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夢を叶えろ!  作者: 鈴月桜
第3章 高校1年 秋冬
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第3-1話 前章そして男として

7月27日 祐輔(前章より)

西東京大会を制した翌日、恋人の彩香の自宅を訪れて楽しい時間を過ごした後、一緒に通った中学校へ、二人で思い出に浸りながら歩いた時に起こった最悪の出来事であった。


中学校前に着いた時に、グラウンドから飛んできたボールを拾いに、彩香が道路に飛び出し、車のクラクションが鳴り響いた。


それを見た俺は、まるでラクビーのタックルの様に、彩香に飛びつく。


足に激痛が走ったが、その後、頭をぶつけた時に霧がかかった様にボーっとしていた。


そして助けた時のまま横たわっていると誰かが俺の体を揺すっているのが分かった。


あれ?誰かが身体を揺すっている


「祐輔!ねえ祐輔!」


あっ!彩香の声だ。


彩香は無事だったんだ。


良かった。


救急車の音が聞こえる。


そうか、俺が車に引かれたのか?


気が遠くなり、救急車の音も彩香の声も段々と聞こえなくなっていき、俺はそこで意識を失った。



次に目を覚ますと、病院特有のベッドの上で、彩香が祈る様に俺の手を握り締めている。


俺が目を開くと、手を握っていた握力が強まり、俺に話し掛けてきた。


「祐輔!」


彩香の目から涙が零れ落ちる。


「ごめんね、祐輔ごめんね」


痛!


右足に激痛が走る。激痛に顔が歪むと彩香が


「ごめんね祐輔、私のせいで甲子園行けなくなっちゃった」



7月26日 (勝利)


幼馴染の祐輔が甲子園出場を決めた翌日、心城学園に通う僕と耕太、奈緒は自分の事の様に喜び、そして祐輔に続き甲子園へ行けるよう、高ぶる気持ちを抑えながら、午前中の練習を行った。


僕も莉乃の骨髄移植を終えて10日が過ぎた事で、徐々に練習のメニューも増えている。

昨日の莉乃からのLINEでは順調だと書いてあったので、普通に会える日が着実に近づいている事を感じる。


全てが順調にすすんでいる。


午前練習を終えると、耕太が話しかけてきた

「なあ勝利、昼飯食べて帰ろうぜ」


それを聞いて奈緒が近づいて来て

「あっ!私も行く」


この流れで断ることも出来ず、3人で近くの喫茶店に入る。

普段は13時までランチメニューの看板が店舗の前に置かれているのだが、既に過ぎているのでランチメニューの看板が見当たらない。


耕太「ランチ終わってる、別の店に行こうか?」


その言葉を聞いていたのか分からないが、店のドアが開き、マスターらしき人が声をかけてきた。


「君たち心城学園の野球部だろ?ランチメニュー用意してやるから、入っていいぞ」


その男性は、年齢40歳位、髪はオールバックで体は引き締まっており、一見怖そうな面立ちをしていた。


僕は、その怖さに戸惑っていると、奈緒が「えっ本当にいいんですか?」と怖がる様子も無く返事をした。


「おう、特別だぞ」と言って、店のドアを開けたまま店に戻って行く。


僕達は開けたままのドアを通り過ぎて、店の中に入った。


「3人ともランチでいいか?」


3人は黙って頷いた、



しばらくすると、美味しそうなハンバーグがテーブルに運ばれてきた。


「わあー美味しそう!」


マスターが「美味しいそうでは無くて、美味しいんだよ」と奈緒に突っ込む。


僕も一口食べてみると


あっうまい!


つい言葉が出てしまった。


その言葉にマスターの上舌ぶりは止まらなくなった。


散々料理の自慢や店の自慢を言い終わった時

「あれ?何で君は髪の毛がそんない短いの?」と奈緒に質問する。


4月に莉乃が抗癌剤による脱毛で面会すら受けつけず、自分の殻に閉じ凝りそうになった時に、元気付けようと彩香や莉乃の友達と丸刈りにしたのだ。


少し髪が伸びたものの、まだ3、4cm程しか無い。


その質問に勝利が代わりに答える

「ちょっと訳があって切ったんですよ」


「ふ〜ん、そうなんだ。ベンチに入ってたから、てっきり高校野球連盟の規則が変わって髪を切らなければいけなくなったのかと思ったよ」



すると奈緒が「えっ?うちの試合見に来てくれてたんですか?」


「当たり前だろ、こう見えても心城学園野球部のOBだぞ!」


そして勝利を見ながら

「ところで何で、東京三校戦後は投げなかったんだ?」


またまた説明しづらい事を聞いてくる。



この質問には耕太が答えた。

「これにも訳があったんですよ」


「訳って?」


グイグイと質問してきて、僕達は回答に戸惑っていると


3人の携帯が一斉に鳴り響いた。


いち早く奈緒が携帯を見る

「エッ!勝利、耕太、LINE見て!」

と奈緒の言い方が尋常では無い事を悟った。


僕も慌てて携帯を見ると、LINEの幼馴染グループに彩香から書き込みがあった。


(祐輔が中学校前で私のせいで車に引かれちゃった。どうしよう)



奈緒が彩香に電話をした。



奈緒が電話を終えると

「祐輔が交通事故に遭って救急車で運ばれで、A病院に運ばれたって」


耕太「マジかよ!」


3人は立ち上がり

「すいません会計お願いします」


マスターは「今日はタダでいいから、夏休み中に必ずまた来いよ」


奈緒「ありがとうございます」


3人が店を出る時、マスターが

「コーチによろしく言っといてくれ」



よく分からなかったが

「はい!」

と答えて祐輔が運ばれた病院に向かった。


江戸川区のA病院に着いて祐輔が運ばれた病室に入る。


そこには祐輔と彩香、二人の母親が病室に入っていた。


そしてベッド上の祐輔に目をやると、右足に器具が装着されている。


「その足は?」


「あ〜これか?今、手術前に引っ張ってもらってるんだよ」


「引っ張る?」


「うん、骨折した場所を元の場所に戻す様に引っ張っているみたい。詳しくは分からないけど、明日の手術まで引っ張るみたいだよ」


「骨折って?」


「膝関節内の骨折って言っていたよ」


「骨折?手術?甲子園は?」


「まあ来年も有るし、気長に治すよ」


祐輔は彩香を気遣って笑顔で返事をした。


せっかく掴んだ甲子園の切符を、手放さないとならない事は、理解出来たが、何とも複雑な心境なんだろう。この状況で彩香を気遣える祐輔の優しさを伺えた瞬間でもあった。


やっぱり祐輔は凄いなあ


素直にそう感じた。

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