王子がエマーリエの背に手を置いて領主へ紹介した。


「エマーリエ・ヴェッタです。お世話になります」


余所行きの笑みで挨拶をする。


「こちらこそどうぞよろしく。こちらが我が息子のサンディーと、婚約者のメリッサ、そして妻のサマンサです」


3人はランドルより一歩下がったまま頭を下げた。

ランドルは太った中年男性だ。

その息子サンディーは痩せており、赤茶色の髪の毛に灰色の目は窪んで冴えない顔をしている。

婚約者のメリッサは金髪、青い目でマドリーヌと並ぶぐらいの美少女だ。

大きな瞳でアラン王子を見たメリッサは顔を赤らめてサンディーに顔を近づけて囁いている。


「アラン王子様ってすごいカッコいいわね。黒い髪の毛で少し冷たい感じがミステリアスでいいわね」


舌なめずりするように上から下までアラン王子を眺めているメリッサにサンディーは顔をしかめる。


「王子様達に失礼なことはしないでよ」


「わかっているわよぉ。でも町には居ない素敵な方よねぇ。私、好きになりそう」


間延びした言い方に、アラン王子の眉間に皺が寄った。

二人はコソコソ話しているつもりだが、話し声は玄関ホールに響いている。


「下品な方ですわね。エマーリエお姉さま」


マドリーヌが扇子で口元を隠しながら囁いてくるのでエマーリエは愛想笑いをして軽く頷いた。

顔は美少女ではあるが性格は最悪らしい。

二人は愛し合って結婚するわけではなさそうで、明日の結婚式にどんな顔をして出ればいいのだろうかとエマーリエは不安になる。


ランドルと妻のサマンサが慌てて大きな声を出した。


「さぁ、お疲れでしょうから夕食までお休みください。お部屋にご案内しましょう」


「そうですわねー。ホホホホッ」


サンディーとメリッサを隠すように前に出てきて夫婦はエマーリエ達を部屋に案内し始めた。

玄関ホールにはまだ暗い顔のサンディーとアラン王子を目で追いかけているメリッサが残されている。

集まっていた屋敷の使用人達も慌ただしく動き始めた。



エマーリエの部屋はアラン王子の隣の部屋、向かい側はオズワルドとマドリーヌの部屋になった。

エマーリエはソファーに座りながら荷物が部屋に運ばれてくるのを眺める。

二泊三日には多すぎる荷物に、横に立っている侍女を見上げた。


「荷物多すぎません?」


「いいえ、少なすぎるぐらいですよ。マドリーヌ様はこの荷物の2倍はあります」


「一体何を持ってくるのかしら?」


洋服と化粧道具以外必要なものなどあっただろうかと首を傾げているエマーリエに部屋に居た侍女たちがクスクスと笑う。


「お年頃の女性はいろいろ必要なのですよ」


「大変ね」


荷物を運び込んでいる空いたままのドアからアラン王子が顔を出した。


「エマーリエ、少し散歩に行かないか」


「行きます!」


アラン王子のお誘いを断るはずもなくエマーリエはソファーから立ち上がって廊下へと駆け出した。


「急ぐと転ぶぞ」


アラン王子の言う通り、あと少しで部屋から出ると言う所で床の段差に躓いて転ぶ。

床に倒れそうになるエマーリエの腕を掴んでアラン王子はそのまま抱き寄せた。


「あ、ありがとうございます」


近すぎるアラン王子との距離に顔を赤くしながらお礼を言うエマーリエ。


「まだ手が完治していないのだから気を付けろ。そこの床は少し段差になっていて危ないから次からは転ばないように」


「はい」


アラン王子の言う通り、よく見ると部屋の床の一部がめくれあがっている。

よく見ないと分からないぐらいの床の段差にやっぱり結構細かい人なのかもしれないとエマーリエは思った。

アラン王子は肩を抱いたまま歩き出したので驚いて見上げる。


「近すぎません?」


「婚約者なのだから問題はないだろう?」


片眉を上げて言うアラン王子に言われてエマーリエは言い返すことができなかった。

嬉しいが恥ずかしい。

大好きなアラン王子の体温を感じながら庭へと向かう。

田舎ということもあり、自然は豊かだ。

屋敷の裏は山が広がっており、所々木々が赤く色づいている。

外に出ても二人きりという事ではなく、警護に付いてきている騎士達が見回っている。


騎士達の視線を感じ、肩を抱かれたままのエマーリエは恥ずかしくて顔を伏せる。

しばらく歩き続けると、鳥の鳴き声と共に川の流れる音が聞こえてきた。

自然豊かな新鮮な空気を吸い込み心が落ち着いてきたエマーリエは顔を上げた。


「気分は落ち着いたのか?」


アラン王子に覗き込まれエマーリエは距離の近さに少し身を引く。


「この距離感が恥ずかしいですけれど」


今も心臓が飛び出そうなぐらい恥ずかしいのに、せっかく落ち着いた気分がまたおかしくなりそうだ。

恥ずかしがるエマーリエにアラン王子は微かに笑った。

貴重な笑顔に見とれていると、アラン王子は眼下に流れている川を指さした。


「綺麗な川ですね」


川は澄んでおり魚が泳いでいるのが見える。

赤い夕陽に水面が輝いて幻想的だ。

ここを見せたかったのかとエマーリエは川を眺めた。


「この川は、見た目と違いかなり深く冷たい、落ちたら死ぬ可能性がある」


「はぁ」


全くロマンチックではない会話にエマーリエは気の抜けた返事をする。

散歩と言うより小さい子に注意するような態度だ。


「洋服を着たまま川に落ちたら泳ぐこともままならない、流れも速い。いいか、絶対に川には近づくな」

「子供じゃあるまいし、近づかないですよ」


エマーリエが言うとアラン王子は無表情にうなずいて再度注意してくる。


「一人で絶対に来るな。部屋から出るときは俺を必ずつけろ」


「わかりました」


やはり少し口煩くて心配性なのだとエマーリエは畏まって頷いておいた。

アラン王子はエマーリエの肩を抱いたまま、館へと続く道を歩き始めた。


「え?川は危険だって伝えたかったのですか?」


エマーリエが驚くとアラン王子は無表情にうなずいた。


「それだけだが?」


デートではなかったのかと少し落ち込んだエマーリエはため息を付いた。




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