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夢を叶えろ!  作者: 鈴月桜
第2章 高校1年夏
89/252

第2-32 祐輔の夏の始まり

7月24日

西東京大会の準々決勝


稲川実業対九応高校


相手はノーシードの都立高校が相手だが、シード校を破って勝ち抜いてきた高校野球ではありがちな、勢いを感じるチームだ。


相手の投手は、多彩な変化球を使い要所要所を丁寧に投げて失点を防いでいる。打線も4番の是永(コレナガ)を中心に1試合4、5点を取ってきていた。


これまでは、黒川、田村が投げて打線も大量得点を取って、危なげない内容で勝ち進んできたが、残り3試合は、大野が先発として試合を構成することになっている。


試合開始時刻である13時になった。


今日も7月とは思えない灼熱の太陽の下、両チームがホームベースを挟み整列して試合が開始される。


「よろしくお願いします!」


稲川実業が先攻の為、一旦ベンチに戻る。


相手投手の投球練習を見た限り、特別これといった凄い球を持っている様には見えないが、ノーシードのチームが勝ち上がってくるには勢いがあるチームが多く、その勢いを醸し出す何かがあるのだが


このチームは投手では無いのか?


1番打者2年ショートの紺野が左打席に入る。足も早く守備の要となる選手だ。

プレイボールの声と共に第一球を投げた。


アウトコースの低めにストレートが投げられる。


低い!


しかし審判のコールは、打者の思いと違った。


ストライク!


えっ?紺野は首を捻り、次の投球を待ち構える。


第二球目


同じコースと高さにボールが投げられる。


低いとは思ったが、バットをボールに向けてスイングすると、微妙に球が変化する。


バットがボールに当たったが、芯から外れてショートゴロに倒れた。


2番セカンドの米田が右打席に入る。


第一球目


アウトコース低めにストレートが投げられる。


あっ低い


米田は見送るがストライクの判定


この判定に、守っている九応高校の選手達の表情が変わった。



何だろう?あの喜びようは?


打者の米田は、セカンドゴロに倒れた。


続く足利が左打席に入る。


稲川実業のクリーンアップには小細工は通用しない。


さあどうする?


第一球


ツーシームだろうか?外角低めから更に下に落ちる。


慌ててバットを止める。


次の球はアウトコース低めのストレートでストライク

しかし続くアウトコースのボール球を上手く流し打ちをレフト前には立った。


そして4番の松原が右打席に入る。


松原は第一級目をライト前に流し打つ。

1塁ランナーの足利は、一気に3塁まで到達した。


ツーアウト1、3塁


しかし5番の川崎はファーストゴロに倒れて、1回表は0点で終わった。


松原が戻り間際に、

「ストレートも握りを変えて、微妙に変化させてる。意外と厄介かも知れんぞ」


本来なら中指と人差し指を縫い目に引っ掛けてボールを回転させるのだが、回転をずらしたり、回転を少なくする為に縫い目に指を掛けない。

すると微妙にストレートの軌道が変わるのだ。

ただ甘い球ならば問題無いのだが、九応高校の投手は寸分狂わず、ストライクとボールの境界に投げ込んでくる。更に低めのストライクゾーンが広い審判の癖も見抜いた事で、バッターにとっては長打を放つのは難しい。


これはしんどい試合になるかも知れない


と呟きながらマウンドに向かった。


俺の夏が始まる。


マウンドに上がり、一回大きく深呼吸をしてから、高校で完全にマスターしたトルネード投法で投球練習に入る。


1番打者が左打席に入り、「プレイボール」と審判の声が掛かり、投球モーションに入る。第一球目、大きく振りかぶり、ミットを目掛けて投げ込む。


するとバッターはセーフティーバントを試みる。バットに当たったものの打球はホームベース真上の小フライになり、キャッチャーが難なく補球した。


続く2番打者がバッターボックスに入って構えると、そのバッターの構えを見て驚いた。


なんだ?


