第2-25話 筒抜けの情報
7月15日
今日は神宮球場で優勝候補No1で第一シードの東京三校と、朝8時30分からの第一試合でに臨む。
東京三校の投手は左腕エースの澤田である。
春の練習試合で大差勝ちしたチームに、最初からエースが出場するのは、監督にとっては計算外の出来事であり、エースが出る前に得点を取ろうと思っていた監督の目論みは叶わなかった。
監督の意図が分かっていたのに、マウンドを守れなかった安川は、スターティングメンバーが発表された時
「みんなごめん。俺が打たれたばかりに」
と謝罪する。
しかしキャプテンの川田さんが
「何言ってるんだよ。勝てばいいだけだ。お前は4、5回戦を頑張ってくれればいいんだよ。」
「すいません」
何かここに来て、チームが一丸になった感じだ。
よし頑張るぞ!
そんなモチベーションがMAXに達した心城学園が先攻で試合が始まろうとしている。
1番のセンター本田さんが打席に入る。
運命のサイレンが鳴り響く
澤田が第1球を投げた。
ズシンと重たそうな音を響かせキャッチャーミットに収まった。
速い!
心城学園の1回表の攻撃は、あえなく3者凡退となる。
そして1回の裏の守備
以前みた試合では、どの打者もコンパクトなスイングをしていた記憶がある。
とにかく丁寧に投げなくては
1番打者が右打席に入る。
耕太のサインはカーブ
力を抜き、アンダースロー特有の流れる様なカーブが決まる。
続くボールも同じ様なカーブをホームベースから外れるボール球だが、打者は空振りした。
そして3球目はスライダーで空振りの三振に切って取る。
続く打者は初球のスライダーを引っ掛けてショートゴロに打ち取る。
続く3番打者は川田さんの中学の時の仲間だった井上が打席に入る。
井上が耕太に話し掛ける。
「何でストレートを投げないんだ。」
「いや特に理由は無いですよ。ただ延長になっても投げれる様に、省エネピッチングをしてるだけですよ」
すると顔が怒りに満ちた表情に変わった。
井上に向かって耕太のサイン通り外角に外れるスライダーを投げ込むと、力んだ井上は当たりそこねのサードゴロに倒れた。
結局5球で1回を終えた。
ベンチに戻りながら、
「勝利ナイスピッチング。うちが点を取るまでは我慢して打たせて取るぞ。
ただランナーを背負ったら全力で抑える。」
耕太の言葉に素直にうなづく。
「分かった」
今まで守備練習を中心にやってきた選手達は、自信満々に
「そうだぜ、どんどん打たせろよ。全部アウトにしてやるよ」
と笑顔でベンチに戻った。
そして2回表
バッターは4番の近藤だ。
左対左で、相手は超一級の投手だから、今までの様に、いくら近藤でもそう簡単に打てるとは限らない。
それもホームランを期待するのは酷である。
ただ心城学園が勝つ為には、どうしても近藤や耕太の前にランナーがいなくては、点が入らないだろう。
耕太はこの試合は1点を取ったチームが勝つと思っている。
だからこそ球数を抑えて、気温が上がる球場で延長になっても投げきれる様に考えているのだった。
プレイがかかり、澤田が大きく割れるカーブを投げ込む。
ストライク!
続く2球目は外角低めのストレート
近藤のバットにボールが当たったが、ミート出来ずレフトフライに終わった。
ベンチに戻ってきた近藤は、
「ストレートが思ったより伸びていて、手こずりそうだ」
とため息をついた。
続く耕太もセンターフライに倒れた。
続いて6番も倒れ、またしても3者凡退で終わった。
2回裏
バッターは4番の1年大竹。
確かこの打者は春の練習試合でも他の選手とは格が違っていた。
でも1年だったんだ。
サインは外角に外れるカーブ
大竹に向かって第1球を投げる
カキーン!
打球はレフトスタンドに向かって一直線に飛んで行く。
えっ!
ファール
打球は左にズレてファールスタンドに飛び込んだ。
塁審の声を聞き、胸を撫で下ろす。
危ない危ない
右打者の大竹が外角に外れるカーブを強引に引っ張ったおかげで、回転が掛かりボールがスタンド側にきれていった。
次のサインはストレートだが、ホームランだけは警戒しないとならないので、外角低めを全力で投げた。
大竹は見逃し、ツーストライクとなった。
大竹が耕太に話し掛ける。
「ナックルは投げないの?」
耕太は何故ナックルの事を知っているのだろうと不思議がる。
何で知ってるんだ?
耕太はナックルのサインを出す。
インコースの膝上に投げられたボールは、ユラユラと揺れてストンと落ち、大竹のバットは空を切った。
大竹は不敵な浮かべてバッターボックスを去って行った。
それにしても何でナックルの事を知っていたんだろう?
その後の5、6番も打ち取り3者凡退で東京三校の攻撃は終わった。
ベンチに戻ると耕太が話し掛けてくる
「あの4番打者って、勝利の知り合いか?」
「えっ知らないよ」
と返事をすると、後ろから話に加わる選手がいた。
レフトの大竹さんだ。
「あっ!あの4番は俺の弟だよ」
それで納得した。
「まさか当たるとは思わなかったから、結構話しちゃった」
「もしかしてトルネード投法も?」
大竹が頷いた。
すると川田が
「まあ、話だけだから、大丈夫、大丈夫」
と明るく語った。




