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翌朝、手の痛みでエマーリエは目が覚めた。

ズキズキと痛む右手を顔の前に掲げてため息を付く。

昨晩、風呂に入った後仕事のできる侍女によって新しく巻かれた包帯を眺めてエマーリエはもう一度ため息を付いた。

手に枝が刺さるなど人生始まって以来の大怪我だ。

枝が刺さったのだから痛みが合って当然だが、処方された薬のおかげで昨晩は痛みが薄らぎよく眠れた。


「きっと今、痛み止めの効果が切れたのね」


エマーリエは呟いてベッドから起き上がる。

昨日は薄暗く外を見る余裕などなかったが、痛む右手を押さえながら窓の外を見た。

薔薇の庭園もとても素敵だったが、城の裏側にあるエマーリエの部屋から見える庭の景色も素晴らしい。

薔薇の花がアーチ形のトンネルになっており、その先には大きな池。

池の中には島のようなものがありガゼボが見えた。


「あんなところでお茶をしたら素敵ね」


手の痛みを忘れるように現実逃避をしていると、ドアがノックされて昨日の侍女が頭を下げて入ってくる。


「おはようございます。よくお休みになれましたか?」


「おはよう。手の痛みで起きたわ」


情けない顔をして言うエマーリエに侍女は頷いた。


「お薬は何か召し上がってから出ないと胃を痛めると医師が申しておりますのでお薬はすぐに飲まない方がよろしいかと」


「昨日医者が言っていましたね」


遠い目をしながらエマーリエは頷いた。


「少しお腹に入れてから薬を飲んで朝食に行かれますか?」


「行かれますかって、ここで朝食ではないの?」


今すぐにご飯を食べて薬を飲みたいと言うエマーリエに侍女はニッコリと微笑む。


「アラン王子がぜひご一緒に朝食をと」


「なるほど」


それは断れないとエマーリエは頷いた。

侍女に手伝ってもらいながら身支度を整え、食堂へと向かう。

昨日夕食を食べた同じ部屋へ入ると、すでにアラン王子は着席していた。


「遅くなりました」


謝るエマーリエにアラン王子は片手を上げた。


「いや、俺が早かったから気にする必要はない」


手に持っていた書類の束を執事に渡すとアラン王子はエマーリエに着席するように勧めた。


「手の具合はどうだ?」


「痛みで目が覚めました」


無表情に言うエマーリエにアラン王子は頷く。


「そうか、あの大怪我だからなそう簡単には治るまい。なにか不自由なことがあれば言ってくれ」


「ありがとうございます。本当によくしていただいているので十分ですよ。特にご飯が美味しいので嬉しいです」


正直に言うエマーリエにアラン王子の頬が緩んだ。

いつも無表情のアラン王子の少しの表情の変化がエマーリエには嬉しい。


「美味しく食べられているのなら良かった。ところで、午後に弟のオズワルドが挨拶をしたいと言っているのだが」


申し訳なさそうに言うアラン王子にエマーリエは頷いた。


「はい」


「手が痛むようであれば断ってもいいが」


「大丈夫ですよ」


運ばれてきた一口サイズに切られた朝食を頬張りながらエマーリエは頷いた。





「はぁ、暇だわ・・・」


与えられた部屋の時計を眺めてエマーリエはため息を付いた。

療養という目的で城に滞在をしているが、やることがなさ過ぎる。

午前中は医者の所に行き、傷口は特に感染などはしていないということですぐに治療は終わった。

薬をもらい、昼ご飯を部屋で食べてまたボーっとするという無駄な時間を過ごしていた。

アラン王子の弟との面会時間まではあと30分。

アラン王子が迎えに来てくれることになっているが、この30分が永遠にも感じるほど時間の進みが遅い。


「あー暇だわ」


いい加減座っているのも疲れてソファーに寝そべって目を閉じる。


「寝るか、食べるかしかやることが無いって憧れていたけれど以外と辛いのね」


上質な布で覆われたソファーはベッドと同じぐらい寝心地がいい。

エマーリエは一つあくびをしてそのまま寝息を立てた。


「おい、寝るならベッドで寝ろ」


軽く体を揺すられてエマーリエは目を開けた。

アラン王子の黒い瞳が目の前にあり、エマーリエは驚いて怪我をしている右手を支えに起き上がろうとする。


「痛いー」


右手に痛みが走りエマーリエは悲鳴を上げた。


「大丈夫か?」


背を支えて起き上がらせ、ソファーに座らせるとアラン王子は痛みで顔をしかめているエマーリエの顔を覗き込んだ。


整ったアラン王子の顔が近すぎて驚いて身を引く。


「大丈夫です。あれ、いつの間に寝ていたのかしら」


「疲れているのだろう。怪我をしているのだからな、オズワルドと会うのは後日にするか?」


エマーリエの背中に手を置いたままのアラン王子の言葉にエマーリエは首を振った。


「待ち疲れて寝てしまったんです、暇を持て余しているのでぜひお会いしたいです」


身を乗り出して言うエマーリエにアラン王子は頷いた。


「そうか。オズワルドとその婚約者のマドリーヌ嬢はいい話し相手になると思うぞ」


「それはありがたいです。何もしないって暇で仕方ないですね」


ソファーから立ち上がって身なりを整えるとアラン王子が腕を差し出してきた。

首をかしげるエマーリエにアラン王子は口元を緩ませる。


「エマーリエをエスコートしようとしているのだが」


「あぁ、これが噂のエスコートと言うやつですね!お母さまに教わったわ」