バットを短く持ち、まるでボードゲームの野球盤みたくバットを寝かして、ボールに当てにいく事だけを考えた構えだった。

しかし金属バットだと、ボールを芯で捉えれば球は飛んでいき、ヒットになってしまう事もある。

それが金属バットの怖いところである。


それにしても、やりづらいな


ファーストの松原がマウンドに近寄ってくる。


「バットごと吹き飛ばしちゃえ!」


「分かった!」


松原の言葉で吹っ切れた。


俺は全力で投げるだけだ。


ミットを目掛けて投げ込むと、ファールされて、2球連続でファールを打たれたが、カウントはツーストライクとなり、最後はフォークボールを投げてバットは空を切り三振に切って落とす。


そして3番打者が打席に入る。


このチームは、3、4番の打率が他の選手より群を抜いていると、データーで情報を得ている。

さすがに1、2番と違い3番打者は普通に構える。


ヨシ!


2ストライク1ボール後の4球目


インコースにストレートを投げ込み、ミットに収まる。


ストライクバッターアウト!


1回の裏が終了した。


そして2回表、稲川実業の攻撃


6番から始まる打線も内野安打で一人出たが、0点に終わる。


2回裏の九応高校の攻撃


4番の新谷(1年)


左打席に入り、いかにも打ちそうな構えをしている。


1球目は様子を見てカーブから入る。


しかし、初球からカーブをフルスイングした。


カキーン


打球はファールだったが、飛距離は充分スタンドに届く大きな当たりだった。


やばいやばい、気を抜いたら持っていかれる。


続く2球目はアウトコースいっぱいに入るストレート。


新谷は見送り、ツーストライク


3球目、キャッチャーのサインは内角ストレート


強気だな


ここは全力でミットに向かって投げ込んだ。


ミットから激しい音が響く


ストライクバッターアウト!


スタンドが騒ぐ。何故なら電光掲示板には147kmの数字が表示されていたからである。

相手チームもどよめいている。


そして5番と6番は、2番打者と同じ小さい構えで立ち向かってきたが、5番はショートゴロ、6番は三振に切って落とす。


ふう


久し振りの先発で疲れるのだが、マウンドで投げる快感が、この疲れも暑ささえも心地良い。それほど投げる事に飢えていたのだと、自分でも初めて味合う感覚に驚きを感じた。


そして3回表


1番から始まる好打順。1打席目は打ち取られたものの、2打席目は綺麗に流し打ちを決めた。


2番打者が送りバントを決める。


ここで3番の足利が打席に入る。


アウトコース低めのギリギリストライクゾーンから、微妙に球は落ちてボールになる。普通ならバットを振ってしまうのだが、足利は冷静にボールを見極める。


結局足利はフォアボールを選び、1塁に向かった。


1アウト1、2塁


4番の松原が右打席に向かう。


ここは、とりあえずヒットで1点を取りに行くぞ!


どうせアウトコース低めしか投げないだろう。もしインコースに投げてきても対応は出来る!


バットを強く握り、投手が投げるのを待つ。


そして第一球目を思った通りのアウトコース低めのストレートが投げられた。


思った通りの球にライト前を狙ってバットスイングを始めた、その時

「清ちゃん!」


えっ!


その声は、紛れもない小鳥の声だ。


俺は振りかけたバットを止めた。


ストライク


声がしただろう、バックネット裏を見渡すが、広い神宮球場で満員の状況では、どこにいるのか分からない。


一旦打席を外し、もう一度スタンドを見る。


すると審判が

「君、打席に入りなさい!」


その言葉で我に帰り

「あっすいません」

謝罪して右打席に入る。


小鳥・・・


続く第二球目

再度アウトコース低めのボールだが、ボールは落ちてストライクゾーンから外れていく。


小鳥、見ててくれ!


ボールゾーンに落ちていくボールに向かってフルスイングする。


見送れば完全にボールになる球の下側をバットがとらえた。


打球はライトへ高く舞い上がる。


ライトは打球を見ながら下がっていく。

そしてフェンスまで下がるが、滞空時間の長い打球はライトの頭上を遥かに越えて行く。


ボールはライトスタンド上段まで飛んでいった。


松原のスリーラン本塁打に、スタンドの歓声が響き渡った。


1塁ベース、2塁ベースそして3塁ベースを回ってホームベースまで行く間、バックネット裏を見ながら走る。



一人の女性が背を向けてスタンドの出入口から、球場を後にしようとしている姿が目に入る。


直感的に小鳥だと感じる。


それを見た俺は全力でホームベースを踏み、そのままバックネットまで走り、球場を後にしようとしている女性に大声で叫ぶ


「小鳥!」


一瞬止まったが、再度動き出し姿が見えなくなった。


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