第2-31話 運命の5回戦
翌日(7月19日) 10時
父が病室にやって来たが、検査結果が出ていないのか退院の許可がまだ降りない。
30分が過ぎて、痺れを切らした父がナースステーションに声を掛けに行く。
父「あの〜小野ですけど、まだ退院できないのでしょうか?」
看護師が答える
「一応痛み止めを処方しているので、もう少し待って下さいね」
渋々ナースステーションを離れ、病室に戻ってきた。
その割には時間が掛かる。結局、薬を貰って駐車場を出たのは11:30を過ぎていた。
今から球場に行っても試合が終わっているかも知れない。
でも、どうしても行きたかった
「本当に試合を観に行くのか?」
「うん」
「車も混んでるし」球場に着く頃には試合が終わってるかもしれないぞ」
「分かってる、でも直接行って皆んなに感謝を言いたいんだ。」
「まあいいや。その代わり俺は勝利を球場に置いたら仕事に行くからな」
「分かった。ありがとう」
12時過ぎ、車は球場に着いた。
球場で歓声が響く。
僕はバックネット裏スタンドへの出入口を階段で駆け登り、出入口に辿り着く。
するとグラウンドが目に入る。
ホームランを打ったのだろう、選手がダイヤモンドを一周している。
その選手は近藤だった。
やったー
でも近藤の表情は曇っている。
僕はスコアボードに目をやると、9回裏に1という文字が書き込まれた。
9回裏?
相手の点数を見ると4の数字が入っている。
えっ!
続く耕太は、平凡なセンターフライを打ち、審判の大きな声が球場に響き渡った。
ゲームセット!
えっ?
負けた・・・のか・・・
僕はバックネット裏で立ちすくむ。
両チームの選手が、ホームベースを挟み互いのチームに礼をする。
ありがとうございました!
いつも感情を表に出さない川田キャプテンの目には涙が零れ落ちる。
レフトの大竹も、投手の安川も涙が零れ落ちる。
決して僕の選択は間違ってない、間違ってないんだけど・・・この罪悪感は・・・
どうしよう
皆んなの所に行く足が重い
僕は先程上がって来た階段を降りて行く。
球場外のベンチ出入口に着き、皆んなが出てくるのを待っているのだが、出てくる選手達に何と声を掛けたらいいんだろう?
さっきから感じている罪悪感が心を襲う。
逃げ出したい
ベンチに向かう通路からスパイクの音が聞こえ、徐々に音が大きくなってくる。
僕のいる出口に近づいて来た。
心臓の鼓動が激しく脈打つ
ドクン、ドクン、ドクン!
川田を先頭に選手達が大きく見えて来る。川田の目は真っ赤に充血し、泣いた後だとハッキリ分かる。
そして僕に気付いて近づいてくる。
ドクン!ドクン!
何て、何て言えば・・・・
川田が目の前で立ち止まる
「小野、ごめん!」
深々と頭を下げてきた。
!
「えっ!」
後ろに居た安川が、僕の目の前にやってきて
「ごめん、俺のせいで負けてしまった」
安川の目には涙が
「安川さん・・・」
あまりに予想外の展開に戸惑ってしまう。
そして後ろから、クチャクチャな顔をした奈緒が近づいて来る。
「ごめんね。勝利、ごめんね」
泣きながら話し掛けてくる。
思ってもいなかった展開に僕は頭を下げて
「僕の方こそすいませんでした。」
そして繰り返す
「本当にすいませんでした」
「何謝ってんだ?俺達3年はお前達1年には本当に感謝しているんだよ。去年までは甲子園なんて言葉では目指すと言ってはいたが、内心は無理だと思っていた。
ただお前達1年が入ってから、甲子園に手が届く感触を味わった。
本当にこの半年間、苦しかったけど・・・楽しかった。」
目から涙が溢れ出す。
涙を手で拭き取りながら
「ごめんな!ただ・・・・」
川田は唇を噛み締めて、その先の言葉を言わないようにグッと我慢した。
川田さんの気持ちは言葉に出さずとも胸に響いてくる。
しかし、川田の表情が優しい顔に変わっていく。
「それで、彼女を助けれたのか?」
「はい」
「そうか、俺達の今の悔しさより、その方が何倍も嬉しいよ」
川田さんの心の大きさ、優しさに僕の心は救われた。
!
涙が自然と溢れ出す。
涙が止まらない・・・
川田さん、そして選手全員に一言大きな声で
感触の言葉を伝えるのが精一杯であった。
「ありがとうございました」
今まで我慢していた耕太も、近藤の目にも涙が溢れていた。
この7月の晴れわたる暑い球場に、心城学園の選手が集まるこの場所だけ、涙による激しい雨が降り続いたのであった。