教わっただけで実践するとは思っていなかったエマーリエは喜んでアラン王子の腕に自らの腕を絡ませた。

アラン王子の体温を感じエマーリエは顔が赤くなる。

想像していたエスコートよりも異性との距離が近づき胸が高鳴った。

アラン王子にエスコートされながら部屋を出る。

少し歩くと、働いている侍女や騎士達がすれ違うたびにエマーリエ達に頭を下げる。

注目されているような不思議な気分でエマーリエはそのたびに軽く頭を下げたがアラン王子はチラリと見る程度だ。


「ちょっと恥ずかしいですね」


城の人たちににこやかに見られてはにかんだ笑顔でアラン王子を見上げるエマーリエ。

エマーリエの顔を見てアラン王子も口元を緩ませた。

そんなアラン王子を見てすれ違う侍女たちが驚いた顔をした。


「なんかアラン様見られていますよ」


「にこやかな顔をしている俺がめずらしいんだろ」


「そんなバカな」



そんな話をしながら庭へと向かう。

テラスにセットされた机に、金色の髪の毛の男女が座っているのが見えた。

どちらも可愛らしく、見ていて微笑ましい。


「あれが弟のオズワルドとその婚約者のマドリーヌ嬢だ」


「可愛いですね」


「まだ若いからな。マドリーヌ嬢は16歳になったばかりだ」


アラン王子は小さな声で言いながらエマーリエをエスコートしながら席へと向かう。

エマーリエ達が近づいてくると、オズワルドとマドリーヌは立ち上がって軽く頭を下げた。


「本日はお越しくださりありがとうございます。僕はアランお兄様の弟、オズワルドと申します。それと、僕の婚約者のマドリーヌです」


エマーリエも膝を折って挨拶をする。


「お招きありがとうございます」


「お怪我は大丈夫ですか?」


オズワルドは金髪で青い目で人なつっこい優しい顔をしている。

いつも笑っているようなそんな印象を受けた。


「はい、お陰様で」


マドリーヌはてアラン王子とエマーリエを目を輝かせて交互に見た。

オズワルドと同じ金色の髪の毛は綺麗にウェーブが付いており、青い大きな瞳が可愛い印象的な美少女だ。


「お怪我は残念でしたけれど、エマーリエお姉さまがお助けしたおかげでアラン様は一目惚れされたのでしょう?素敵ですわ」


「エマーリエお姉さま?一目惚れ?」


お姉さまと呼ばれたことも驚きだが、アラン王子が一目惚れをしたのかと驚いて見上げると気まずい顔をした黒い瞳と目が合った。


「そういう設定になっている」


小さく呟かれてエマーリエは頷いた。


「お恥ずかしいですわ」


それなりに貴族としてのマナーは学んでいるつもりだ。

エマーリエは平静を装ってニッコリと微笑んだ。


「私と、オズワルド様は家同士のお見合いでしたけれど一目会った時から大好きになりましたの」


マドリーヌは大きな青い瞳で隣に居るオズワルドを見て微笑んだ。

お互い微笑み合っている初々しい二人は見ているこちらが恥ずかしくなる。


「はぁ、そうですか」


冷めた目を向けるエマーリエにアラン王子がため息を付いた。


「まだ若いから大目に見てやってくれ」


アラン王子はエマーリエの為に椅子を引いて座らせると自らも隣に座った。

オズワルドたちも席に着いた。

様子を見ていた侍女たちがお菓子とお茶を手際よく用意していく。


「アランお兄様が、昨日のパーティーで婚約を決めるとは思いませんでした」


にこやかにお茶を飲みながらオズワルドが言った。


「成り行きだ」


エマーリエもその通りだと頷いてお茶を飲む。


ブレンドされたハーブティーは微かにバラの香りがして後味もすっきりする。


「母上も、レイモンド兄上も大騒ぎをしてお二人の結婚式をいつにするか揉めていますよ」


「結婚式などするつもりはない」


無表情に言うアラン王子に、オズワルドとマドリーヌが驚いて目を見開いた。

エマーリエも本当に結婚をするつもりなのかと違う意味で驚いてアラン王子を見る。


「さすがに、結婚式をしないとはいかないでしょう」


笑みを浮かべながらエマーリエの様子を見つつオズワルドが言った。


「そうですわ。ウエディングドレスは女性の夢ですもの。エマーリエお姉さまが可愛そうです」


二人に言われてもアラン王子の表情は変わらない。


「結婚はするが、式は挙げない」


「えっ、結婚するんですか?」


別の意味で驚いているエマーリエの言葉にアラン王子の眉間に皺が寄った。


「お前は、昨日何を聞いていたんだ」


「えーっと、アラン様は乗り気ではないのかなぁと」


目を泳がせてしどろもどろに言うエマーリエの耳を引っ張った。


「結婚はすると言っているんだ。分かったか」


「い、痛いです。わかりましたよ」


アラン王子の手が離れると痛みが残る耳に手を当て撫でる。

アラン王子とエマーリエの様子を見てオズワルドは心から微笑んだ。


「良かった。急に決まった結婚だったから心配していたけれど、アラン兄上がエマーリエさんに一目惚れしたと言うのは本当だったんですね」


天使のような微笑みを浮かべるオズワルド。

兄を心配して、噂の婚約者を見て見たかったのだろう。


優しい心意気に素直でいい子だとエマーリエは微笑んだ。


「ありがとうございます。アラン様と全く似ていませんね。特に、雰囲気が」


「お前は余計なことを言うな」


アラン王子にまた耳を引っ張られてエマーリエは悲鳴を上げた。



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