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エマーリエが城で過ごすようになって一週間が経った。

朝食と夕食はアラン王子と一緒に摂っていたがその他は忙しいらしくほとんど姿を見返ることはなかった。

ごくまれにお茶を一緒にすることはあったが他愛のない話をして終わる。

その度に、暇を持て余しているというエマーリエの訴えにアラン王子はマナーの先生をつけてくれることになり、午前は医者に行き午後はマナーの授業となった。

エマーリエの方が一目惚れだったが、世間ではアラン王子がエマーリエに一目ぼれしたという事になっている。本当にアラン王子に好かれているのだろうかと不安になる。


「聞いているのか、エマーリエ」


「えっ?なんでしたっけ」


午後のお茶の時間に珍しく顔を出したアラン王子の顔をボーっと見ていたエマーリエは聞き返した。

整ったアラン王子の顔を眺めすぎて話を全く聞いていなかったのだ。


「明日からの公務は一緒に参加するぞと言ったんだ」


エマーリエの向かい側のソファーに座るアラン王子は険しい顔をしている。

普通の令嬢ならば震え上がってしまうほど冷淡な雰囲気だがアラン王子が大好きなエマーリエはそんな顔も素敵だなとまたボーっとして眺めてしまう。


「私も一緒に行くんですか?何をしに?」


「お前は俺の婚約者だろうが!これから、どこかに行くときは共に行くことになる」


「婚約者?」


いまいちピンとこないエマーリエに今度こそアラン王子は声を荒げた。


「先日、両家で書類を交わして正式に婚約をしただろう!そしてもうすでに国民に公表されている!」


「本当にアラン王子は私と結婚してくれるんですか?」


「何度も聞くな!式はしないが結婚はすると何度も言っているだろうが」


アラン王子が自分の事を好きな素振りが無く、エマーリエはたびたび聞くが王子の返答はいつも同じだ。

好きだとか愛しているという言葉を聞きたいエマーリエは勇気をもって聞いてみた。


「アラン様は、私の事が好きですか?」


「嫌いではない」


好きだと言ってほしいのにとエマーリエは口を尖らせる。

眉間に皺を寄せたままお茶を飲んでいるアラン王子にもう一度エマーリエは聞く。


「私に一目惚れしたってもしかして本当ですか?」


「・・・ぐっ、違う」


お茶がむせたのか咳き込みながらも必死に首を振るアラン王子にますますエマーリエは唇を尖らせた。


「まぁ、いいです。婚約者として公務をご一緒できるのは大変嬉しいです」


棒読みで言うエマーリエにアラン王子の眉間の皺はますます深くなっていく。


「何が不満なんだ」


「別に・・・」


ただ、好きだとか愛していると言ってくれるだけでいのにと思うがそれを口に出すほど単純ではない。

嫌われていないだけでもいいかとエマーリエは納得してお茶をすすった。


「明日の公務は、少し離れた領土へ行く。そこの息子が結婚するということで結婚式の参加だ。父が昔懇意にしていた領土なので父の代りに行くことになる」


「結婚式・・・」


エマーリエは呟いて、アラン王子が剣で刺されて倒れている姿を思い出して青ざめた。

あの映像が、未来に起こることだとしたら結婚式になど出ていいのだろうか。

エマーリエの不安が解っているのかアラン王子は頷く。


「田舎の領主の息子の結婚式だからお前が見たと言う豪華な衣装は着ることは無いから大丈夫だとは思う」


断言するアランにエマーリエは渋い顔を向けた。


「アラン様は知らないでしょうけれど凄い刺されていましたよ!私も危険ですし、大丈夫でしょうか」


アラン王子の命が危険なのはあるが、自分の命も危ないではないかと映像を思い出し青ざめるエマーリエ。


「そんなに心配なら俺が着る予定の服を見せよう」


「そうですね、少しは安心できる気がします」


立ち上がったエマーリエにアラン王子もため息を付いて立ち上がった。

衣裳部屋へと向かうと、衣装係の侍女たちが慌ただしく頭を下げる。

王族ともなると、自分が着る洋服も沢山の人に管理されて大変だなと思いつつエマーリエは衣裳部屋を見回す。


騎士のような服は色違いで何着もあり、アラン王子が普段来ている王子様のような衣装も黒を基準として暗めの服が並んでいた。


「王子様って言う感じの衣装が多いわね」


エマーリエはお直し中の針が刺さったままの洋服をしみじみ見て呟いた。



「王子だからな」

アラン王子は当たり前のように頷くと、侍女を振り返る。


「田舎の領主の結婚式で着る予定の衣装を出してくれ」


「はい」


かしこまって侍女が部屋の奥から出してきた黒い衣装を見てエマーリエは安堵の息を吐いた。

黒い色の洋服は普段王子が着ているようなデザインで、騎士風でもなければすごく豪華な衣装でもない。


「これなら大丈夫」


見た映像は白黒だったが、雰囲気からして白っぽい衣装だった。

アラン王子が刺された衣装ではないことを確認して安心する。


「不安が取れて何よりだ。ちなみにお前が着る予定のドレスとワンピースも出来上がっている」


アラン王子はそう言うと、侍女に目配せをして洋服を持ってこさせた。

灰色近い青色のドレスはスカートの部分が軽い素材でできており歩くとふわふわと揺れる可愛らしいデザインだ。


「わぁ、凄く綺麗な色ですね」


「いつも黒い衣装のアラン王子と対に見えるようにデザインをさせていただいております」


衣装係の女性が頭を下げる。


「なるほど。アラン様と対って思うと、ちょっと照れますね」


上目遣いにエマーリエに見られアラン王子は口の端を少しだけ上げた。


「婚約者なのだから当然だろう」


「そういうものなのですね」


はたからは笑っているようには見えないアラン王子だが、口元が緩んだ姿を見ることは珍しいらしく、室内に居た侍女たちが一瞬動きを止めてアラン王子の顔を見た。

アラン王子の柔らかい顔を見ることが珍しいなど、いつもどれだけ険しい顔をしているのだろうかと思いながらエマーリエも珍しいアラン王子の顔を見つめた。



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